キャナル

結局リタイアしてしまった。ひとまず会場に戻り、見物人をかき分けながらクランクを探す。

「こっちッス、ねえさん!無事で何よりッス」
「よし、逃げるよ」
「へ?」
「クランクは早くラチェットの背に!」
「何をそんなに焦っているッスか?」

あの走者の中の誰が優勝しても、今夜の自分は禄な事にならないだろう。ならば逃げるが勝ち!

「結果発表聞いてかないの?一応さぁ」
「いいから!今の内に抜け出すよ」
「えー…」
『優勝は…スキッド・ミックマークス!』

その聞き覚えのある名に、ここを後にしようとしていた三人は思わず振り向く。

「今の…聞いた?」
「…うん」
「スキッドって、あのスキッド…?」

アリディア出発後は続編まで登場しない筈のキャラの名前。何故今ここで出る?

「信じらんない…」
「スッゲー!参加してたんだ、オイラ気づかなかったぜ!ていうか、おねーさん一緒に走ってたんでしょ?」
「いやー、皆似たような格好してるから…」
「二人とも、そのスキッドがいらしたッスよ」

優勝賞品のターボチャージャーを片手に、チャンピオンは堂々とラチェット達の前に現れた。

「よぉネーチャン達」
「優勝おめでとうスキッド!怪我はもう良いの?」
「ああ。そこらの素人と一緒にされちゃ困るゼ。ホラよボウズ」

そう言ってラチェットに優勝賞品を投げ渡した。

「オレはもういくつか持ってるからな。やるよ」
「ラッキー!」
「太っ腹ッス!」

喜んでいるラチェット達を横目に、スキッドは真横に来て立ち止まった。

「あんまムチャな賭けすんなよ?」
「えっ」

彼は意味あり気に言い残してその場を去ろうとする。

「待って!まさか、私のために…?」
「オレが言いてェのは、この銀河は‘楽しい’だけじゃやってけねぇってことさ」
「は?……ちょっと、まだお礼を」
「無し無し!スターは忙しいんだ、これから次のレースがあるからよ。じゃあな!」

振り向かないまま手をひらひらさせながら人混みの中に消えていってしまった。実にあっさりとした別れだ。

「……」

‘楽しい’だけじゃやってけない。

楽しい冒険。
楽しいお喋り。
楽しい戦闘。
楽しいホバーボードレース。

今自分がやっていることに対して、危険や不都合がそれなりに伴うことくらいわかってる。わざわざ登場キャラクターに言われなくても。

「……」
「おねーさん“賭け”って何?」

貰ったばかりのホバーボード付属品を脇に抱えながら少し怒り気味にラチェットは尋ねる。

「あー…その、レースで優勝した奴の言うことを聞くっていう賭けを、ナンパ野郎と」
「オイラに黙ってそんな勝手なことすんなよ!」
「ごめんって」
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