体が何かにぶつかる感覚がしたが、あまり痛くはなかった。一瞬で死んだからだろうか？

だが、まだ意識がある。息ができる。横向きに潮風を切っている。何か金属のような硬いものに背中と膝裏を支えられている。

「全く、君達は…大した根性だ。見てるこっちがヒヤヒヤする」

まだ生きている。

ゆっくり目蓋を開くと、黄色と赤のアーマーに身を包んだヒーローが目に映った。

「こちらアイアンマン。お姫様の救出完了！引き上げるぞ、アベンジャーズ！」

夢主は有名なヒーローに抱き抱えられ、空を飛んでいる。

「何をしている貴様等！早く実験体を回収しろ！」
「んなこた言われたって、さっきっから前が見えねぇんだよぉ～！」

ずっと放っておかれていたヴィラン達の顔面には蜘蛛の糸のようなものが大量に付着していて、なかなか取り除くことができない。

「くっ！ならば我々が直接……？何だこの煙幕は！？」
「前が見えねぇぞ！」

悪党自らチャーター機で追いかけようとするが、甲板はたちまち濃い煙に包まれた。発生源は、遅れてやって来ていた茶色い楕円型の飛行機。

「我々の役目は、これくらいかな？」
「よーっし、僕等も撤退だ！」

そのスピードはジェット機には劣るものの、一目散に船の死角から去っていった。

「ロキは何してるのよ！？」

当然の疑問だ。ピンチに満を持して現れたかと思えば、こんな事態になってもちっとも助けに来ない。

と、大きな音を立ててデッキに何かが落下してきた。

「今度は何だ！？」

衝撃で周囲の煙幕を少しだけかき分けたのは我らが邪神様であった。彼の腹にめり込んでいるハンマーのような武器は、米粒ほど小さくなった飛行機目掛けて戻っていった。

兄上のお陰でどんよりしていた空も元通り晴れていく。雲一つ無い青空の中、太陽がアイアンマンのパワードスーツをよく照らした。