会計を済ませ、皆と一緒に店の出口に向かう。

「立て替えてくれてありがとう。後で返すね」
「……」

隣を歩くクリスからは返事が来ない。彼との距離が、ここに来るまでのそれより若干広がっている気がする。

窓の外は日が沈みかけ、丁度街灯が点き始めていた。

「次どうする～？」
「はいはーい！あたしカラオげっ…」
「…やばくない？」
「い、行こ…」

前を行く女の子達は何故か急に声のトーンを下げ、喫茶店の扉を出てすぐ進行方向から逸れて行ってしまう。

しかし、クリスと夢主だけは避けられていた障害物の前で立ち止まった。

「ロールシャッハさん！」

友達になったばかりの女子達からは「知り合い？」とも聞かれず、彼女達は少し離れた位置から様子をうかがっている。

「香水見つかりましたか？」
「ああ」
「そうですか、良かったぁ…！」

夢主は本日一番の笑顔を見せた。

「帰るぞ」
「はい！」

同じ言葉をクリスに言われた時とは打って変わって、夢主はすんなり聞き入れ元気の良い返事をした。

「じゃ、じゃあね夢主ちゃん」
「また明日ね～！」
「はい、今日はありがとうございました」
「クリスくんはこっちー」

当たり前にロールシャッハについて行こうとするクリスの腕をファンの一人がしっかりと捕らえる。

「はぁ？何でだよ」
「わかってないなぁ、お２人の邪魔しちゃいけないでしょー？」
「ち、違っ、からかわないでください！」

先程の冷やかしとは違い、夢主は笑って過ごせず大声を出す。

「……」

クリスは小さくため息をついた。彼のどこか面倒臭そうな表情をじっと見つめた後、ロールシャッハは初めて彼の名前を呼んだ。

「クリス。帰るぞ」
「…おう」

残された取り巻き達は、横一列に並んで歩いていく３人の影が見えなくなるまで何も言えずにいた。

「帰るぞって…言ってたね…」
「うん、言ってた…」
「あの３人、一緒に住んでんの…？」
「まさか！夢主ちゃんはともかくクリスくんが、あのトレンチおじさんと！？」
「無い無い！」
「てか、夢主ちゃんがクリスくんと？どういうこと？」
「明日聞いてみようよ」