番外編7:都合の良い壁
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個室のドアが開かれる音がして、誰かの足音がこちらに近付いてくる。ロールシャッハはポケットに仕舞っていたマスクを即座に被り帽子も上から乗せ、いつもの姿に戻ってしまった。
クリスは、自分が現れた途端に顔を隠したヒーローの態度を見て何とも言えない顔をした。
「…あと5分で出るってよ」
「うん、わかった。すぐ戻るね」
彼は2人の後ろを通り過ぎ、奥の男子トイレに入っていった。
「…済まない」
謝った。あのロールシャッハが謝罪した。
「な…何がですか?」
「お前も今日を楽しみにしていたんだろう」
歌う時間を奪ってしまって申し訳ない、ということを言いたいのだろう。
「いえ、良いんです。ロールシャッハさんのお顔を拝見できましたし、それだけでもう充分ですから」
「忘れろ」
「はい?」
「俺の顔は、これだ。これが、ロールシャッハだ」
彼はそう告げると空のコップを掴み部屋へと歩き出す。
「…言い触らしたりしませんから」
「忘れろ」
「……」
ロールシャッハの冷たい態度で実感した。
彼がディスクから解放されれば、もうこうしてカラオケに来ることも、肩を並べて話をすることもできなくなってしまうだろう。一緒に居る必要が無くなるから。ヒーローとただの一般市民の関係に戻る日が、接点の無い2人に戻る日が、いつか必ず訪れる。
ずっとこのままではいられないのだ。
「素顔を覚えられては……面倒だ」
加えて、夢主をわざと突き放す言葉を言っているようで、彼の背中がとても寂しそうに見えてしまった。
彼を怒らせる行為とは承知の上で夢主は駆け出していた。無言で後ろからロールシャッハに抱き付き、顔も密着させる。
「貴様っ、何の、真似を」
「ごめんなさいっ少しだけ!…少しだけ、こうさせて下さい…!」
彼の胴にまわした手がどうしても震える。
「お願い…」
にじみ出た涙がトレンチコートの背に染み込んでしまった。
「……5分も無いぞ」
「わかってます」
「……」
引き離しもせず、唸りもせず、まわされた子供の腕に手を重ねることもせず、ロールシャッハはただじっと立ち続ける。
「…チッ」
薄い壁越しに全てを聞かされていたクリスは、トイレから出るタイミングを完全に見失っていた。
クリスは、自分が現れた途端に顔を隠したヒーローの態度を見て何とも言えない顔をした。
「…あと5分で出るってよ」
「うん、わかった。すぐ戻るね」
彼は2人の後ろを通り過ぎ、奥の男子トイレに入っていった。
「…済まない」
謝った。あのロールシャッハが謝罪した。
「な…何がですか?」
「お前も今日を楽しみにしていたんだろう」
歌う時間を奪ってしまって申し訳ない、ということを言いたいのだろう。
「いえ、良いんです。ロールシャッハさんのお顔を拝見できましたし、それだけでもう充分ですから」
「忘れろ」
「はい?」
「俺の顔は、これだ。これが、ロールシャッハだ」
彼はそう告げると空のコップを掴み部屋へと歩き出す。
「…言い触らしたりしませんから」
「忘れろ」
「……」
ロールシャッハの冷たい態度で実感した。
彼がディスクから解放されれば、もうこうしてカラオケに来ることも、肩を並べて話をすることもできなくなってしまうだろう。一緒に居る必要が無くなるから。ヒーローとただの一般市民の関係に戻る日が、接点の無い2人に戻る日が、いつか必ず訪れる。
ずっとこのままではいられないのだ。
「素顔を覚えられては……面倒だ」
加えて、夢主をわざと突き放す言葉を言っているようで、彼の背中がとても寂しそうに見えてしまった。
彼を怒らせる行為とは承知の上で夢主は駆け出していた。無言で後ろからロールシャッハに抱き付き、顔も密着させる。
「貴様っ、何の、真似を」
「ごめんなさいっ少しだけ!…少しだけ、こうさせて下さい…!」
彼の胴にまわした手がどうしても震える。
「お願い…」
にじみ出た涙がトレンチコートの背に染み込んでしまった。
「……5分も無いぞ」
「わかってます」
「……」
引き離しもせず、唸りもせず、まわされた子供の腕に手を重ねることもせず、ロールシャッハはただじっと立ち続ける。
「…チッ」
薄い壁越しに全てを聞かされていたクリスは、トイレから出るタイミングを完全に見失っていた。