ノバリス

「さーてと、おねーさんのことだからまたすごく時間掛かりそう。あっちの方はまだ探索していなかったな…クランク、行ってみる?」
「いや、ワタシは操縦席で待っているッス」
「あ、そう」
「すぐ戻るッスよ」

ラチェットはどうも呑気すぎる。もし自分達が居ない間に、彼女がブラーグにさらわれたら?もしくは裏切ったら?例えば貰った船でこの星を出てしまうとか。二つの真逆の心配が頭にまとわり付く。

だからこそ船に残ったのだが、正直、自分だけの力ではどちらの事が起こっても対応できる自信は無い。

もっと強くなれないだろうか。

背負われているだけではなくて、船を動かすことだけではなくて、何か自分にできること。

「お待たせ!あれ、ラチェットは?」
「一人で探索に行ったッスよ」

並んで操縦席に座る。一つ目の不安は取り払われた。

「一人で?私も行ってみたかったなー。呼んでくれれば…いや、待ってくれればよかったのに!…一人で大丈夫かな」
「ラチェットなら…一人でも大丈夫…ッス」

何だか…クランクから元気を感じられない。ロボが元気って…

「……」

1ステージ目でまさかの悩み事発覚?

「ラチェットは、身軽で強いッス」

悩みか…クランクの悩み…クランク、クランク

「ロンバックスは皆がああなんじゃあないの?」

クランクといえばガジェボット。ガジェボットといえばクランク。正直、クランク自体はあまり強くない。それが悩みかな。

そして正直、私は大した悩み相談を持ち掛けられたことが無い。即ち慣れていない。よし、こんな時は。

「あのさ~、話は変わるんだけど…」

がらっと話題を変えるに限る。

「……」

反応無しかよ。こいつが食いつく話題…食いつく…

「プロペラのことだけどさ」
「どうせ出ないッスよ」
「それが…出るんだ。次の惑星に着いたら」

首が素早く動く機械音。

「何で知っているッスか!?」

食いついた。どうしよう。

「さっき市長から貰ったインフォボットに、アルのロボ工房が出ていたじゃん」
「そうッスね、クォークの背景に」
「そこでクランクは改造してもらえるの」

ああ、ネタバレ厳禁敗れたり。

「…何で」
「……」
「…何でそこまで知っているッスか?」

彼女に、この‘何で’に答えられてしまったら、もう一緒にいられなくなってしまうのではないか?根拠の無い不安が電子回路をよぎる。

「言っても……信じてもらえないよ。ただ」
「ただ?」
「私はあなた達の味方だし、あなた達は私の味方だからね」

ゆっくり瞬きする機械音。

「……」

不安そうに、照れ臭そうに、でも

「…これは、間違いないから」

真っ直ぐこちらを見つめて言う彼女。二つ目の不安も、無くなった気がした。

「言ってみるッスよ」
「え?」
「何故ねえさんが物知りなのか、言ってみるッス。ねえさんの言うこと、信じるッスよ」

ロボが信じるって…
10/11ページ