地球

「あぁ、ええと…」

ラチェットは後頭部を掻きながら、勿体ぶったように喋り始める。

「おねーさん、オイラは…いや、オイラ達と…良ければ~その、たまには~、いや、これからも…」

彼の言いたいことは大体掴めた。そして、それを最後まで言ってほしい。言い切ってくれるのを待ちたい。

「あぁもう!こういうこと言いたいんじゃなくて!オイラは…」

でも、言わせてはいけない。

どんなに素敵な冒険でも、それはあくまで地球を取り戻すためにしたこと。

どんなに素敵な仲間でも、それはあくまで自分の生活を取り戻すために手を組んでいただけのこと。

「おねーさんのことが…」

絶対に言わせてやんない。

「ラチェットォ!!」
「はいぃ!!」

辺りに響き渡るくらい力強く叫べば、名前を呼ばれた彼は思わず敬礼をした。

一歩近付いて立ち膝を突き、目線の高さを合わせてやる。ラチェットは硬直し、その大きなドングリ眼で見つめてきた。

「……」
「……」

しかめっ面の子供相手に、どうしてもニヤケてしまう。

「他の星や銀河行っても、ちゃんと“浮気”すんのよ。良い?」

私は地球の人間、こいつは銀河のロンバックス。自分には自分の、彼には彼の生きる道がある。こうしたくないのが本音だけれど、こうするべきだと思う。

「わかった?」

ラチェットは驚いたようなショックを受けたような、何とも言えない顔をしている。が、さすがリーダー、すぐにこちらの意図を掴んでくれた。

「……し、心配すんな!おねーさんの方こそ、良い男捕まえなきゃ承知しないぜ!」
「何を偉そうに。この口か?この口がいけないのかぁ!?」
「いだだだ!いひゃいいひゃい!」

一人の人間にこんな風にされるがままの姿を見ていると、本当に彼が悪を滅ぼし銀河に平和を取り戻した英雄なのかと、実感が少しだけ薄れる。

「……」

大きな口の端から手を離してやった。今後は地球外生物と、こうしてじゃれ合うことも無いのだろう。

「いったいなぁ、もう…」

もう二度と触れられないであろう体を思い切り抱きしめた。

「こ、今度は何!?」
「今まで、お世話になりました」
「……こちらこそ」

放し際に頭を撫でたら撫で返された。このキャラクターは、あくまで対等な立場でいたいらしい。
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