第一部:都合の良い女
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
とんでもないファングッズを片手に、夢主は静まりかえった住宅街を走り続ける。まだ明るい商店街に面した交番まで後少し。
「待てよ…」
ウォッチメンの日本語訳コミックを思い出す。ロールシャッハが警官達に捕らえられ布のマスクを無理矢理はがされる、あの屈辱的シーン。
不安がよぎる。
ヒーローの活躍により不満を抱きストライキを起こした警察。ロールシャッハを逮捕した警察。スーパーヒーロー登録法と同様のルール、キーン条例にただただ従う警察。
「……」
自分にとってのバイブルがいくら写実的と言えど、漫画と現実は違う。現実の警察を漫画によって疑うなんて、自分はどうかしている。歩を進める。でも、拭いきれない。歩みを止める。
商店街まで、後少し。
「……警察で、大丈夫かな?」
「不安ならそのディスク、おじさんが預かろう」
背後からの聞き覚えのない声に振り向く。
「こんな所にも落ちていたのか。しかも奴の言っていた通り、ファイト属性とは」
その男は、日本では珍しすぎる派手なベネチアンマスクを装着している。素顔を知られたくないのだろうか。夢主は違和感から警戒した。
「…どちら様ですか?」
「聞こえなかったか?そのディスクをこっちに渡してくれ」
「…どうしてですか?」
ディスクと呼ばれるそれを胸の前で強く握りしめる。
「……その様子じゃ、それが何なのか感づいてしまったらしいな」
よく見ると、男は刀を携えている。只ならぬ雰囲気に後ずさると、横の暗い道から黄色のマスクをした男が現れた。更に数歩下がる。
「まあまあ聞けって。お嬢ちゃんも知ってるだろ?登録したヒーローしか活躍できねぇ、なんとか法ってやつ。各地のヒーローは今、窮屈な思いをさせられている。俺等はそういう、まどろっこしいの嫌いでさ」
「そう、縛り付ける必要は無い。ヒーローもヴィランも、自分の好きなように力を発揮すりゃあ良い」
目の前の2人は勝手に話を進めていく。
「だが、ディスクに閉じ込められている間に警察に見つかっちゃあ、元も子も無ぇだろ?そのために俺等は、ディスクを見つけては解放し見つけては解放しながら世界を回ってるって訳さ」
「……」
「だから俺等に任せて、君はさっさとお家に帰って寝てれば良い。さあ」
「私は…今から、警察に」
「届けようってか?警察の手に渡ったら最後、その中の奴は二度とお天道様の下には出られなくなる。違うか?」
「!」
今手に握りしめているロールシャッハは、普段からなりふり構わず己の信条を貫くが故、法やルールに反発的なヒーローと認知されている。殺しもいとわないヒーローは、警察や法律家、登録法を制定するようなお偉いさんにとって非常に鼻につく存在だろう。あと単純に臭いって意味でも。
「……」
だからと言って、急に現れてベラベラ説明してくる人物が信頼できるという理由にはならない。
夜道で大人2人に絡まれて恐怖感もあるが、この大事な装置を差し出す気は更々無い。
「…ちょっと、考えさせ」
「難しいことは言っていない。ただそいつを渡してほしいだけだ」
「でも」
「しつこい奴だな、良いから寄越せっつってんだろ!」
「こ、交番!」
「…あ?」
夢主は自分が居る位置を思い出した。遂に荒げられた声に怯まず、相手が一番困るであろう話題を振る。
「すぐそこ。角に交番あるの、見えてるでしょ。おまけに商店街。ちょっと走って私が大声出せばどうなるか…わかりますよね?」
2人が一定の距離を保ったまま襲ってこないのは、下手に動けば子供に容易く警察を呼ばれてしまう恐れがあるから。
彼等にとっても夢主にとっても、それは微妙な距離間だった。
「待てよ…」
ウォッチメンの日本語訳コミックを思い出す。ロールシャッハが警官達に捕らえられ布のマスクを無理矢理はがされる、あの屈辱的シーン。
不安がよぎる。
ヒーローの活躍により不満を抱きストライキを起こした警察。ロールシャッハを逮捕した警察。スーパーヒーロー登録法と同様のルール、キーン条例にただただ従う警察。
「……」
自分にとってのバイブルがいくら写実的と言えど、漫画と現実は違う。現実の警察を漫画によって疑うなんて、自分はどうかしている。歩を進める。でも、拭いきれない。歩みを止める。
商店街まで、後少し。
「……警察で、大丈夫かな?」
「不安ならそのディスク、おじさんが預かろう」
背後からの聞き覚えのない声に振り向く。
「こんな所にも落ちていたのか。しかも奴の言っていた通り、ファイト属性とは」
その男は、日本では珍しすぎる派手なベネチアンマスクを装着している。素顔を知られたくないのだろうか。夢主は違和感から警戒した。
「…どちら様ですか?」
「聞こえなかったか?そのディスクをこっちに渡してくれ」
「…どうしてですか?」
ディスクと呼ばれるそれを胸の前で強く握りしめる。
「……その様子じゃ、それが何なのか感づいてしまったらしいな」
よく見ると、男は刀を携えている。只ならぬ雰囲気に後ずさると、横の暗い道から黄色のマスクをした男が現れた。更に数歩下がる。
「まあまあ聞けって。お嬢ちゃんも知ってるだろ?登録したヒーローしか活躍できねぇ、なんとか法ってやつ。各地のヒーローは今、窮屈な思いをさせられている。俺等はそういう、まどろっこしいの嫌いでさ」
「そう、縛り付ける必要は無い。ヒーローもヴィランも、自分の好きなように力を発揮すりゃあ良い」
目の前の2人は勝手に話を進めていく。
「だが、ディスクに閉じ込められている間に警察に見つかっちゃあ、元も子も無ぇだろ?そのために俺等は、ディスクを見つけては解放し見つけては解放しながら世界を回ってるって訳さ」
「……」
「だから俺等に任せて、君はさっさとお家に帰って寝てれば良い。さあ」
「私は…今から、警察に」
「届けようってか?警察の手に渡ったら最後、その中の奴は二度とお天道様の下には出られなくなる。違うか?」
「!」
今手に握りしめているロールシャッハは、普段からなりふり構わず己の信条を貫くが故、法やルールに反発的なヒーローと認知されている。殺しもいとわないヒーローは、警察や法律家、登録法を制定するようなお偉いさんにとって非常に鼻につく存在だろう。あと単純に臭いって意味でも。
「……」
だからと言って、急に現れてベラベラ説明してくる人物が信頼できるという理由にはならない。
夜道で大人2人に絡まれて恐怖感もあるが、この大事な装置を差し出す気は更々無い。
「…ちょっと、考えさせ」
「難しいことは言っていない。ただそいつを渡してほしいだけだ」
「でも」
「しつこい奴だな、良いから寄越せっつってんだろ!」
「こ、交番!」
「…あ?」
夢主は自分が居る位置を思い出した。遂に荒げられた声に怯まず、相手が一番困るであろう話題を振る。
「すぐそこ。角に交番あるの、見えてるでしょ。おまけに商店街。ちょっと走って私が大声出せばどうなるか…わかりますよね?」
2人が一定の距離を保ったまま襲ってこないのは、下手に動けば子供に容易く警察を呼ばれてしまう恐れがあるから。
彼等にとっても夢主にとっても、それは微妙な距離間だった。