キャナル

「フフ、にぎやかねぇ、主人公さん方は」

ロボットを清掃し終えた家主は脱衣所へ戻ってきて小さくつぶやいた。背中流してあげるだの自分で出来るだの、扉の向こうでじゃれあっている客人の声が微笑ましい。

「やーめーろーよー」
「うん、思ってた通りの感触」
「耳ひっぱるな!尻尾も!」

それを余所に、彼女はカゴへ脱ぎ捨てられている服を持ち上げた。何かの体液やら返り血やら何やらが染み着いている。

「あらあら、かなり…」

かなりの悪臭に思わずカゴへ戻した。が、ある違和感から女性物のトップスを手にとり、先程よりももっと小さくつぶやく。

「……これなんか、かなり汚れているわね」

その十数分後、私は親切な受付嬢を少しだけ疑ってしまった。

「無い…!」
「何が?」
「服!私の服が無いの!」

ラチェットの服や装備品は綺麗になってカゴに入っている。その一方で、自分の服は下着すら無い。あるのは携帯だけ。

「まさか、あの人が……でも…」

あの彼女が盗っ人なら、携帯やラチェットの持ち物も一緒に無くなっている筈だろう。まず携帯含め金品から無くなっていく方が自然だ。

「…まさかね」

それに、相手は厚意で寝床や食事を提供してくれている。疑うことはやめた。

「まだ洗ってくれてるんじゃないの?おねーさんの服、洗いにくそうな素材してるもん」
「そう?」

とりあえず、ラチェットに差し出されたバスタオルを体に巻く。

「それに動きづらそうだし」
「どこかのピッチピチスーツのヒーローみたく機能性重視してないからね」
「それもしかしてクォークのこと言ってる?」

彼の機嫌が斜めになる前に脱衣所の扉が開いた。

「アラ、もうあがったのね。ハイ」
「え?」

バスタオル一丁女へ差し出されたのは、最先端技術によって数分で洗濯が済んだ洋服。ではなく、ラチェット&クランク2で登場した盗賊もといアンジェラが着ていたようなアーマードスーツ。

「サイズが合うと良いんだけど」
「わざわざありがとう。じゃあ、ちょっとの間借りますね」
「いいえ、それはアナタにあげるわ」
「え?」
「スッゲー!おねーさん、それ最新式のアーマーだよ!」

衝撃を何パーセント吸収するだの、水中移動がどうの、湯上がり直後の工学ヲタクが更に熱苦しくなる。

「そんな大層なもの…良いんですか?」
「ええ。ワタシからの、せめてのお詫びよ」
「?」
「実は……アナタの着ていた服は処分してしまったわ」
「へー」

処分?

「えっ」
「勝手なことをしてごめんなさい。長旅での汚れは勿論、さっきのレースでも沢山破けてしまったみたいで……どうにも修復できそうになかったのよ」
「……」

どう返事をして良いものかと何とも言えない気持ちで隣をチラ見するが、ラチェットも同じような顔、というより、こちらに回答を託すような顔で見つめてきた。

「……」
「本当にごめんなさい。代々品なんかで許してもらえるとは思っていないけれど」
「いやいや、謝らないで。着られなくなった服を代わって処理してくれたんでしょ?しかもシャワーやベッドまで貸してもらっちゃって。ホント、感謝してもし切れないくらいだから!」
「あと食事もね。おねーさん、オイラ腹減ったよ。さっさと食おうぜ!」
「あんた…世話になってる分際で“食おうぜ”って…」
「フフ、ありがとう。坊やの言う通りね、すぐ用意するわ」
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