ネビュラG34

こちらがスイッチを見つけて扉が開いたのと、あちらが力業でコンテナの一部を剥がしたのはほぼ同時だった。

「……二人とも、どうしたッスか?」

声が出ない。

動けない。

「何固まってるッスか?」

だって。

元知識の方ではここは軍艦だったし、てっきり武器や弾薬とご対面かと。

「何って……人間……おねーさんの方も?」

ラチェットも同じ理由で固まっていた。

連れている女性と同じ種族がぎゅうぎゅうに閉じ込められている。中身はみんな身を縮めて眠っていて、こじ開けた隙間から光が射し込んだにも関わらず誰もピクリとも動かない。首輪や人が丸々入るカプセル等の拘束は一切無い。ただ詰め込まれているだけ。

「おねーさんが助けたいって言ってた人間だ!クランクも見ろよ!こんなところに閉じ込められていたのか」
「フム、どの人も生体反応はあるッスね。ただ、昏睡状態に陥っているッス。体温も極めて低いッス」

監禁されているというより、まるで保存されているようだ。

「ねえさんの星から拉致されてきた人間と考えて間違い無いッスね。地球の規模からすると、人間全員はこの船に乗り切れていない可能性が高いッス。他の人間がどこに連れて行かれたか知りたいところッスが、この状態じゃ何も聞き出せそうになくて非常に残念ッス」
「クランク」

反対側から視線はコンテナのままで名を呼ばれる。声色は心なしか冷たい。

「おい言い過ぎだぞ。分析はそれくらいにしておいて、おねーさんに謝れよ」
「ねえさん、申し訳無いッス、その……配慮に欠けていたッス。まずは目的一段回目達成、おめでとうッス」

リーダーが察してフォローしたが、呼ばれた意味は少し違っていた。

「クランク、違うの。これ。見て」

中身が発覚してからどうも彼女はテンションが低すぎる。

二人は言われた通り、正規の開け方をしたコンテナの中身を見に反対側へ来た。

こちらにも同じく人間が入っているが、扉が大きく開いているので中の冷気がより漏れ出していて足元がひんやりする。そして、奥の内壁に貼られたラベルのイラストがよく見える。

「ラチェットも、わかるでしょ。使い道が」

よくマンガで見かけるコミカルな骨付き肉。それだけ。

でも十分わかった。何のために地球人がブラーグに連行されたのか。

「なあ、これって、ブラーグの粋な冗談……じゃないよな」

この状態じゃ、に限らず、ビッグバッドボスを倒さなくては永遠に何も聞き出せなくなる。非常に残念ッスどころではない。

「クランクは、どう思う?」
「……ブラーグが新惑星に移住したら、まずは食糧を確実に確保する必要があるッス。その星での食糧生産量がブラーグによる消費量に追いつくまでは……他から“食べ物”を持ち込んで凌ぐッス」
「食べ物か……ねえ、お願いがあるの」
「わかったよ、この船の破壊は止めとく」

まだ生きている人間諸共破壊は流石に気が引けるようだ。血も涙も無いキャラクターじゃなくて良かった。

だけどそうじゃなくて

「それと、絶対奴らを倒してみせるッス!」
「それはおねーさんも一緒に、だろ?この人達、どうしようか?連れてく?」
「今無理に連れ出しても、問題を根底から解決したことにならないッス。ブラーグの管理から外れれば彼らの身体に問題が起こるかもしれないし、ビッグバッドボスにバレたら他の人間は助け出せない場所に隠されてしまう可能性があるッス。そして何より、お荷物が増えれば我々が行動しにくくなるッス。新惑星が完成するまでは、このままにしておくのが無難ッス。……あ、えっと、心苦しいのは山々ッスが、それが良策ッス」

気を遣ってか、クランクは自分自身でフォローするようになった。その一言があれば、こちらとしても気分的には有り難い。

だけどそうじゃなくて

「違う……お願い……どっちか、エチケット袋、持ってない?」
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