オルタニス軌道
あんな人を忘れるために捨てることも考えた。けれど近頃は何故だか、少しでも攻撃を受ければその直後に体力を補ってくれるようになった。お陰で、ほとんどのガラメカを満足に使えないラチェットでもなんとか生き延びてこられた。
結果、ここまでずるずると持ち続けている。
その半壊した機械を取り出すと、剥き出しの半導体がナノテックの色で輝いている。今にも光が溢れ出しそうだ。
「おかしいッスね。その携帯、壊れてから機能が向上したッス。最初は他人が手に持たなければ起動しなかったし、ナノテックを放出するまでの時間もかなりかかっていたッス」
「さあね。あの人みたいに、この携帯も戦いに慣れてきたんじゃないの?」
以前と違い、持っているだけで本人の怪我に対していつでも発動するようになった。
「あの人もマヌケだよな。こんなラッキーアイテム手放したままオイラの敵になるなんて」
「……」
ラチェットは相棒を置いて先に歩き出した。
「…ムムーッ」
クランクは少しの間立ち尽くしていたが、目つきを変えて走り出し、彼の頭に飛びかかった。
「ヤァーッ!」
「おい、何すんだよ!?」
「いい加減にするッス、ラチェット!!」
クランクは振り向きざまのラチェットの耳に引っ付き、頭に鋭いチョップを何度も食らわした。
「テヤッ、テヤッテヤァッ!」
「いってー、止めろって!こんのっ…!」
「ギャア!」
ボディを片手で掴まれたクランクは数メートル先の地面に叩きつけられ、ラチェットはその場で尻餅をついた。
すると、ちょうど二人の真ん中に落っこちた携帯からいくつもの回復の光が放出され、体に吸い込まれていく。
「……」
「……」
ラチェットとクランクは言葉を失った。
「身につけていなくても、回復できるのか…」
このパターンは見たことが無い。少なくとも、ナノテックを放出させるには誰かが手にしている必要があると思い込んでいたからだ。
「その対象は、ラチェットだけじゃないッス」
しかもナノテックの半分はクランクの体力も回復し、余った光は今も二人の周囲で漂っている。
「どういうことだよ…誰でも回復してくれるってことなのか?」
ラチェットは試しに、偶然近付いてきた敵をオムレンチで軽く攻撃した。が、携帯からナノテックは放出されない。周囲を漂う光も変化無し。もう一度叩くと、ラッキーアイテムのすぐ側で敵は大の字に倒れた。
“私はあなた達の味方だし、あなた達は私の味方だからね”
「ねえさん、が……ねえさんが、助けたいと思う相手が、対象ッス…」
対象は、ラチェットとクランク。
「誰かを助けたいと強く願ったときに、この携帯は発動するッス…!持ち主の、“助かりたい”じゃなくて“助けたい”って気持ちッス!時間差があった頃は、恐らくまだその想いが薄かったからッス!」
「じゃあ、何で今はナノテックがひっきり無しに出てんだよ……壊れてるだけなんじゃないのか?……つーか、オイラ達、裏切られたんじゃ…」
「わからないッスか!?」
“どうか、無事でいて”
「ねえさんは離れている間も、ずっとワタシ達を心配しているッスよ!」
「そんな……ただの予想だろ」
しばらくの間抱きしめられたときもあった。周りの目も気にせずに。
それでも、ラチェットはクランクの言い分を聞き入れたくなかった。信じたくなかった。
自分はもう彼女を疑ってしまっているから。
「じゃあおねーさんが死んだら、こいつは使い物にならないってことだね。殺さずに上手くやっつければ良いってことだろ?」
「どうしてそういう言い方しかできないッスか!?」
「何熱くなってんだよ」
「ラチェットこそ、考えを改める時ッス!」
クランクは声を荒げて叱りつけてきた。そう言えば、無茶して彼女に怒られたときもあった。
“もう、だから言ったじゃない!無茶しないでYO!YO!そこの、素敵な、アイテム!あ、いや、素敵なネーチャンYO!”
「……ハァ~」
なんか脳裏に頭おかしい奴が出てきた。居たなぁ空気読まずにずけずけ入って来たの。
「ラチェット?」
「別に。キャナルのダウンタウンでも助けてもらったなぁって思い出してただけ」
「懐かしいッスね。キャナルではラチェットが回復した直後に、一風変わった闇商人が介入してきたッス」
「そうそう、こっちは直前まで死にかけていたってのにさ。ラン、チャー、ナンバー、エイト!ラン、チャー、ナンバー、エイト!そればっかり。普通病み上がりの客に商品売りつけるか?……ん?」
ラチェットは自分の言葉で何かを思い出そうとしていた。
「……エイト……ハチの巣で、エイト……」
“まだハチの巣が一個高~いところにあるみたいよ”
「クランク!さっきの動画観せて!!」
“取りに行ってあげれば?”
「きゅ、急に何スか?」
クランクは言われた通りにインフォボットを取り出し、先程の殺伐としていないビデオレターを再生した。
「やっぱりだ…買いに行こう、クランク!」
「買うって、何を?」
「ランチャーNo.8だよ!」
「あれを買うッスか!?あんな武器を買うボルト、どこにも無いッス」
「そっかー…高いもんなぁ」
「……“高い”?」
次はクランクが何かに気が付き、目のライトを点滅させた。
「ああ。たしか15万ボルトだろ?」
「ラチェット、もう一度ムービーを観るッスよ!」
「またぁ?」
結果、ここまでずるずると持ち続けている。
その半壊した機械を取り出すと、剥き出しの半導体がナノテックの色で輝いている。今にも光が溢れ出しそうだ。
「おかしいッスね。その携帯、壊れてから機能が向上したッス。最初は他人が手に持たなければ起動しなかったし、ナノテックを放出するまでの時間もかなりかかっていたッス」
「さあね。あの人みたいに、この携帯も戦いに慣れてきたんじゃないの?」
以前と違い、持っているだけで本人の怪我に対していつでも発動するようになった。
「あの人もマヌケだよな。こんなラッキーアイテム手放したままオイラの敵になるなんて」
「……」
ラチェットは相棒を置いて先に歩き出した。
「…ムムーッ」
クランクは少しの間立ち尽くしていたが、目つきを変えて走り出し、彼の頭に飛びかかった。
「ヤァーッ!」
「おい、何すんだよ!?」
「いい加減にするッス、ラチェット!!」
クランクは振り向きざまのラチェットの耳に引っ付き、頭に鋭いチョップを何度も食らわした。
「テヤッ、テヤッテヤァッ!」
「いってー、止めろって!こんのっ…!」
「ギャア!」
ボディを片手で掴まれたクランクは数メートル先の地面に叩きつけられ、ラチェットはその場で尻餅をついた。
すると、ちょうど二人の真ん中に落っこちた携帯からいくつもの回復の光が放出され、体に吸い込まれていく。
「……」
「……」
ラチェットとクランクは言葉を失った。
「身につけていなくても、回復できるのか…」
このパターンは見たことが無い。少なくとも、ナノテックを放出させるには誰かが手にしている必要があると思い込んでいたからだ。
「その対象は、ラチェットだけじゃないッス」
しかもナノテックの半分はクランクの体力も回復し、余った光は今も二人の周囲で漂っている。
「どういうことだよ…誰でも回復してくれるってことなのか?」
ラチェットは試しに、偶然近付いてきた敵をオムレンチで軽く攻撃した。が、携帯からナノテックは放出されない。周囲を漂う光も変化無し。もう一度叩くと、ラッキーアイテムのすぐ側で敵は大の字に倒れた。
“私はあなた達の味方だし、あなた達は私の味方だからね”
「ねえさん、が……ねえさんが、助けたいと思う相手が、対象ッス…」
対象は、ラチェットとクランク。
「誰かを助けたいと強く願ったときに、この携帯は発動するッス…!持ち主の、“助かりたい”じゃなくて“助けたい”って気持ちッス!時間差があった頃は、恐らくまだその想いが薄かったからッス!」
「じゃあ、何で今はナノテックがひっきり無しに出てんだよ……壊れてるだけなんじゃないのか?……つーか、オイラ達、裏切られたんじゃ…」
「わからないッスか!?」
“どうか、無事でいて”
「ねえさんは離れている間も、ずっとワタシ達を心配しているッスよ!」
「そんな……ただの予想だろ」
しばらくの間抱きしめられたときもあった。周りの目も気にせずに。
それでも、ラチェットはクランクの言い分を聞き入れたくなかった。信じたくなかった。
自分はもう彼女を疑ってしまっているから。
「じゃあおねーさんが死んだら、こいつは使い物にならないってことだね。殺さずに上手くやっつければ良いってことだろ?」
「どうしてそういう言い方しかできないッスか!?」
「何熱くなってんだよ」
「ラチェットこそ、考えを改める時ッス!」
クランクは声を荒げて叱りつけてきた。そう言えば、無茶して彼女に怒られたときもあった。
“もう、だから言ったじゃない!無茶しないでYO!YO!そこの、素敵な、アイテム!あ、いや、素敵なネーチャンYO!”
「……ハァ~」
なんか脳裏に頭おかしい奴が出てきた。居たなぁ空気読まずにずけずけ入って来たの。
「ラチェット?」
「別に。キャナルのダウンタウンでも助けてもらったなぁって思い出してただけ」
「懐かしいッスね。キャナルではラチェットが回復した直後に、一風変わった闇商人が介入してきたッス」
「そうそう、こっちは直前まで死にかけていたってのにさ。ラン、チャー、ナンバー、エイト!ラン、チャー、ナンバー、エイト!そればっかり。普通病み上がりの客に商品売りつけるか?……ん?」
ラチェットは自分の言葉で何かを思い出そうとしていた。
「……エイト……ハチの巣で、エイト……」
“まだハチの巣が一個高~いところにあるみたいよ”
「クランク!さっきの動画観せて!!」
“取りに行ってあげれば?”
「きゅ、急に何スか?」
クランクは言われた通りにインフォボットを取り出し、先程の殺伐としていないビデオレターを再生した。
「やっぱりだ…買いに行こう、クランク!」
「買うって、何を?」
「ランチャーNo.8だよ!」
「あれを買うッスか!?あんな武器を買うボルト、どこにも無いッス」
「そっかー…高いもんなぁ」
「……“高い”?」
次はクランクが何かに気が付き、目のライトを点滅させた。
「ああ。たしか15万ボルトだろ?」
「ラチェット、もう一度ムービーを観るッスよ!」
「またぁ?」