カレボⅢ

「って……居ないや」

対抗車両や障害物等を避けながら何とかレールを滑りきった。彼らの目の前には、ドアが無く風通しの良い小さな建物。円い部屋に受付カウンターのような台が壁際に沿って設置されているだけという、何とも殺風景なゴールだ。

「休憩中かな?」

ラチェットは部屋を見回しながら中へ入る。クランクは飛び上がってカウンターの上に立ち、その内側に目を向けた。

「ロボットは休憩しないッス」
「ロボット?あのお姉さんが?何でそう言い切れるのさ…」

ラチェットも一緒に覗き込む。そして言葉を失った。

埃一つ無いカウンターの内側で、ライトグリーンの塗装が所々剥がれた鉄屑が散乱しているのだ。穴の開いた頭部や辛うじて残った手の指から、元は人の形をしていたことが想像できる。

「恐らく、何者かに襲われたッスね」
「何者かって、あいつらに決まってるじゃん!酷いことしやがって…!」

この建物周辺では何故か見当たらないが、空飛ぶブラーグはレール滑走中も執拗に二人を追いかけ攻撃を仕掛けてきていた。ここに来るまでの間にも何発か食らってしまった。

「ブラーグ達はますます卑劣に、そして手強くなってきているッス」
「それだけビッグバッドボスに近付いてるってことかも」
『バックアッ…データ……元率、ひゃ…パーセント』
「え?」

何の前触れも無しに謎の音声が部屋内に響き始める。

『室内スキャン…ブラーグの生体反応無し、オールクリア……ロンバックスの生体反応を確認…』
「な、何だ?」

ラチェットはクランクを背負いカウンターを背にオムレンチを構えた。注意深く壁や天井を見回すが、スピーカーの類は一切無し。銃口の類も無し。

『ボディの破損率、85パーセント。CEO及びロボット管理チームへ修理申請を送信致しました』

ノイズ混じりの声はだんだん鮮明になっていき、言葉遣いも人間が喋っているような流暢なものと化していく。

『ラチェット様、クランク様。この度はお見苦しい姿を見せてしまい、大変失礼致しました』
「この声…」
「もしかして…ヘルプデスクの人!?」

対象が目に見えないので、二人はとりあえず宙を見つめた。

『ええ。つい先程ブラーグ・スリーの襲撃に遭い、体を破壊されてしまいましたの』
「それはお気の毒ッス…」
「やっぱりロボットだったんだ……派手に壊されちゃったね」

ラチェットの耳同様二人の声は深く落ち込んでいくが、被害を受けた本人からは意外と明るい口調で返される。

『ご心配なく。メインの回路は無事ですわ。貴方達へのサポートも、以後問題無く続けられます』
「貴女が無事で何よりッス」
「良かった~」

安心する彼らを余所に、ヘルプデスクはカウンターの小さな隠し引き出しを開き、声量を絞ることなく特別なサービスを始めた。

『地図をそこに置いて。マップオートマチックをインストールして差し上げます』
「マップオートマチック?」
『未入手のゴールデンボルトの位置を地図上に表示させる機能ですわ』
「へー」

ラチェットは深く考えずにマップを取り外し、その引き出しの中に入れた。

「ねえ、そのゴールデンボルトって一体何なの?今までそれっぽいの見かけたこと何回かあるけど」
「知らなかったッスか?」

ラチェットの質問に答えるべく、ヘルプデスクはカウンターの上にホログラムモニターを出現させ、ある惑星の地図を表示させた。

『我が社の戦闘用ガラメカをアップグレードする際に必要な素材ですわ。アップグレードは惑星ノバリスのこちらで承っております。もう一カ所存在しますが、ビッグバッドボスに差し押さえられている可能性が高いためお勧めいたし兼ねます』

半透明な画面の脇に小さくムーンベースGを表示させたがすぐに引っ込めた。

「アップグレードかぁ…」
「ビッグバッドボスとの闘いに備えて、集めておくべきッス」
『持ち運び可能なマップオートマチックインストーラーを用意していたのですが、ブラーグに持ち去られてしまいました。ゴールデンボルトを集めるなら早い方が良いですわ』

引き出しがカシャンと音を立てて開き、バージョンアップ済みの地図を受け取った。

「ありがと。でも、先にここのCEOに会っておきたいんだ」
『でしたら、そこのエアタクシーをご利用ください。オフィスに直接お送りいたします』

外を見やると、無人の黄色いタクシーが途切れたレールの下側に丁度駆けつけたところだった。

『それともう一つ。今すぐマップをご確認下さいませ』
「?うん……あれ?緑に染まってる」
「すぐそこッスね」
『ご健闘をお祈りいたしますわ』
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