ノバリス

なんだー戦闘って簡単じゃん、と思っていたのは、穴ボコ橋を渡り終える前までであった。

「さ…さすがに敵、多かったね……ん、あれ?」

返事が無い。

「ラチェット!しっかりするッス!!」

クランクの、地べたに顔を押しつけられてくぐもった声。

「…ラチェット?」

いつも画面で見慣れている筈の、ゲームオーバーの姿。

「ラ…チェット」

近寄って体を揺すっても反応無し。今度は、セーブもリセットも無い。

「ラチェット、ねえしっかりして!!ラチェット!ラチェッ…」

すごいリアルな死に顔。瞳は完全に上を向き、口は半開きだ。思わず見入る。

…引いている場合ではない、彼を助けなければ。でも、どうやって?

「やめてくれ~!もう攻撃しないでくれぇ!」

着陸した四角い乗り物から眼鏡のおじさんが出てきた。

ちょっと待って。ラチェットはまだ目を覚ましていないのに。これでは話が、この子が居ないまま進む。

「ラチェット!早く起きてよ…」
「目を覚ますッスよラチェット!」

ラチェット。ラチェットってば。さっきまで、あんなにぴんぴんしていたじゃない。私とお喋りしながら戦ってしまうくらい余裕だったじゃない。

私と……私がついて来たから、私が一緒にいたからこんなことになったの?

“あ、足手まといじゃあ…ない?”
“今更何言ってんのさおねーさん”

「ラチェット…」

もう一度‘おねーさん’って呼んでよ。

彼の体を抱きしめる。誰でもいいから、何でもいいから、この子を助けて。
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