ホーベン

あろうことか敵の旗艦、しかも管制室まで一気に辿り着くことが出来た。

「フハハハ。最後の地球人も、遂に手に入れた」

もし目の前のラスボスがサックキャノンで吸い込める大きさだったならば、冒険の旅はここで幕を閉じていただろう。

「最初からこうすれば良かったのだ。人質をあっさり解放しちまう貴様なんかに頼らずにな!」

側に突っ立っているクォークは小さなビッグバッドボスに怒鳴られるとビビって肩を縮こませた。

にしても、前々から引っかかっていたことがある。あのボスの頭の形…何かに似ているな。何だろうか。

「とりあえず、他の地球人と一緒のコンテナに入れておきます?」
「クォーク……お前はとんだばかちんだな!この女はあの邪魔者と行動を共にしていたのだ、ただの人間と同じだと思うな。こいつは我々ブラーグにとって危険な存在だが、上手く使えばことを有利に進められるのだ」
「ああー、利用価値があるってことっすね」

あ、あれだ。

「マヨネーズ頭」
「あん?」

誰が、とも言っていないのにビッグバッドボスは反応してこちらへ振り向いた。

「正確には、マヨネーズの容器ってこと」

花瓶でも良いかもしれない。もしくは壺。

呑気にそんなことを考えていたら、ブラーグ隊員の一人がこちらに銃を向けてきた。

「こやつ、ビッグボスドレック様に悪口を!」
「おい待て、いま“悪口”って言ったな。お前も俺様のことをマヨネーズ頭だとか考えていたのか」
「と、とととんでもな」
「そいつを放り出せ!」

余計な口を叩いた部下は、直前まで同僚だった兵によってフロアの外に連れ出されてしまった。

「それからクォーク!我々が救助した“人質”は特別な部屋へ連れて行け」
「あいあいさー!」

緑色の太くて大きい手が肩に伸びてくる。

「触らないでよ、このアゴクチビル!一人で歩けますから」
「アっ……アゴ…?」
「ついでに言うと、私は人質なんかじゃない。あの子達の仲間!」

ラチェットとクランクはポクタルに置いてきてしまった。この選択が正しかったのか間違っていたのかはわからない。しかしどちらにせよ、彼らはその内このラスボスをやっつけに目の前に現れるだろう。

「…まあ、今のところは逃げるつもり無いから安心して、だって」
「だって~その内、ラチェットが私を助けに来てくれるもん!…か?」
「この宇宙のヒーローが…ア、アゴクチビル…!?」
「期待したいけれど…正直なところ、わからない」

彼らはこいつを倒すためにきっと現れる。だが、果たして私を助けるためには来てくれるのだろうか?特に、何度も疑わせてしまったリーダーは私に完全に裏切られたと思っているかもしれない。

そしてナノテック入り携帯はラチェットが持っている筈。ビーチチェアの下に隠したが、彼は見つけてくれただろうか。

あれを上手く回収してくれたとして、今のあの子達には自動回復装置があり足を引っ張る仲間はいない。これ以上無い、効率良く行動できる状況だと言える。

万一ここを抜け出したとしても、私は裏切り者。

「ほう…仲間を信じられないか、否、お前さんはあいつらの“人質”だったな。失礼」
「だから人質って言わないでよ」
「フン、まあせいぜい大人しくしてろ」

その後クォークに連れ出され、狭い個室へ案内された。近未来的な壁に包まれているが、ベッドすら無い無機質な部屋だ。倉庫か何かだろう。

「トイレしたかったらそこのボタン押してね。ワンタッチですぐに」
「来いクォーク、ばかちんなでくの坊でも簡単にこなせる仕事だ!」
「はいはーい、全く人使いが荒いんだから」

緑のでくの坊が部屋の前から離れると自動ドアがスライドして閉まった。

私がここから動けなくとも、彼らはきっとこの銀河を救ってくれるだろう。

ラチェット、クランク。どうか無事でいて。

一方で、私は一体どうなるのか。ただでは返してもらえないだろう。

「……」

最悪…死ぬのかな。

死んだ後は、食べられるのかな。

そう考えた途端、怖くなってきた。体がぶるっと震える。こんな宇宙の真ん中で、独りぼっち。敵だらけ。反撃なんてできっこない。

背を壁にひっつけ、ドアを睨み身構える。

「参ったな…」

彼らが助けに来てくれるまで持つだろうか。そもそも、こんな薄情者を助けに来てくれるのだろうか。
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