地球

立て膝をやめて、ラチェットが相棒の待つ船に乗り込むまでをしっかりと見送る。耳はもう垂れていないが、尻尾の先が地面スレスレをいっている辺り、大分落ち込んでいるようだ。

しかし少年は何かを思い出したかのように振り返り、こちらに向かって走ってきた。

「ん?」

またハグが欲しいのかな、と勘違い。

自分の足元で、壁ジャンプの音がした。

「んむ…!?」

こういったことに慣れていないのか、目をぎゅっと瞑って無理矢理押し付けてきた。口周りの毛がふさふさしていて、鼻から顎までもれなくくすぐったい。

「ぷはっじゃあね、おねーさん!」

こちらが何も反応できない内に、彼はコックピットに飛び乗りハッチを閉めた。

「……」

轟音と共に去っていくスマートな宇宙船は、久しぶりにゲーム画面越しで彼らを見ているようだ。

でも続きのシーンなんてものは無い。主人公を乗せた船はあっという間に空に消え、辺りは静まり返った。

長編ゲームにしては、あまりにも味気無いエンディング。

「……さよなら」

否、最後の最後でガキにしてやられた。

「…元気にしてろよがきんちょ共ー!」

こんな声、空の向こうへ消えたスペースジェットに絶対届いていない。でも、叫ばずにはいられない。

「あんた達、ホント、最高、だった、よー!!」

武器や知恵を駆使して共に闘い、人質に取られたり助けられたり。死にかけたことだってあった。

平和な国ではまずできない濃い経験をしてきたというのに、今の気持ちは一本のテレビゲームをクリアした時のそれに何故だかよく似ていた。

『私を…みんなを…地球を救ってくれて、あ』
「もう!うるさい!」

船を操縦していない方の手で受信機の電源を切った。窓の外には既に星空が見えてきている。

「盗聴器、ねえさんに取り付けたままだったッスね。通信切断しちゃうんスか?」
「良いんだよ」
「せっかくのねえさんからの素直なメッセージなのに」
「またどこかで会えるさ。その時に聞けば良いだろ?」

クランクは双方が生きている内にまた巡り会える確率は云々、と言い出しそうになったのを飲み込んだ。

「それもそうッスね」
「そう言やぁ、結局名前聞くの忘れてたな」
「今度会う時に聞けば良いッスよ」
「だな!」

黒いスペースジェットは地球から離れ、猛スピードで宇宙の彼方へ飛んで行く。

「さあ、銀河中がオイラ達を待ってるぜ!」


-完-
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