ベルディン

ラチェットは広い橋を渡りきり、ずっとインフォボット越しに観てきた悪の親玉と今、初めて対面した。

「とうとうここまで来れたか」

二本のアームが付いた巨大な浮遊ロボットが小さな主人公らを出迎える。その脇では、久し振りに顔を合わせる仲間が片足に大きな鉄球を括り付けられていた。

「おねーさん!」
「ねえさん!」

背負われているクランクは首を180度回転させて前方を向き、二人とも同時に叫んだ。

「こいつは用済みだ。既に、有力な情報は存分に引き出させてもらった。さあ、裏切り者を煮るなり焼くなり好きにすれば良い」

醜い仲間割れを期待するドレックを無視し、ラチェットは一目散に人間の元へと走り出す。

「今助ける!」
「助けるだと?」

展開が己の期待通りではないことに気付き、ドレックは大きな腕でラチェットの行く手を遮った。

「ここに辿り着くまでには罠だらけだっただろう。それはこの女の意見を参考に考案したものだ」
「だったら何だよ?」
「裏切り者が、貴様等の状況を不利にした奴が、こうして無防備な状態で目の前に現れたのだぞ。報復しないのか?」
「そんなことする訳無いだろ!今からその重りを外すんだよ!」
「ねえさんは大事な仲間ッス!」
「あんた達…!」

主人公二人の真っ直ぐな言葉に思わず目が潤む。

一方、悪の親玉はつまらなそうな顔で、感動中の彼女に大きな銃口を向ける。

「フム、そう来たか。ならば、俺様が直々に…」
「痛い目見たくなけりゃその腕を下ろすか、おねーさんを解放しろ!」
「それはできんな。この先の発射場に来られちゃ、こいつはどんな助言をするかわからん。俺様の計画達成のためには、貴様等とだけで闘う必要があるのだ」

ドレックは不安定そうな円盤が並ぶ先にある大きな岩場を見やった。更にその先では、惑星を破壊する威力を持つ巨大レーザー砲が真下へ、ここベルディンへ向けられている。

「この期に及んで、まだ何か企んでるッスか」
「知るもんか。計画も何もかもお終いにしてやる!」
「おぉや、質問は無しか?“他に道は無かったッスか?”だったかな?」
「もう全部知ってるよ!金のためなんだろ!」
「フン、シナリオの予習はバッチリという訳か。果たして思い描いているように行くかな?」

まだまだ余裕の表情なドレックはそう言い残すと、ゲームと同じように円盤に沿って逃げていく。

「待て!」
「ラチェット、先にねえさんを」
「そうだった!」

ラチェットとクランクは頼れる仲間の解放を優先した。当人は膝を曲げ両手を広げて待ち構えてなんかいるが、例の如く噛みしめるように抱っこされる暇は無い。

「おっと!それ以上お仲間に近付かない方が良いぞ。死なせたくなければな」

しかし、あと数メートルというところで彼女を捕らえていたドレック本人から声だけで制止されてしまった。

ラチェット達から十分離れた彼の手には小さなリモコンが握られており、そのスイッチを親指でしっかりと押している。

「どういうことッスか?」
「そいつの首を見ろ」
「首?」

言われるまでは気にも留めなかったが、よくよく見るとたしかに違和感を覚えた。

行動を共にしていた時、彼女はアクセサリーの類は何一つ付けていなかったのだ。が、今はチョーカーのような物を装着していて、その正面には宝石らしき物がでかでかと付いている。

「何あれ?ドレックにでも買ってもらったの?」

これから最終決戦に入るという局面で、人のお洒落など気にしている場合では無かった。

「それはタダの首輪ではない」
「そう!何なのこれ?ダサいから嫌なんだけど!」
「そいつは半径5メートル以内にロンバックスの生体反応をキャッチすると、自動で爆発する優れモノだ」
「爆発!?」

ラチェットは思わず後ろに飛び退いた。対象との距離は正に5メートルを切ろうとしていたところだった。

「ちなみに、そうやって無理矢理外そうとしても爆発するからな」
「ええ!?やばっ!」

引き千切ろうとしていた両手を即座に離す。自殺こそ回避したが、これでは実質人質のままだ。

「俺様を止めたいのなら、その女無しで来い」

宙に浮く円盤の足場を半壊させながら、今度こそラスボスは最後のステージへ退いていった。
4/15ページ