キャナル

野次馬がまばらになってきたレースの終わりがけ。ラチェット達はそろそろクォーク探し再開のため広間を離れようとしていた。

「やっぱスキッドかっこ良かったー!」

ラチェットの興奮はまだまだ収まらない。

「すっげーテクが超クール、よね」
「まさにそれ!」
「彼の技術は素晴らしいッス。ラチェットも見習うッスよ」

クランクの言う通り、ここでプロの滑りを見学しておけば、後に別の惑星でのホバーボードレース出場時に参考にできるだろう。

「へいへい。またレースに参加する機会があればな」
「ちょっとアナタ達」
「…はい?」

ごく最近聞いた覚えのある色っぽい声に引き留められた。

「私らですか?」
「ええ。アナタ達、観光客か何か?少なくとも、この辺の出身じゃないでしょ」

その声は広間の中央から。ヘソ出しスタイルのホバーボードレース受付嬢のものだった。

「ああ。オイラ達、船で別の星から来たんだ」
「やっぱり。見ての通り、ここは治安が悪くてね。よく観光客が被害に遭うのよ。しかもホバーボードレース観戦からの帰りがけ、今の時間帯が一番危ないの」

レースの最中も生死を分かつ程危なかったけどね。

「だからアナタ達、今日はワタシの家で休んでいきなさいな。疲れてるんでしょ?」
「マジで!?今日の宿ゲット!ラッキー!」
「ちょっとラチェット!」
「何さ」
「あんた少しは…!」
「あら、遠慮すること無いわよ」
「でも…」
「ほら、向こうもそう言ってることだしさ」

二人が揉めている間、親切な受付嬢は辺りをひと睨みする。今晩食べ損なった獲物をしつこく狙う不良共は諦めて散り散りになった。

「お心遣いありがとう、でもその気持ちだけで十分です。私達こう見えても急いでるんで…っ!?」

気丈に去ろうとしたのに、何もないところでつまづいてしまった。

「ん……あれ?」

立ち上がろうにも、何故か脚に力が入らない。

「おねーさん?」
「待って…」

忘れかけていたが自分は地球人だ。ついこの間までは易々バック転なんか出来なかったし、ゲームキャラのようにいつまでも走れる持久力も無かった。だからこそ、戦いに慣れた今の自分なら、多少無理をしても大丈夫だと思っていた。

「どっか怪我してんの?」
「いや、そんな筈は…」

気が付かない内に疲れがたまっていたらしい。

「立てるッスか?ゆっくりで良いッスよ」

こんな時こそ、我が“携帯”の出番じゃないのか?

「くそっ…!」

相棒を握りしめても反応無し。結局、大して使えないのか。携帯も。自分も。

「ホラ、フラフラじゃないの。何を急いでるのかはわからないけれど、それと同じくらい、自分の身体を労ることだって重要よ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて…」

ただ幸運にも、スキッドといいこの女性といい、対人関係においては奇跡が続いている。

差し伸べられた細い手を借りて何とか立ち上がった。
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