番外編8:都合の良い青年
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クリスは密かに意気込む夢主の前を横切り、すぐそこの喫茶店へ向かう。
「え?」
「少しくらい良いだろ」
「でも…」
彼は構わず店に入り、ドアに取り付けられたベルの音が店内に鳴り響いた。
「あ!待って、私今お金が」
「俺が出す。…チッ」
入り口で急に立ち止まるものだから、夢主はその背に鼻をぶつけそうになった。
「どうしたの?」
「帰るぞ」
振り向いた彼は眉間に皺を寄せている。
「え?帰るって、何で?」
「いいからそこどけよ」
「ああっクリスくん!」
「夢主ちゃんも!」
夢主がもたついている間に、最近聞き覚えのある声が2人を呼び止めた。
店のやや奥にあるボックス席には、先程連絡先を交換し合った女子学生が勢揃いしている。夢主はクリスを置いて彼女達の元へ駆け寄った。
「さっきはどうもです」
「なぁに~?2人で喫茶店って、やっぱりデートなんじゃ~ん」
「ウソー!」
「夢主ちゃんずる~い!」
クリスのファンはティースプーンやケーキ用のフォークを持ったままはしゃぎ出した。
「違いますよ~」
「やめなって、夢主ちゃん困ってるでしょー」
取り巻きグループに嫉妬で騒がれていることには変わりない。が、居心地の悪さは全く無く、まるで近所のおばちゃんにからかわれているような感覚だ。
「そうだ、香水見つかったの?」
「ううん」
「そっかー」
「私達も見てないよ。まあまあ、座って!」
彼女達は少しずつ腰をずらし、向かい合うソファそれぞれに一人分のスペースを空けてくれた。
が、クリスは夢主の後ろを黙って通り過ぎ、奥のカウンター席に腰を下ろす。
「ちょっと…!」
夢主が慌てて詰め寄り小声で注意するも、クリスはひじを突き顎に手を当てて顔を逸らした。
「みんながせっかく…」
「知らねぇよ」
「……」
また“知らねぇ”だ。彼の一貫した態度に夢主は一歩引いたが、
「私も…」
目つきを変え一歩踏み出した。
「私も、クリスくんの都合なんか知らない!」
「なっ何すんだよ!?おい!」
クリスの腕をぐいぐい引っ張り、皆の居るソファに無理矢理座らせた。彼のファンだけでなく、店内の人間全員が夢主の行動に目を丸くしていた。
「えっ…とー……夢主ちゃん、何頼む?」
「うーん」
自分の財布から出す訳ではないので、値段も気にしながらメニューに目を通す。
ふとテーブルを見ると、皆は既に注文済みなのか立派なデザートが並んでいた。
「コレ美味しいよー!」
「こっちは期間限定なんだって」
「味見する?ハイ、あーん」
夢主の隣に座る女の子が自分のケーキを一口分すくい、目の前に差し出してきた。
「あ、あーむ…」
断る理由も無く、夢主はされるがままにそれを口に含んだ。閉じた唇の隙間からフォークが優しくすり抜けていく。
「どう?」
「ん、美味しいね」
「次はこれ!」
先程とは別の皿からまた一口もらう。自分の手を使わず人に食べさせてもらう行為は幼少期以来だ。しかも相手は今日知り合ったばかりの同世代の女の子。
夢主は言い知れぬ居心地の悪さを感じた。
「や、もう自分で…」
「いーじゃん遠慮しないで。ハイ、あーん」
「私も夢主ちゃんに餌付けした~い」
「ふふーんっ良いでしょー?」
夢主の口にデザートを運ぶ役の女子が自慢気にフォークをぶらつかせた。
それを余所に、向かい側ではクリスが一口分のプリンを勧められていた。
「じゃあ私はクリスくんに。ハイッ」
「いらねぇよ」
「こらこら、クリスくんはそんな甘いもの食べないでしょうが」
「そうだった、ゴメンね~」
彼はまだこの子達に事実を隠したままでいる。自ら打ち明けるつもりは無いのだろう。
「……」
この際、皆の前で暴露してやろうか。
そう考えていたことを見透かされたのか、正面の彼にキツく睨まれてしまった。
「え?」
「少しくらい良いだろ」
「でも…」
彼は構わず店に入り、ドアに取り付けられたベルの音が店内に鳴り響いた。
「あ!待って、私今お金が」
「俺が出す。…チッ」
入り口で急に立ち止まるものだから、夢主はその背に鼻をぶつけそうになった。
「どうしたの?」
「帰るぞ」
振り向いた彼は眉間に皺を寄せている。
「え?帰るって、何で?」
「いいからそこどけよ」
「ああっクリスくん!」
「夢主ちゃんも!」
夢主がもたついている間に、最近聞き覚えのある声が2人を呼び止めた。
店のやや奥にあるボックス席には、先程連絡先を交換し合った女子学生が勢揃いしている。夢主はクリスを置いて彼女達の元へ駆け寄った。
「さっきはどうもです」
「なぁに~?2人で喫茶店って、やっぱりデートなんじゃ~ん」
「ウソー!」
「夢主ちゃんずる~い!」
クリスのファンはティースプーンやケーキ用のフォークを持ったままはしゃぎ出した。
「違いますよ~」
「やめなって、夢主ちゃん困ってるでしょー」
取り巻きグループに嫉妬で騒がれていることには変わりない。が、居心地の悪さは全く無く、まるで近所のおばちゃんにからかわれているような感覚だ。
「そうだ、香水見つかったの?」
「ううん」
「そっかー」
「私達も見てないよ。まあまあ、座って!」
彼女達は少しずつ腰をずらし、向かい合うソファそれぞれに一人分のスペースを空けてくれた。
が、クリスは夢主の後ろを黙って通り過ぎ、奥のカウンター席に腰を下ろす。
「ちょっと…!」
夢主が慌てて詰め寄り小声で注意するも、クリスはひじを突き顎に手を当てて顔を逸らした。
「みんながせっかく…」
「知らねぇよ」
「……」
また“知らねぇ”だ。彼の一貫した態度に夢主は一歩引いたが、
「私も…」
目つきを変え一歩踏み出した。
「私も、クリスくんの都合なんか知らない!」
「なっ何すんだよ!?おい!」
クリスの腕をぐいぐい引っ張り、皆の居るソファに無理矢理座らせた。彼のファンだけでなく、店内の人間全員が夢主の行動に目を丸くしていた。
「えっ…とー……夢主ちゃん、何頼む?」
「うーん」
自分の財布から出す訳ではないので、値段も気にしながらメニューに目を通す。
ふとテーブルを見ると、皆は既に注文済みなのか立派なデザートが並んでいた。
「コレ美味しいよー!」
「こっちは期間限定なんだって」
「味見する?ハイ、あーん」
夢主の隣に座る女の子が自分のケーキを一口分すくい、目の前に差し出してきた。
「あ、あーむ…」
断る理由も無く、夢主はされるがままにそれを口に含んだ。閉じた唇の隙間からフォークが優しくすり抜けていく。
「どう?」
「ん、美味しいね」
「次はこれ!」
先程とは別の皿からまた一口もらう。自分の手を使わず人に食べさせてもらう行為は幼少期以来だ。しかも相手は今日知り合ったばかりの同世代の女の子。
夢主は言い知れぬ居心地の悪さを感じた。
「や、もう自分で…」
「いーじゃん遠慮しないで。ハイ、あーん」
「私も夢主ちゃんに餌付けした~い」
「ふふーんっ良いでしょー?」
夢主の口にデザートを運ぶ役の女子が自慢気にフォークをぶらつかせた。
それを余所に、向かい側ではクリスが一口分のプリンを勧められていた。
「じゃあ私はクリスくんに。ハイッ」
「いらねぇよ」
「こらこら、クリスくんはそんな甘いもの食べないでしょうが」
「そうだった、ゴメンね~」
彼はまだこの子達に事実を隠したままでいる。自ら打ち明けるつもりは無いのだろう。
「……」
この際、皆の前で暴露してやろうか。
そう考えていたことを見透かされたのか、正面の彼にキツく睨まれてしまった。