ネビュラG34

あの後貨物船は破壊せずに戻り、まだ気分の優れない彼女には自分らの船で待っててもらうことにした。

よって今は一匹と一台の探索。

「なあ…クランク」
「前見るッスラチェット!」
「うわわっ毒ガス!危なかったぜ」

軽いアスレチックの天辺で一休み。

「…どうしたッスか?さっきから動きが鈍いッス」
「わかる?」
「何か気がかりッスか?」

体力はそこそこ残っている筈だが、彼の耳や尾に元気が無さすぎる。

「その、さっきのこともオイラだってショックだけど、さ!」

スイングショットで飛び移った先の敵に一撃。また立ち止まる。

「なんでおねーさんは、オイラには本当のことを喋ってくれないんだろうって」
「わからないッスか?」
「わかる訳無いさ」

これはあくまで自分の推測だが

「ラチェット、乙女心ッスよ。儚く淡い乙女心ッス」
「何それ、わかってたまるか」

彼女はこの、おねーさんが乙女~?ゲェー!オイラまでゲロ吐いちゃうよ、なんて言っている鈍いリーダーに離れてほしくないのだろう。

行動も、心も。

彼女自身は果たしてそれに気づいているのだろうか?

話によると、彼女はこの世界に関する知識をほぼ網羅している。

ずば抜けて戦闘能力が高いとは言えないが、効率の良い戦い方なら知っている。敵の倒し方も知っている。良い未来へ導く方法を知っている。

言い換えれば“キーパーソン”

その彼女がもし敵にさらわれたら。

敵側の直すべき欠点も知っている。我々の倒し方も知っている。悪い未来へ導く方法も知っている。これが、考えただけでもぞっとする、というやつなのだろう。

だが、そんなことはこちらの言い分だ。ねえさんが本当に心配していることは、



ラチェットが私を“レアアイテム”扱いするのではないだろうか、ということ。

洗いざらい話してしまったら、今までと同じように接してくれなくなるだろうか。

確かに私はこれから起きる出来事を把握している生き物だ。そして、弱い生き物だ。

だからといって特別扱い、心遣いは御免だ。

“下がってて”
“ここで待ってて”
“隠れてて”

“この星はどう進めば良いの?さっさと教えてよ”
“おねーさんが居ればラクショーだな”
“覚えてないの?使えないなぁ”

これから先、こんな何気ない言葉達が突き刺さるのだろう。

安全なところから指示だけ出してりゃ良いってか?知識提供だけしていれば良いってか?

私だって戦えるよ。

たしかに死は怖いし、さっきみたいにショックなことだってある。けれど自分の手で何もしないままで終わりたくはない。何か出来る可能性を潰したくない。

有利なアイテムだからって割り切らないで、離れないで。私もこの世界の住人なんだから。ビッグバッドボスを倒したい。その思いは一緒だから。
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