カレボⅢ

目的の人物はブラーグ・スリーに完全に包囲されていた。

「やあーっ!!」

オムレンチを振りかぶって飛びかかるが、ブラーグ達は即座に道を開けCEOの後ろへ回り横並びに整列した。

「ぎゃふっ」
「立つッスよラチェット!」
「ああ!おじいさん、早く逃げて!」

すぐさま体勢を立て直し、十体未満の敵へ向けてブーメランを放つも軽く避けられてしまう。やはり一筋縄では行かない方のブラーグ達だ。武器はもうオムレンチ一本しか残っていないが、やるしかない。

「待て待てラチェット、それにクランク。この者達は敵ではない、安心せい」
「へ?」

駆け出そうとした姿勢で思わず固まる。

「じゃあ…味方?」

言われてみれば、あちらからは一切攻撃を仕掛けてこない。今も全員が大人しく整列している。

「ほれ、ホログラマーじゃ。受け取れぃ」

訳の分からない状況の中、言われるがままに放られたリモコン型の装置をキャッチした。

「どういうこと?襲われてたんじゃなかったの?」
「彼らはワシの説得によって心を入れ替えたんじゃ。他の頭カラッポなブラーグとは違い、ドレックが諸悪の根元だと気付けたからのう」

その内の一人が前に出て、持ち運び型のマップオートマチックを手渡してきた。

敵意が無いことを確認できたため、クランクはラチェットの背から飛び降りる。

「ワシはあるホバーボードレース選手とマネージャーから全てを聞き、その話を彼らにも話したんじゃ。ドレックの思惑も、君達が奴の計画を阻止しようとしていることも、もう一人の協力者のことも、そして……彼女が我々を模したようなゲームソフトを所持していたことも」
「スキッド達のことッスね」
「つーか、それって全部じゃん!いつから知ってたの?」
「はて、いつだったかな……怪我はしとらんかったから……少なくとも、彼らのシップが墜落する前じゃな」

開拓惑星アリディアへのインフォボットの映像を観ている時点で既にスキッド達は墜落した後だった。よって、それより前ということになる。

「唯一の希望には、君達ヒーローの味方でいてもらわねばならん。よりにもよって地球人じゃが」

CEOは今まで落ち着いた口調で説明してくれていたが、最後だけ吐き捨てるように言い放ち急に苦い顔をした。

「ううう…考えただけでもゾッとする。あの肌、毛があるのか無いのかハッキリせんかい!全く…」

ぶつぶつ文句を垂れ始める老人にクランクが機嫌をうかがうように怖ず怖ずと声を掛ける。

「地球人は、お嫌いッスか?」
「ワシだけじゃない。この銀河中の高等生物から嫌われとる。あんな生き物に好き好んで接触するのはブラーグくらいじゃ」
「え?じゃあ……今までのアレって、おねーさんのゴキゲン取りだったの!?」
「それ以外にあんな生き物に媚びる理由があるか!?社員にも無理を言って芝居させとったんじゃ。銀河中の皆で決めたことじゃからな」

ガラクトロンショップ店員達の、やけに彼女を気に入りちやほやしていたあの態度は演技だった。クォークのバンを見張っていた用心棒や孤軍奮闘していた髭面の隊長、バタリアで再会した中年の最初の反応の方が真実ということになる。

「ボウズ達は地球人が平気なのか?まあともあれ、我々ガラクトロン社員始め近隣惑星の住人、ここに居るブラーグ隊は全力で君達を援助する」
「マジで!?」
「心強いッス!」

武器会社が全面的に自分達の味方となった。おまけに敵の精鋭部隊も。これ以上頼もしいことがあるだろうか。

「絶対に奴の計画を阻止しとくれ。さあ次はスペースシップBBじゃろ?いや、一度カルトゥに戻らねばならんな。弾薬は好きなだけ持って行くが良い」
「え?今何て」
「タダでくれてやると言ったのじゃ。ドレックに営業妨害されてから在庫はたんまり…」
「そうじゃなくて、何でオイラ達の行き先まで知ってるの?」
「何じゃお主等、まさかコレが出回ってることを知らんのか?」

CEOは薄っぺらい円盤を取り出した。それは以前、ラチェットが荒天惑星オルタニスにて見かけたものと同じ、ゲームソフトのディスクであった。
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