ネビュラG34

手に入れたばかりのグラインドブーツを早速使って、船を停めた所まで降りていく。

レールを覆う壁はガラス張りになっていてBBステーションや近くの星を一望できるが、ラチェットは進路方向だけをぼーっと見つめていた。

「なあ、これからどうしようか」

ラチェットの声は錆びたレールを滑り降りるとどうしても出てしまう摩擦音に負けてしまいそう。

「もう一つ、シップの近くから潜入できそうなルートがあったッスね。探索前にも確認したッスが、あの先は真空空間になっているからワタシ一人で」
「違うよ。おねーさんのこと。あの調子じゃ戦えそうにないじゃん。それに」

彼女を中で待たせているあの船は借り物なので、今後嘔吐物の臭いがこびり付くのはまずい。換気してくれていることを願う。あと湿っぽい空気も御免だ。

「そうッスね。ねえさんはひとまず、安全な星を見つけて信頼できる人物の下で待機させるのが一番ッス。それまでは我々のシップでお留守番ッスね」
「そう……だよな」
「残念だけれど……そうするしかなさそうッス。それより、もうすぐ出口ッスよ」

気分が浮かないままレールから飛び降りれば、着地先には両手を広げて待ち受ける満面の笑み。

「うわぁ!?」

別行動が久々なこともあり、避けられる筈もなく捕まえられた。

「おかえり!」
「た、ただいま…」
「よし!」

とりあえずの返事をすると頭を一撫でされすぐにストンと降ろされた。

「お、新しいガラメカじゃん。似合ってる~」

お世辞を言う余裕を見せつけられるが、目を合わそうとせずすぐ振り返られてしまう。

「おねーさん」

背から降り立ったクランクと目を合わせながらラチェットは恐る恐る声をかけた。

「その……もう、大丈夫なの?」
「なーに言ってんの!いつまでもくよくよしてらんないよ。人間が本当に食べられちゃう前に、私が頑張って助けなくちゃ!さあ、ここであと探索していないのはあっちだけだよ、行っておいでクランク!」
「ウ、ウイッス!」

二人は言われるがままに駆け出していった仲間を見送る。

「気を、付けて……そっちは、私はついて行けないから……」
「……」
「……」
「あのさ、上手く言えないんだけど…」

頬をぽりぽり掻きながら、それでも真っ直ぐ相手を見て言う。

「オイラ達はおねーさんを頼りにしてるし、だからおねーさんもオイラ達を頼れよな」

私はあなた達の味方だし、あなた達は私の味方だからね

「…!」

いつぞや自分がクランクにかけてやった言葉を思い出す。思わず振り向くと、びっくりさせてしまったのかうろたえ始めた。

「ラチェット…!」
「っ…どこでもいつでも頼れってこと!」

居たたまれなくなった彼は彼女をフロアに残し一人でシップにこもってしまう。

「……ありがと、ラチェット」

今恥ずかしがっているリーダーへわざわざこの言葉を伝えようとは思わないし、それにしばらくは綺麗な星空を見ていたい気分だ。

「おねーさーん!」

数秒前の羞恥心を吹っ飛ばしてしまう程の何か面白いものでも見つけたらしい、インフォボットの首根っこを掴んで駆けてくる。

「見ろよコレ!」

次に向かう星では人が簡単に食べられ、死んでいる。が、この子供が急いで伝えたかったのはそんな事実じゃなかったらしい。

「このスライムの化け物、おねーさんみたいじゃね!?ウケるんだけど!」
「……は~ぁ」

かなり幼稚な照れ隠しに思わず顔を覆う。こいつ絶対モテないぞ。
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