アース

「まったく、ねえさんも無茶するッスね」
「まあね…ハハ…」

無事安全地帯まで戻ったは良いが、腰抜けた。まだ足がガクガクする。心臓バクバク。当たり前だ、ひょっとしたら死んでいたかもしれないんだ。

訳のわからないまま死んでたまるか。

「助かったよおねーさん、ありがとう」
「さっき助けてもらったから、お返し…ね」

ラチェットはもうピンピンしている。彼は逃げているだけでダメージは受けていなかったんだな。安心したような悔しいような。

「いやぁ~、危機一髪だったな!大したもんだお嬢さん、おじさんすっかり惚れちゃったよ~」

画面越しだからって呑気なもんだおじ様、お嬢さんはすっかり気が抜けちゃったよ~。

「…へへ…嬉しいこと言ってくれるじゃないですか…」

でも、安心できる場があって本当に良かった。しばらく緑の店員と話していると落ち着いてきた。

「どうだい!今度デートにでも行か」

モニターが箱に戻る。

「ちょっラチェット!お店閉めたら敵が…」
「平気さ、おねーさんがお喋りしている間にみーんな倒しちゃったからね!」

確かに辺りは綺麗さっぱり。

にしても、言い方が皮肉っぽい。何か悪いことしただろうか?サボってないで手伝えってか?空飛ぶ宇宙人と戦えってか?

「ワタシのチョップ、見所だったんッスよ。見逃したッスか?セヤッ、ハッ」

すごいすごい、と褒めてやったら調子に乗ったらしい。

「次に敵が来たら、ワタシがねえさんを助けてあげるッスよ!」
「クランク。水を注すようで悪いけどさ、オイラ達の目的は何?まさか忘れてないよな?」

ラチェットは先程から機嫌が悪い。まあ、感情をあらわにできるということは、彼がこちらに気を許してくれている、ということにしておこう。

「忘れる訳無いッス。ビッグバッドボスの計画について探るために地球に来たッス」
「そうだおねーさん、クォークって人見なかった?」

ああ、あの逆三角か。私のメモリーカードの中では、奴は既に‘スティーブ’である。

「えーと…」

彼は今バクダンしか使わないし、クランクのプロペラで空を飛ばない。

「誰、それ?」

とっさの判断でとぼけた。この子は多分‘初期の’ラチェットなのだろう。あのヒーロー、実は悪役だとバラすには抵抗があった。

「知らないの?おねーさん、キャプテン=クォークは銀河のヒーローなんだぜ!」

まあ‘今の’ラチェットならそのようなことを言っても信じないだろう。この頃のラチェットはまだ素直で可愛いし。とりあえず、会話が不自然にならないように気をつけて、

「ガラメカのことは詳しいのに、キャプテン=クォークを知らないッスか?」

このロボ、余計なことを。

「家にインフォボット無くて…銀河の有名人とかには疎いんだ」
「そうだったッスか。これは失敬ッス」
「あのねあのね、先週のクォークは」

実際に目の前にすると、ラチェットもクランクも可愛いものだな。

「ラチェット、水を注すようで悪いけれど、ワタシ達の目的は何ッスか?」
「…ハイハイ」

まあ、いつまでも彼らをこの星に足止めさせる訳にはいかないし…名残惜しいけれど。

「それじゃあ、頑張ってね」
「おねーさん、どこか行くの?」
「うん、一旦家に戻ってみようかと。家族もい」

ラチェットが首元スレスレをジャンプして行った。直後に聞こえる、十数分前と同じあの断末魔。そしてボルトの集まる音。

「心配だから、その家に帰るまで護衛してあげるよ。良いだろ?クランク」

背後を取られていたなんて、全然気が付かなかった。

「仕方無いッスね」

バクダンを持っているのに、私は弱いらしい。

「…ありがとうございます」
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