ベルディン

「やっぱりダメだよこんなの!見てらんない!」

ラチェットはたまらずランチャーNo.8を構えた。間近まで迫ってきていたブラーグを9発のミサイルが一掃する。

次から次へと襲い来る敵に向けて、最強の追尾弾を惜しげなく撃ち出していく。

「止めるんだ!君が前に出てしまっては…!」
「我々なら大丈夫ッス。弾はともかく、体力には絶対の自信があるッスよ」
「どういうことだ?」

ラチェットに背負われているクランクが、何も知らないであろう味方を落ち着けるために奥の手を説明し始める。

「実は、怪我をしても自動で回復してくれるアイテムを所持しているッス。弾は……まあ、どうにかなるッスよ」
「そういうことは先に言ってくれないか。まさかこちらから言い出す訳にはいかないだろう?」
「?……どういう、ことッスか?」

リーダー格のブラーグはクランクの質問には答えず、彼の相棒が最強武器の50発目を放ったところで小声で呟いた。

「ランチャーNo.8を…使い切ったな…」
「あー、ラチェット。なんか……ヤバイ感じッス…」

ブラーグ退治に夢中なラチェットは話題に乗り切れていない。武器ガラメカをパンチングラブに切り替え、一体一体を弾き飛ばしながらついでに会話に参加する。

「聞いて!実はオイラ達、無限に回復ができるんだ!」
「知っている。貴様の持つ小型通信機からナノテックが放出されるのだろう。ここに置いていけ」
「え?何言って…」
「“幼気な子供ならこの状況に良心が痛み、貴重な弾薬を極々自然な流れで消費するだろう”…正に、ビッグボスドレック様の予測通りになった」

協力してくれていた兵士の様子がおかしいことに気付き、ラチェットはやっと振り向いた。大群ではなく、背中を預けていた数名から向けられている銃口に思わず固まる。

「こうも仰られていた。味方のフリをすれば、便利なアイテムの詳細を打ち明ける…とな」

残り少なくなってしまった知能の高いブラーグ・スリー達は、今は二人をぐるりと取り囲んでいる。

ズボンのポケットで光り続ける携帯のお陰で命を落とす心配は無いが、この状況にラチェットは愕然とした。

「最初から…敵だったってこと…?オイラ達を騙したの!?」
「その通り。かつてのカレボⅢ侵略部隊が俺達の上官というのは、真実だがな。ドレック様に逆らうとは、特別部隊でありながら頭空っぽなブラーグ並に愚かだ。が、奴らの寝返りのお陰で貴様らを騙し易くなった」
「ここに来るまで守ってくれたのも嘘だったのかよ!」
「ブラーグ同士で闘ってまで演技するとは、非効率的な作戦ッスね」
「計画遂行のためならば多少の犠牲はやむを得ない。見ろ、ブラーグ同士の乱闘がこうも容易く収まるとは」

まだまだ空を埋め尽くす程残っているブラーグ・スリーは皆銃撃を止め、計画の邪魔者の死をただ待ち望んでいる。

「同じ背格好の者が共通の敵にこうして銃を向けているから当然だな。つい先程隣で浮いていた仲間を、この俺が殺したというのに…単純な奴らだ」

そう言い終えると同時に、上空から小型の戦闘機がラチェットとクランクを更に取り囲んだ。

「全く、本当に単純な奴らだ。そんな配置では俺達にも当たってしま、ぐわあぁーっ!?」

お喋りなブラーグ・スリーはラチェットとクランクの目の前で呆気なく狙撃されてしまった。知能の高い部隊だけでなく、周りの大人しくなったブラーグもその攻撃の対象だ。

「もう何なの!?今度はもっと酷い仲間割れ!?」
『いいえ、私が全戦闘機をハッキング致しましたの』

聞き覚えのある女性の声が、謎の戦闘機ではなく極近くから耳に届く。

「ナビのおねーさん!」
『ボクも居るよ~。カルトゥのメインコンピューターをハッキングしたボクにかかれば、こいつらの遠隔操作なんてお手の物~』
「ボブ!いや、アル!」
「ボブであってるッスよ」
『ポクタルでボクを脅したお返しだ~!』
『私も、やられっぱなしでは収まりがつきませんわ』

緊張感のない高い声と丁寧で穏やかな声が生身のブラーグ軍を次々と倒していく。二人のお陰で、埋め尽くされていた赤い空がだんだんと顔を出してきた。

味方に付いた戦闘機の内数台はラチェットの頭上を通り過ぎ、道を塞いでいた壁を破壊する。

『ここはお任せ下さい』
『パパ~ッと倒してきちゃってよ!』
「ありがと!」
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