キャナル

ゲームと違い、現地の星人達で賑わうホバーボードレース受付兼モニタ越しの観戦会場。

初の出場を最下位で終えて会場へ戻ってきたラチェットは、あまりの驚きで脇に抱えたボードを落っことす。

「ええ!?おねーさんもマジで出るの!?」
「無理って言いたい訳?」
「冗談でしょ?オイラは反対」
「さっきは賛成してくれてたじゃない」
「レース出てわかった、オイラ達に優勝は無理だよ。実況で見てただろ?生きて帰れるのが良いとこさ」
「ワタシも同じ意見ッス」

彼女の隣に立っていたクランクも経験者側の足元にまわり警告する。

「恐らくかすり傷では済まないッスよ。いくらその通信機で回復できるからって、危険すぎるッス」
「武器があるから大丈夫。私にしかないもので戦うよ」
「おねーさんにしか無いもの?」
「一体何のことッスか?」

他の出場者がすれ違い様にからかってくる。

「そのイイケツだろ?」
「俺はおっぱ」
「負けん気」

爆発音と共に出場者が二名減った。

「確かに」

青ざめたラチェットは持っているホバーボードを即座に差し出す。

勿論、気持ちだけで勝てるものではない。それなりの運動神経や経験が必要。今のラチェットには優勝は無理だろう。

しかし。変な言い方だが、ここに来る前にラチェットを使ってラチェット以上にレースに出場してきている人物なら。コースを網羅している私なら。ラチェットの上達を待たずして優勝を手にすることができるだろう。

少々‘干渉’が過ぎようとも、ストーリーを少しでも早く進めるためには、人類を少しでも早く助け出すためには、自分が行くべきなんだ。

「じゃ、ちょっくら行ってくる」
「気を付けなよー!」

そういえば優勝賞品は何だっただろうか。ストーリーを進めるために必要なものだったのか、いまいち思い出せない。

スタートラインにて、ラチェットから前に聞いたボードの使い方を確認しながらゲームのムービーを思い出そうとする。

なかなか開始の合図が出ない中、他の選手があくまで自然な流れでぴったり横についてきた。アリディアで遭難していた宇宙人に見てくれはそっくりだ。

「ヨォネーチャン、さっきの見てたゼ。強気な女はキライじゃねぇ」

声や言葉遣いもそっくりだ。

強気な女のせいで選手二名が棄権したため、欠けた分の出場者を募っている間スタートラインに待たされている選手達は暇で雑談を始める。

「そりゃどうも」
「それになかなかのイイ女だなぁ。どうだい?このレースでオレがアンタに勝ったら一晩ツキアってくれヨォ」

なぜそうなる。

「…はぁ~、プロがルーキーに勝ったら?その条件ってハードル低くない?」
「自分はそんなに安くねぇってか。なら、オレが優勝したら言うコト聞いてくれるか?」
「オーケー。じゃあもし私が優勝したら、別の意味で付き合ってもらうけど?」
「面白レェ」

しつこすぎて適当にあしらうつもりが、周りにも聞こえていたらしい。

「オイ、オレらも混ぜろよ」
「優勝したヤツがアイツを好きにデキるってよ」
「マジかよ、たまんねえな」

何だか話が勝手に広まりとんでもないことになってしまった。

「フン!」

今更引き返せない。ならば優勝するまでだ。

「勝てば良いのよ、勝てば」
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