オルタニス

すっかり人気の無くなった惑星でクランクが雷に打たれた頃、スペースシップBBの小さな個室に一人のブラーグ兵が立ち入り、上司に耳打ちした。

「ビッグドレック様、ご報告が」

枷が無くとも何もできない人質は横目でその様子を見やる。

「何だ?……ほほう、なるほど。やはりあのビデオレターはヒントだったのか。確かに、ランチャーNo.8とやらを手に入れられては厄介だ」

ラスボスは当然のように最強武器の存在も把握していた。ただ、あまり慌てている様子は窺えない。

「とは言え、どんなに効率良く稼いでいたとしても、今の奴らにあの武器を買うボルトは無いだろう。無駄な足掻きに終わって誠に残念だな?」
「……」

ランチャーの件が見逃される流れにほっと肩を下ろしたが、ビッグドレックはまた白い歯を見せてきた。

「ま、一応手は打つさ。おい、惑星キャナルを優先的に制圧しろ。例の商人とラチェット達を絶対に接触させるな」

ドレックは部下に指令を出し独房から追い出した後、改まったように両手を後ろに組み直した。

「さて続きだ。口を割らんか、奴らにどこまで話した?奴らはどこまで知っている?」
「大した情報は教えてませんよ。心配なさらずとも、ラチェット達はかなり不利な状況ですって」

のらりくらりのままな相手の態度にため息を吐き、ドレックは短い腕を思い切り振ってインフォボットのモニターを指さした。

「これが不利に見えるか!?」

映し出されているのはブラーグと戦闘中のラチェットとクランク。背景からして、宇宙基地ムーンベースGの監視カメラによって撮影されたものだろう。

「何故奴らはあんなにも銃器を使い続けている!?ガラクトロン社は抑えた、弾はとっくのとうに切らしている筈だぞ!」
「私にも知らないことくらいあります。こうやって、誰かさんが人質をテロリストから保護してくれたお陰でね」
「チッ……貴様がさっさとムーンベースGにおける情報を吐き出さなかったお陰で、クォークがゲームソフト通りに返り討ちに遭ったではないか!」
「あれ~?キーアイテム持ってんのに具体的な対策打てなかったんですか?あのドレック様が?部下にプレイ動画観せるだけじゃ意味無かったですねぇ」

この映像のように、自分無しでもラチェットとクランクは割と健闘してくれていて、アゴヒーローを(とりあえずは)破滅させるまでに至った。入ってくる情報はどれもビッグバッドボスを苛立たせるものばかりで、こちらとしては非常に心強い。

が、敵地に一人きりで捕らわれていることには何ら変わりない。震えそうになる声を抑えていることがバレたのか、目の前の男は落ち着きを取り戻した。

「まあ良い、強がりもそこまでだ。奴らが何を知っていようと、次は確実に敗北する。我々のロボットを製造している惑星、カルトゥでな」
「!」

こいつにとってのホームグラウンドだからだろうか、カルトゥに関してはやけにしつこく尋問され答えてしまったことがいくつかある。ヒーローの風上にも置けない忌々しい男を側に配置されていた為やむなく、だ。
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