ベルディン

残された仲間同士は互いに黙り、離れた位置で改まったように向かい合った。べらべらと喋る悪者が居なくなった為、代わりに風の吹き抜ける音だけが響く。

「ラチェット…クランク…」
「行ってくるよ、おねーさん」
「待って。一か八かさ、この鎖をガラメカで攻撃してよ。ロケットバズーカ、いや、私まで喰らっちゃうからマシンブラスターのが良いかな。上手くいったら、一緒に戦えるから」
「でもオイラがおねーさんに近付いちゃいけないことには変わりない。一緒に行ったら危険だよ。だから、ここで留守番してて。いいね」

ラチェットは落ち着いた様子で念を押す。少し会っていない間に、随分しっかりとしたリーダーに成長できたらしい。

しかし暖かささえ感じるその眼差しは、返って相手の不安を煽った。

「待って…待ってよ!」

不安定な足場に移る前にラチェットは立ち止まる。彼が背を向けたことにより必然的に対面する形になったクランクは、突然の大声に口を閉じ目をチカチカと点滅させるだけ。

「聞いて、奴もゲームの事を知ってるの。奴は…ビッグバッドボスは、自分がバッドエンドにならないやり方で仕掛けてくる筈…」

あれだけ含みのある言い方をしたのだから、ラストバトルに何かしら変化を加えているのだろう。

ゲーム経験者をここに置いていくということは、第三者視点からの助言があれば奴に勝てるかもしれない。それと同時に、今ここでいくら助言しても何の意味も無いということでもある。

「あんた達だけに任せるなんて…」

ラチェットとクランクには打つ手が全く無いかもしれない。有無を言わさずただ殺されるかもしれない。

「それでも、行かなきゃ」
「心配ご無用ッス。ラチェットのことはワタシがしっかりサポートするッス!」

このまま行かせたくはないが、ビッグバッドボスを放っておけばベルディンが、ラチェットの故郷が破壊されてしまうのだ。そして地球も、地球人も終わりだ。

「あ、地球人のことなら安心して。みーんな地球に返しちゃったから!」
「え」

急に何を言い出したかと思えば、目的を一部達成したという事後報告だ。何のことか理解できなくて思わず聞き返す。

「え?それ、ホント?」
「ワタシが彼らを安全に地球に返すプログラムを起動させたから、安心してほしいッス」
「クランクが!?」
「あー、ある意味ね」
「マ、マジで…?」
「ウィッス!」

ドレックに捕まっている間に、この小さな二人は自分の最大の目的を成し遂げてくれた。実感は全く無いが、これであとはボスを倒せれば大団円だ。

「楽勝なミッションだったッス。ビッグバッドボスも、パパーッとやっつけてくるッスよ!」
「調子良いなぁ。実際攻撃するのはオイラだぜ」
「後ろはこのワタシに任せるッス」
「へいへい」

今もこうして呑気にお喋りしているが、悪に立ち向かえるのはこの子達しか居ないし、時間もあまり残されていない。

「じゃーね。鎖は後で何とかしてあげるよ」
「……」

皆を救ってくれて嬉しいとか、私を信じて助けに来てくれてありがとうとか、裏切るように居なくなってごめんとか、言いたいことは沢山あるのに。彼らは間もなく行ってしまう。

「そーだ。ひとつ、謝っておかなきゃならないことがあるんだ」
「はい?」

ラチェットはスイングショットを発動させる前に振り向いた。

「謝る?私が、じゃなくて…?」
「ああ。実は……」
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