番外編8:都合の良い青年
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「キミ、ここの生徒?」
せっかくの妄想に邪魔が入る。声がしたのはすぐ隣のベンチから。
そちらを見やると、見知らぬ男性がパーカーのポケットに両手を突っ込み大股を開いて座っていた。先程まで周りに誰も居なかったからこそ夢主は顔を緩ませたのだが、彼はいつの間に現れたのだろうか。
「はい、そうです…」
「ふぅ~ん」
「……」
警戒しつつ回答すると、面白がられているような馬鹿にされているような、何だか含みのある相槌をつかれた。
質問者はつば付き帽の上からダークレッドのフードを被っていて、ここからではその顔はよく見えない。声の感じや足の長さから、まず子供ではなく二十歳はとうに越えていると考えられる。ぱっと見不審者、良くて部外者だ。
が、もしかしたら彼は新しく就任する先生かもしれない。ならば滅多な態度はとれない。
「もう学校終わり?」
「え、ええ。まあ」
「そーなんだ」
「……」
夢主は肩をすくめた。反対側を向いて目を逸らしても、隣のベンチから嫌と言う程の視線を感じる。
居まずさに負けそうになるが、ロールシャッハとの約束があるので今ここを離れると面倒なことになる。こんな時、パートナーと通信する手段を持っていればどんなに良かったか。
夢主はずるずると質問に答え続けた。
「部活、何やってんの?」
「…特にしてません」
「へぇー。じゃあ塾は?って、そもそも忙しかったらこんな所に居ないよな」
「……」
アキラ達に仲間入りした後も塾通いを続けていれば逃げ出す口実にできたし、パートナーとの第二の待ち合わせ場所にもできただろう。
「その様子じゃ、バイトも無いんでしょ?」
「……」
この流れで誘われる雰囲気満々だが、まだナンパと決まった訳ではない。しかし、この後予定が無いことを徐々に確定させられていく。
まずい。お堅いロールシャッハにこんなところを見られでもしたら、自分もこの男性もただでは済まないかもしれない。
「ねえ、も一つ聞いていい?」
「…何でしょうか?」
謎の男は座っているベンチの端に移動し、こちらのベンチに近付いた。
「もしかしてさ……お金に困ってる?」
「は?」
“誰かと待ち合わせ?”“彼氏居るの?”
想像していた質問とはあまりにもかけ離れていて夢主は言葉を失う。
「気を悪くしたらごめん、君が持っている制服…っつーか洋服って、それ一着だけだったりする?」
男は自分の鼻を摘みながら鼻声で尋ねてきた。
「……」
ロールシャッハの「個性」が乗り移ってしまったのだろうか。いくら風呂に入りたがらないヒーローの大ファンだとしても、初対面の人間からこんなことを言われればそれなりにショックだ。
加えて、もうこいつの質問に正直に答えることが面倒に思えてきた。この場を早く抜け出したい。適当に話を合わせておこう、二度と会うことも無いだろうし。
「まあ、はい」
「じゃあ奢ってあげる」
ナンパ男はベンチの肘置きに体重をかけ、こちらに向かって上体を乗り出してきた。
「ひ!」
夢主は小さく叫んだ。
先程まで帽子とフードで陰っていた男の顔は、火傷か何かの影響なのか満遍なくボコボコとしているのだ。穴だらけの表皮から人体模型で見るような筋肉が覗いている。更に、顔を向かい合わせて気付いたが、この男には眉毛やモミアゲが無い。髪の毛が一本も生えていない頭が容易に想像できる。
平和なここ日本ではなかなか見慣れないその容貌は、視界に入るだけでも肌が粟立つ。
謎の男は夢主の反応など気にする様子は一切無く、上機嫌に話を進める。
「美味しいもの食べてさ、ついでに新しい洋服買いに行こうぜ!あ、俺が見立ててあげても良いし」
「そんな、困ります…!」
厚意を断れない半分恐怖半分で、夢主はベンチから身動きをとれずにいる。
拒絶するものの相手をし続けてくれる夢主に、男は顎に手をついて何故かにんまりと笑った。
せっかくの妄想に邪魔が入る。声がしたのはすぐ隣のベンチから。
そちらを見やると、見知らぬ男性がパーカーのポケットに両手を突っ込み大股を開いて座っていた。先程まで周りに誰も居なかったからこそ夢主は顔を緩ませたのだが、彼はいつの間に現れたのだろうか。
「はい、そうです…」
「ふぅ~ん」
「……」
警戒しつつ回答すると、面白がられているような馬鹿にされているような、何だか含みのある相槌をつかれた。
質問者はつば付き帽の上からダークレッドのフードを被っていて、ここからではその顔はよく見えない。声の感じや足の長さから、まず子供ではなく二十歳はとうに越えていると考えられる。ぱっと見不審者、良くて部外者だ。
が、もしかしたら彼は新しく就任する先生かもしれない。ならば滅多な態度はとれない。
「もう学校終わり?」
「え、ええ。まあ」
「そーなんだ」
「……」
夢主は肩をすくめた。反対側を向いて目を逸らしても、隣のベンチから嫌と言う程の視線を感じる。
居まずさに負けそうになるが、ロールシャッハとの約束があるので今ここを離れると面倒なことになる。こんな時、パートナーと通信する手段を持っていればどんなに良かったか。
夢主はずるずると質問に答え続けた。
「部活、何やってんの?」
「…特にしてません」
「へぇー。じゃあ塾は?って、そもそも忙しかったらこんな所に居ないよな」
「……」
アキラ達に仲間入りした後も塾通いを続けていれば逃げ出す口実にできたし、パートナーとの第二の待ち合わせ場所にもできただろう。
「その様子じゃ、バイトも無いんでしょ?」
「……」
この流れで誘われる雰囲気満々だが、まだナンパと決まった訳ではない。しかし、この後予定が無いことを徐々に確定させられていく。
まずい。お堅いロールシャッハにこんなところを見られでもしたら、自分もこの男性もただでは済まないかもしれない。
「ねえ、も一つ聞いていい?」
「…何でしょうか?」
謎の男は座っているベンチの端に移動し、こちらのベンチに近付いた。
「もしかしてさ……お金に困ってる?」
「は?」
“誰かと待ち合わせ?”“彼氏居るの?”
想像していた質問とはあまりにもかけ離れていて夢主は言葉を失う。
「気を悪くしたらごめん、君が持っている制服…っつーか洋服って、それ一着だけだったりする?」
男は自分の鼻を摘みながら鼻声で尋ねてきた。
「……」
ロールシャッハの「個性」が乗り移ってしまったのだろうか。いくら風呂に入りたがらないヒーローの大ファンだとしても、初対面の人間からこんなことを言われればそれなりにショックだ。
加えて、もうこいつの質問に正直に答えることが面倒に思えてきた。この場を早く抜け出したい。適当に話を合わせておこう、二度と会うことも無いだろうし。
「まあ、はい」
「じゃあ奢ってあげる」
ナンパ男はベンチの肘置きに体重をかけ、こちらに向かって上体を乗り出してきた。
「ひ!」
夢主は小さく叫んだ。
先程まで帽子とフードで陰っていた男の顔は、火傷か何かの影響なのか満遍なくボコボコとしているのだ。穴だらけの表皮から人体模型で見るような筋肉が覗いている。更に、顔を向かい合わせて気付いたが、この男には眉毛やモミアゲが無い。髪の毛が一本も生えていない頭が容易に想像できる。
平和なここ日本ではなかなか見慣れないその容貌は、視界に入るだけでも肌が粟立つ。
謎の男は夢主の反応など気にする様子は一切無く、上機嫌に話を進める。
「美味しいもの食べてさ、ついでに新しい洋服買いに行こうぜ!あ、俺が見立ててあげても良いし」
「そんな、困ります…!」
厚意を断れない半分恐怖半分で、夢主はベンチから身動きをとれずにいる。
拒絶するものの相手をし続けてくれる夢主に、男は顎に手をついて何故かにんまりと笑った。