ベルディン

「協力者の内、数人はラチェット&クランクと顔見知りのようです……え?ちょっとカメラ、あっちを映して!あれは何でしょうか!?」

通信機から聞こえるダーラの声に、弾薬箱投下の手が止まった。

弾薬を積んだヘリコプターの大群が来た方角とは反対方向から、団子状に連なった船とブラーグ・スリー軍団が押し寄せてきているのだ。

「援軍!?」
「聞いてねェぞ!」
「あわわわわっ、マズイよぅ!こっちには攻撃する手段が無いのよぅ!」

武器以外にも戦闘用の乗り物までブラーグによって奪われてしまっていたため、味方のヘリコプターは全て非戦闘用のものだ。

「どうするネーチャン!?」
「どうするって…!」

最終決戦の地へ直接赴き、不足しているであろう弾薬をヒーローに向けて降らせる作戦。元々危険を伴う行為ではあったが、このままもたもたしていたら全滅もあり得る。

「みんなを撤収させて!勿論このヘリもね。じゃ!」

買ったときからずっと背負っていたヘリブースターの動作を軽く確認し、大きく開いている乗降口から飛び降りようとした。

「待てよオイ、死ぬ気か!?」

が、それは許されなかった。スキッドが手首をしっかりと掴んでくる。

「だって見てよあれ、あの量のブラーグ・スリーを二人だけに任せるなんてできない!変な船も来てるし。ベルディンぶっ壊されるに決まってる」
「だから無茶してでも闘いに行くってか?」
「そう。さっさと離して」

しかし緑色の手は言うことを聞かず、更に力を込めてきた。

「……いいや、ゼッテー離さねえ」
「スキッド…?」

一方、小さなヒーロー達は協力者から送られてくる弾薬を未だ補給できずにいた。

「ラチェット、あそこにランチャーNo.8の弾が!」

クランクの目線の先、やや離れた鉄骨の端に最強武器の弾薬パックが乗っかっている。落下傘付きの箱が壊されたときに谷底へ落ちず、運良く引っかかった物だ。

「補給させる訳が無いだろう!」
「うわっ!」

ドレックからの攻撃を避けきれずダメージを食らいながらも、折れかけのパイプになんとか着地した。

水色に光るレーザー弾の威力は強いが連発はしてこない。相手がチャージしている今が別の足場へ移動するチャンスだが、ラチェットの足取りは重く、ブースターの操作もおぼつかなくなってきている。

「急ぐッス!早くしないとまた取り逃すッスよ!」
「わかってるけど、体が……おかしいな、さっきから回復できないんだよ」

つい先程まであんなに主張していたポケットの中身はすっかり静かになっていた。ラチェットの耳は垂れ下がったままだ。

「ねえさんの携帯、こんな時に故障ッスか!?」

そうこうしている内に、ポクタルで見かけた船がその船体をくねらせながら頭上へやって来てしまった。

「廃棄物運搬用の船か。戦闘に特化していないが、この際良しとしよう。ハエ共をさっさと片付けろ!……!?」

巨大ロボットは咄嗟に頭部をアームで庇った。援軍と思われた船が、黄緑色の汚染物質をラチェットでもクランクでも邪魔なヘリコプターでもなく、ドレックめがけて落としていったからだ。

「エヘェ、僕も戦うねー!」

船の操縦レバーを握っているのは派手なアロハシャツを着た男。ではなく、隣の席に座っているブラーグだ。

「行くぞ!カレボⅢ部隊!」

その後から続いて来たブラーグ・スリーは皆、落下傘付きの弾薬箱を狙って放たれた追尾ミサイルを確実に撃ち墜としていく。

「形勢逆転よぅ!」
「CEOのジジィもヤルじゃねェか!」
「ラチェットー!クランクー!さっさとそのタマネギ頭やっちゃってー!」

頼もしい味方が更に増えた。もう加勢しに行く必要は無さそうだ。

「あ、携帯直ったかも!」

そしてキーアイテムはいつの間にか光を取り戻していた。体力を全回復したラチェットは、ドレックからの攻撃を再度簡単にかわし始め弾薬を補充していく。

「どいつもこいつも邪魔しおって…!」

誰一人味方の居ないドレックは新たな黒いミサイルを放った。緑色に光るそれは主人公のもとには降ってこない代わりに、反逆者であるブラーグ・スリー達を次々と爆撃していった。

「フハハハハ!俺様に逆らうからこうなるのだ!」
「ビッグバッドボス!」

巨大ロボットが振り向いたときには既に遅かった。ドレックの気が逸れている内に彼の背後を取ったラチェットが最強武器のトリガーを引く。

「これで終わりだ!!」

9発のミサイルによりビッグバッドボスの最終兵器は動力を失い、残っていた足場へ墜落した。その衝撃でレーザー砲台がゲームと同じ様に縦回転し、ドレックは完成間近の惑星へ勢いよく飛ばされていった。
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