ケルバン

「あ、こんな所にナノテック」
「ねえさんの通信機があるけれど、一応貰っておくッスか?」
「そうだね」

黒い枠の箱を私も壊す。

「通信機?なんのこと?」
「ねえさんの持っている通信機から、ナノテックの光が放たれたことがあるッス。ラチェットはそれに助けられたッスよ」
「おおう!?」

いくつかの光達が自分に向かって飛んできた。てっきりラチェットに流れ込むと思っていたので少しびびったが、

「あ…何だろ」

まるで体中の疲れが消え去り、筋肉がうずいているようだ。今すぐにでも走ったり跳んだりしたい気分。

「これがナノテックの力か…」
「おねーさん、おねーさんの通信機見せて」
「ん、いいよ」
「へーえ…これからナノテックが出るのか」
「ちなみに、通信機じゃなくて、携帯電話っていうんだよ」
「ふーん…オイラはこれのお陰で助かったんだ」

日本ではすっかりお馴染みの機械に興味津々のラチェットは、科学者にも見えるし子供にも見える。

「おねーさん」

不意に、彼の目線は携帯からその持ち主へ向けられた。

「何?」
「…ありがとう。その、助けてくれて」

いつもの悪戯っぽい面影は無く、ドングリ眼が真っ直ぐに私を捕らえる。

「おねーさん?」

照れ隠しに、彼の頭をくしゃくしゃ撫で回す。

「うわわっ」
「任せてよ!私はラチェットを助けるためについて来たんだからさ」
「わ、わかったってば!」
「勿論、クランクのためでもあるからね」
「心強いッス!」
「よし、じゃあ早速汽車に乗ろうぜ」
「たんま」
「今度は何?」
「こんな高い所で柵の無い乗り物に乗れっこないってば、たんまたんま」
「はあー…おねーさーん…」
「心強いのかそうでないのか、わからないッスね」
「…本当にごめん」
「言っておくけど、さっきホバリングで降りて来たから後戻りはできないよ」

そんなことくらい百も承知だ。ただ、画面の向こうと目の前とでは訳が違う。この高さ。

「つ、ついて行くよ。行けばいいんでしょ~…援護は任せて!」
「はいは~い、すうっごく心強いや」

頭の後ろで腕なんか組んでいやがる。先程の素直でかわいい態度はいずこ。

「ちょっと、年上の女性を小馬鹿にするもんじゃないわよ」
「そうッスよラチェット、例えフられてしまったとしても後の祭りッス」
「そうそう」

クランクの頭をなでなでする。少しベトベトした。いつぞやの蛙の体液かな。

「へ、変なこと言うなよ!ほら、さっさと行こうぜ!」
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