「死にたがりを今後も助ける程、俺は優しくない」
「今後も…？」

すっかり元気を無くした夢主の代わりにジェシカが聞き返す。

「ああ。こいつには特殊なバイオコードが埋め込まれている。奴等はそれに固執しているようだ。大分な」

最後の言葉にわざわざ重みをつけてロールシャッハは言い放つ。

「わ、私達が守るわ！」
「そうだ！悪者が何度さらいに来ようと、俺達が夢主を守ってみせる！」

アキラも機内に立ち入り、へそ曲がりなヒーローに向かって強く宣言する。

「なら、仮に守り続けた結果、奴等がこいつを諦めたとしよう。それで終わると思うか？」
「え？」
「終わりじゃないの…？」
「奴等は新しいモルモットを入手し、懲りずに研究を続けるだろう」

第二、第三の検体。監禁室でロールシャッハの助けを待っている間、白衣男がそんな言葉を口にしていたのを夢主は思い出していた。

「イタチごっこの始まりだな」
「そんな…！」
「だ、だからって、夢主をあいつ等に渡して良い理由にはならない！」

アキラの主張を無視し、ロールシャッハは畳み掛けていく。

「話は戻るが、もう一つ。向こうには見るからに泳ぎが得意なヴィランが居る。一度倒しはしたが、万全の状態で控えている可能性だってあった。実際、アベンジャーズと戦えるまでに回復していた」
「タイガーシャークのこと？」

今回も特にこれといった活躍はしていなかったが、海の上での戦闘において一番注意しなければならなかったヴィランだ。

「でも！ワスプ達が倒したから！」
「どちらにしろ、こいつが海に身を投げた時点で悪党共の勝ちはほぼ決まっていた。オールの漕ぎ方さえ知っていれば、誰でも簡単に死体からディスクを回収することができるんだからな」

子供２人が息を呑んだ後、特にジェシカの眉がつり上がる。

「死体だなんて…そんな言い方無いじゃない！！」
「他に何がある」
「う……いっ今すぐには出てこないけどっ、言い方ってモンがあるでしょ！？」
「トニーにもキツいって言われてたじゃんか！」
「フン」

彼は最初夢主と言い合っていたが、最早ジェシカやアキラとの口喧嘩になっていた。

他の子供達も機内の様子がおかしいことに気が付き、スタークジェットの前に集まる。

「とにかく。海へ飛び込んだ、あれは得策とは言えない。むしろ最悪な策だった」

夢主がやっとの思いで口にした言葉は、一番言いたかった礼ではなく謝罪だった。

「ごめんなさい…」
「謝罪一つで全て解決できれば御の字だな」
「……」

バイオコードのことにまで口を出したロールシャッハは、夢主を飛行機に残し先に降りていってしまった。