ベルディン

以前、ブラーグ達のかつての故郷オークソンにて、綺麗な空気が無くては活動不可能な二人が船内で留守番していた時のこと。

「うるさい。今から黙るからおねーさんも黙ってて」
「はいはい」
「……」
「……」
「おねーさん」
「……」

声をかけても彼女は唸るだけ。相槌を打ったようにも聞こえたが、目を開く気配は無い。呼吸もゆったりとしている。慣れない宇宙旅行と度重なる戦闘で大分疲れているのだろう。

「オイラさ」

また同じような唸り声。肩を軽く揺すっても反応なし。完全に寝言だ。

「おねーさんのこと、信じてるから。でも、念のため。な?」

そう言って黒い髪の毛を優しくかき分け、極々小さな装置を摘んだ指を奥へと潜り込ませた。


「盗聴器…?」

注意深く頭をゆっくり掻くと、たしかに何かが指につっかかる。

「疑ってた訳じゃないんだ。こんなことになった時のために、先に仕掛けておく必要があると思ってさ」
「仕掛けてって、じゃあ……じゃあ、ずっと?」
「ああ。聞いていた」

ドレックがゲームの内容を把握していると判明した時も


『どう…どうすれば、良いの…?』
「……」
「……」
『助けてっ…!』
「行こう」
「ウィッス」


砲台の中で暴れていた時も


『離しやがれー!』
『離すのはそっちー!』
「あの砲台だけ様子がおかしいッス」
「ああ。アレだな。もう聞かなくてもわかる」


「そ!ぜ~んぶ筒抜け。ビッグバッドボスの計画も、クォークの情けない様子も。監視カメラがある場所では堂々と聴けなかったけどね」
「それも、受信機を小型に改良してからは注意する必要がなくなったッス。ちなみに、トランシーバー本体はスキッドに預けたッス」
「スキッド?どうしてホバーボードレース選手が出てくんの?まさか……活躍してくれてるとか?」
「そのまさかッス。ねえさんと別れた後も、彼は我々に協力してくれたッス」

ドレックによるその場凌ぎの対策が上手く行かなかったのは、緑色の彼が一役買ってくれていたからなのかもしれない。

「心強い味方との情報共有は重要ッス」

何故かここでラチェットの両耳がピーンと立つ。

「あと、誰かさんがこっそりベソかいてたことも共有!」
「なっ!?私がいつベソかいたっていうの!?」
「あれぇ?自分でも覚えてない?スキッドに確認してもらおっかな~」
「あ、あんたねぇ…!後で色々話したいことがあるから、覚悟しな!」

わなわなと震える拳を握り締め精一杯脅すが、足を繋がれたままの相手など怖くも何ともないらしい。クランクと一緒にニヤニヤしていやがる。これから最終決戦だというのに。

「だから……ちゃんと帰ってきてよ?」
「へへっ、大丈夫。必ず戻ってくるから。それまでは……くれぐれも他のロンバックスには近付くなよ?」

自分には何もできないのか。行ってしまう仲間を抱き締めることさえも。

「あ、そーだ!」
「まだ何か忘れ物?早く行かないと惑星粉々にされちゃうよ。あのマヨネーズなかなか短気だから」
「おねーさんの名前、まだ聞いてなかった。何て言うの?」
「……私も、忘れ物」

預かったままだったサックキャノンを取り出し、転がせて持ち主へ返す。強い火力を誇る武器とは言えないが、奴が放つであろう機雷や敵のガジェボットを吸い込むことくらいできる筈だ。

「名前は、戻ってきてから教える」
「オーケー!」

主人公は今度こそ進んでいってしまった。元気に返事をした彼の背を守るロボットは、目が合うと何も言わず小さく手を振っていた。
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