キャナル

手術台のようなベッド以外特に内装が無いトレーラーに乗り込むと、我らがキャプテンは既に起きていた。水浸しの三人をヒーローらしく大らかに出迎え、その後も予想に反して丁寧な対応が続く。

「ハイハイハイハイ、知ってるよぉ。勿論、そちらのお嬢さんのこともね。故郷を追われてさぞ大変だったろう?」

これは元のゲームには無いセリフ。新キャラに合わせて少し変化したのだろう。きっと、ほんの少し。

「来てくれてありがとう、キミ達。もう耳にしているとは思うが……今、我々の星を切り取り、新惑星を創ろうとする計画が進んでいる」
「ラチェット!ねえさん!キャプテンはもう知ってるッス!」
「すっげー!もう任せとけば安心だ。おねーさんの星も…ちょっとおねーさん、もっとシャキっとしてよ」

リーダーにお叱りを受ける。それもそうだ。言われるまで私は壁に寄り掛かって腕を組んでいた。偉大なるヒーローから話を聞く一般人の態度じゃない。

「いや、楽にしてもらって構わないよ。それより!今、事態はとーっても深刻だ。この計画はかなりのスピードで進んでいて、キャプテン・クォークの力だけではこの宇宙を救うことは難しいかもしれない…」

茶番始まった。

「そんな!キャプテンでも無理なの?」
「ああそうさ。だから是非ボクと一緒に、力を合わせて戦ってほしい。特にラチェット。キミにはヒーローの素質がある。ボクにはわかるんだよ」
「本当!?」
「本当さ」
「またまた有名になれるチャンス!」
「ん?有名?あー、まぁね。まあコレを観てよ」

偽ヒーローはインフォボットを取り出し、ヒーロー育成施設と銘打ったトラップだらけの要塞の宣伝動画を再生する。

「……」

何度聞こえの良いコマーシャルを観たって、あのクォークアジトQはヒーローの卵を殺しにかかっていることに違いは無い。

「……」

少し気になったが、私もこのコースに参加可能なのだろうか?ヒーローの卵にカウントされているのだろうか?

君はお留守番、なんて言われたら……今は素直に従うしかない。まだこいつはラチェットにとってのヒーローだから。

でも留守番の司令が無ければ、なるべくラチェットとクランクについて行きたい。自分にはナノテックを出せるアイテムがあるし、もしそれが無くったって出来る限りサポートしていきたい。

「え?」

動画が終了した辺りで、何故か腰に装着していた携帯電話からナノテックの光が放出されてしまった。行き所のない光達は、体力に問題無いラチェットとクランクの周りを飛び回っている。

「おねーさん、いい加減にしろよ。今大事な話してんの!」
「違う、勝手に出てきたんだって」
「おかしいッスね、回復は済んでいる筈ッス」
「…やはりな」

小さな声でクォークはつぶやいた。敵キャラには、このアイテムのことあまり知られたくなかったのに。

「さあおいで」

携帯をアーマーの内側に隠していて、クォークが目の前まで来ていたことに気が付かなかった。ヒーローの肩にいきなり担ぎ上げられる。

「やだっ何!?離して!」

いくら暴れても、胴に回されたその太い腕は微動だにしない。

「クォーク、何してんの?」
「彼女には囚われのヒロインとして参加してもらうのさ」

待て。それって、救出されるまでこいつやブラーグとずっと一緒ってこと!?

「それは嫌!それだけは嫌!!」
「その方が気合いが入るだろう?」

ラチェット、クランク、断って!

逆向きに担がれているので二人の顔は見えないが、きっと仲間のピンチに戦闘態勢をとってくれている筈。

「うーん、確かに」
「は?」
「これも訓練の一貫なら、是非お願いするッス」
「ちょっと待って、やだ!やだよラチェット!クランク!」
「すぐ迎えに行くから、おねーさんは大人しくしてなよ」

強制的に別行動。何てこった。

「それでは!ボク達は秘密基地で待ってるよ」
「またねーおねーさーん」
「ちゃんとヒーローの言うこと聞くッスよー」
「まじかよ…」
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