ユードラ

「へー!これ弾薬要らないんだ」

近場にいた雑魚敵が一匹、もとの形を保ったまま発射されて消し飛んだ。工学オタクは手に入れたばかりのサックキャノンをまじまじと見つめる。

「ラチェット…」
「んー?」
「さっきはその、もたついてばっかでごめん」

自分も戦いたいとは言ったものの、実際は足を引っ張るばかり。せっかく身体能力が上がってきているにも関わらずだ。

「気にすんなって」

こんなことでは、私だけあのシップで留守番している方が良いのではないか?効率やリスクを考えると、そうする方が断然良いだろう。

「おねーさんもコレ使ってみる?」
「……」

そもそも、私が探索について行く目的って…?

「あ、でもオイラが最初だからね!」
「……」

地球を、人間をめちゃくちゃにしたビッグバッドボスを倒したい。この子達を手助けしたい。助言したい。何かをしたい。

けれど、自分が死んでしまったら意味が無い。

「ねえさん、どうしたッスか?」
「……」
「おねーさん!」

ラチェットの鋭い声で我に返る。

「一日に何回ぼーっとすれば気が済むの?……いや、逆だな。何か考えてんだろ」
「大した事じゃないよ」
「ま~た隠し事」
「違うって。ただ、私の戦い方が下手なせいで迷惑かけちゃってるなーって落ち込んでんの。だから…私は船で待っている方が良いんじゃないかって…」
「おねーさんはよくやってるよ。何が不満なのさ?」
「不満…?」
「質問に質問で返さないでくれる?」

ラチェットはうんざりした様子だが、結局は教えてくれる。

「痛いのが嫌だとか人類を助けるのが面倒だとか、そういうのは感じない。おねーさんから感じるのは、ここはこうすれば良いんじゃないかしら~とか、これはこうすべきよ~とか。すっごくエラそうな上から目線」

不満じゃなくて、助言のつもり。だったのに。今までのは全部ねじれにねじれて伝わっていたというのか。

「それにさ、戦い方が下手って、一体何と比べて下手なの?」

実はゲームで予習しているのよ!と理由を全部話してしまえばそれで済みそうだけれど、なぜか言いたくない。言えない。それがなぜなのか、自分でもわかりそうでわからない。

「……」
「事情を言いたくないならもう別に良いよ。リーダーが頼りないのはおねーさんのせいじゃありませんから~!」

言ったとしても、頭に血が昇っているラチェットは信じてくれるだろうか?冷静に受け止めてくれるだろうか?

彼は私のせいで今いっぱいいっぱいだから。

「たださ、相談しないんだったら自分の中だけでさっさと解決してくんない?そのせいで迷惑かけられちゃ、こっちの身が持たないよ」
「うん…ごめん」
「もしそれで、オイラが死んだら……誰がおねーさんを守るのさ…」
「え…?」

違った。

彼は自分のことじゃなくて私のことを心配してくれている。だからこんなにも荒れているんだ。

「アー、もしもし?超強力なロボットを一体忘れてるッスよ」
「えーっクランクだけじゃなんか頼りないよ。オイラ無しでどーすんのさ」
「ワタシだって充分戦えるッスよ!」

言おう。この子にも。

リーダーは頼られたがっている。私はリーダーに頼りたい。

言うんだ。

「ねえ……あのさ」
「だから、リーダー命令!!」
「はっはい!」

情けないことに背筋を伸ばし敬礼をしてしまった。

「惑星の探索は、おねーさんも必ずついて来ること!」
「は?」

てっきり、船にこもってとりあえず生きてろって言われるかと思ってた。

「難しいこと考えてたって、リーダーのオイラに言う程の事じゃないんだろ?だったら頭空っぽにしてついて来いっつってんの」
「ちょっと待ってよ、何でそうなるの?普通に考えたら逆じゃない?」
「逆じゃない!それに、いざとなったら…」

向こうを向いて黙ってしまった。さっきと違って耳は垂れていないけれど。

「……」
「……」
「……ラチェット?」
「おりゃ!」

いきなり持っているそれをこちらに向けてスイッチを入れやがった。

「バツグンの弾薬として使ってやるぜー!」

勿論、入りきらない対象物はそよそよと髪や服をなびかせるだけ。

不意打ちを喰らったとは言え、一瞬身構えた自分が恥ずかしい。

「やめなさい。笑えないから」
「ほんの冗談だよ」

このところ、彼の機嫌は急に良くなったり悪くなったり。なんだか波が激しくなっている気がする。

「さ、とっととキャプテン・クォークを追いかけなきゃ」

そして切り替えが早い。

「クォークは正義のヒーローなんだ。きっとおねーさんの故郷の人達のことも助けてくれる。でもさ」

言いながら、船を停めた側の崖に先に飛び移る。

「それはおねーさんが直接お願いしに行かなきゃ!」
「…うん」

参ったな。

大人しく待ってるのはらしくないなんて連れ回されていた。けれどそれって、リーダーが私のことをしっかり考えた上でそうしてくれていたんだ。実質的にこっちが年上なのに、気づかされることが多い。

死んだら命はお終いだけれど、私の気持ちが死んでもお終いなんだ。

気合いを入れ、軽々と対岸に飛び移った。
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