ガスパー

記憶通りなら、ここの先はインフォボットの映像にあった、ガラ空きの広間。放置されたパイロットヘルメットが手に入る。

だが、やはりここも空飛ぶブラーグで一杯だ。

「私がバルルンを仕掛けていくから、合図したらさっきみたいに片付けお願いね」
「へいへい」

奴等の頭が囮に引っかかる程弱くて助かった。まず手前に設置して近くの敵を引きつけ、遠くの敵も騙すために最後の一発を手に広間を走り抜ける。

「撃ち方止め!本物はあそこだ!」
「!?」

あっさりバレた。何故。

「それはガラクトロン製のバルルングラブ。囮だ!」

声の主は、前もって映像で見たことのある白衣を着たブラーグ。いくらブラーグと言えど、科学者レベルの個体ならば風船と本人の見分けくらい簡単につくのだろう。

他のブラーグ達は手を止め、全員こちらに目を向ける。

「こりゃたまげた。ボスが言ってた、あの女じゃないか?」
「何でも、全知全能の人間だとか。武器も俺達のことも、この銀河の運命も全て知っているらしい」
「こんな所で会えるとはな」
「へー、まさにキーパーソンってやつだ。ボスに何て報告しようかな~?」
「グフフフ。そいつは慎重に、且つ上手く利用してやらねば」
「……」

非常にマズい。今ここでラチェットが飛び出したとしても勝てるかどうかわからない。横目で見ると、もう彼は出てきてしまっているが。

「くっ!…おねーさ」
「こ~れはこれは工作員ナンバー2、ボスが心配しておられましたよ?定期連絡は忘れずにと、あれ程念を押したと言うのに!」
「工作員…?」

いきなりペラペラ喋り出したのは、先程バルルングラブを見抜いたインテリブラーグだ。ラチェットは広間に出て2、3歩のところで足を止める。

「そう、工作員です。まさかご自分の任務をお忘れで?」
「ま、待って!何の話?」
「さっきの奴等と、言ってることが違うッス」
「それもその筈、ボスの元で働く研究員であるこのワタクシと下っ端とでは、認識に差が出ることは当然。いやしかし、貴女が指名手配犯の仲間のフリをする必要はもうありません。早急に本部に戻るようボス直々に言づてを預かっております」

よくもまあ次から次へと姑息なデタラメを。しかし、そんなものでも今のラチェットにとっては効果絶大だった。

「何だよ……何だよそれ…騙したの…?おねーさんも!?おねーさんもオイラに嘘ついてたんだ!!」
「いや違うって!私がブラーグの仲間な訳無いでしょ!?」
「何を仰る。そのボスから手渡された通信機が何よりの証拠」

ポケットに指している携帯電話。勿論日本製だ。

「それも怪しいと思ってたんだ!」
「ちょっと待ってよラチェット!私より今会ったばかりの敵を信じるの!?」
「……」
「……」

こういう時に限っていつもお喋りなクランクは口を出さない。

「……ああ、そうだな」

そう言って手に持つレンチをブーメランにし投げつけたのは、嘘つきブラーグの方だった。

その拍子に周りの敵が一斉にラチェットへ襲いかかるが、ずっと握りしめていたバルルンの弾を投げて気を引き、今まで通りに片を付けることができた。

「おねーさんの言う通り、おかしいよね。悪かったよ、疑ったりして」
「あ、ああ…いいよ、私も怒鳴っちゃったし」

かなり反省しているらしく、耳が極限まで垂れ下がっている。

ラチェットの耳が下がるのは、機嫌が悪い時や体力が限界まで落ちている時。そんな彼は、見ているだけでも気が滅入る。

「でもさ」

リーダーの目はいつ見ても本当に真っ直ぐだけど、今はどこか揺らいでいる。

「本当に……信じて、良いんだよね?」
「私は故郷と家族をビッグバッドボスに奪われたんだよ?奴は私の敵!んでもって、私は奴の敵!」

ブラーグの資材か何かであった大量の木箱を壊す。

「それに、貴方達の味方。私、ラチェット好きだし」
「ハァ!?」
「クランクもね。ほらっ」

拾ったパイロットヘルメットを下投げしてやる。

「そういう意味でかよ…」

また耳が下がった。

「ウヒャヒャヒャヒャ」
「笑うな!」
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