第五部:都合の良い男
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「……」
「……」
2人で物陰に隠れていると、念願のお姫様だっこをされ優しく貨物の裏に降ろされた瞬間を思い出した。何とかして抜け出そうと広い船内を逃げ回っていた、あの数日前の思い出に呑気に浸っていた。
「その……なんだ…」
気付けば、何故かロールシャッハの手が夢主の頭の上にそっと置かれている。
「……よく耐えた」
顔の向きは瓦礫の外のまま、小声で褒められた。何のことかは明言されなかったが、監禁されている間諦めずにヒーローを待ち続けていたことを言っているのだろう。
「伊達に貴方のファンやってませんから!」
笑顔で答えるとあっさり手を降ろされる。
ロールシャッハの目線の先には奮闘中のアベンジャーズ。夢主も様子をそっとうかがう。
「アイアンマンとワスプが助けに来てくれたなんて…!」
「あれだけではない。アベンジャーズ全員だ」
「アベンジャーズが、全員っ!?」
思わず大きめな声を上げてしまい自分で口を覆ったが、騒ぎで誰にも気付かれなかったみたいだ。
「後でお礼言わないと…」
「……情けないか?」
彼がこぼした言葉の意味がよく分からず、ただ次の発言を待つ。
「自分の力だけでは助けに来れなかった。力が無いから、他人に頼ることになる」
そう吐き捨てたロールシャッハは、顔の正面はそのままに己の拳を握り締めた。
「そんなこと、ないですよ」
ありふれた言い返しではあるが、決して建前や外面などではなく、夢主の本心から自然と出てきた言葉だった。
「だって…それって、私のために……」
たった一人の人間を助け出すために、彼は彼自身にとって苦手で困難なことをやってのけてくれたのだ。
「貴方は私が想像していたよりも、ずっと素敵なヒーローです」
「……」
目の前の男は少しだけ顔を俯かせる。
「つくづく出来た女だ」
聞き間違いかと思った。ロールシャッハが“女”という単語を使って女性を褒めた。嬉しさや恥ずかしさよりも驚きが遥かに大きい。
先程の手もそうだが、ここへ来て何故急に彼の態度がこうも甘いのか?
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?ロールシャッハさんって女性が苦手、というか……嫌い、なんですよね?」
たまに週刊誌に載れば風俗店に火をつけていたり、娼婦を一方的にタコ殴りにしていたり、町中で突撃インタビューに来た美人ニュースキャスターに掴みかかって企画を台無しにしたりと、物騒な記事ばかりだ。ロールシャッハにおいては、特に女性に対しては優しさの欠片も無いイメージが民衆に植え付けられている。
「何故そう考える」
「女性に対していつも厳しい、というか、キツいから…」
彼はアイアンマンに注意された“言い回しがキツい”を思い出したが、そんな小言を気にしているなんて微塵も悟られたくないし、そもそもそんなちっぽけなことが優しさの理由じゃない。
「下品な人間が嫌いなだけだ。メディアは誇張し過ぎている」
「なら、コミックの方が正しいんですか?」
「あれも大袈裟だが……まあ、比較的近い」
「じゃ、じゃあ…!」
「ム?」
ロールシャッハは真横から並々ならぬ熱い視線を感じ取り、やっと夢主の方へ顔を向けた。
「わっ私のことは…!?」
間髪を容れずに元の方向へ戻した。
「道端に落ちているものに躊躇無く顔を擦り付ける女も嫌いだ」
「道端?……あ!」
手首に装着しているこのディスクを見つけた日。道端で拾い、自分の欲望を少しだけ解放したあの日を思い出した。
「あ、あれはその、つい……いや、何で知って…」
「ディスクの中に居る間、俺の意識が途切れることは無かった」
その点については、わざわざ言われなくとも夢主は何となく理解していた。中身の何かが意識を保っているからこそ、青ディスクがひとりでにカタカタ動いたのだと予想していたから。
「だから、全部見ていた」
「見ていた?」
予想外の言葉に思わず聞き返す。
「お前がディスクを拾ったことも、警察に差し出すか大分迷っていたことも、俺だけでも逃がそうとしたことも、その後奴等に……とにかく、全部見ていた」
「全部…?」
「厳密に言えば、分かっていた。眼球を通してはいないからな」
彼は全てを理解していた。子供との出会いから、彼女の偏った嗜好、悪党によって理不尽に与えられた苦痛まで。それらを知った上で、ロールシャッハは夢主に対する態度や振る舞いを決めていたのだ。
夢主についてだけではない。一度目の脱出の際、外に置きっぱなしの飛行機を奪おうとデッキを目指していたことにも合点がいく。
そして、夢主を少なくとも嫌ってはいないという事実が判明した。
「だから……俺をディー・スマッシュしたのが、お前で良かった」
「……」
ファンにとっての最上級の褒め言葉により何も言えずに固まっていると、ヒーローは我に返ったようにそっぽを向き軽く咳払いした。
「……」
2人で物陰に隠れていると、念願のお姫様だっこをされ優しく貨物の裏に降ろされた瞬間を思い出した。何とかして抜け出そうと広い船内を逃げ回っていた、あの数日前の思い出に呑気に浸っていた。
「その……なんだ…」
気付けば、何故かロールシャッハの手が夢主の頭の上にそっと置かれている。
「……よく耐えた」
顔の向きは瓦礫の外のまま、小声で褒められた。何のことかは明言されなかったが、監禁されている間諦めずにヒーローを待ち続けていたことを言っているのだろう。
「伊達に貴方のファンやってませんから!」
笑顔で答えるとあっさり手を降ろされる。
ロールシャッハの目線の先には奮闘中のアベンジャーズ。夢主も様子をそっとうかがう。
「アイアンマンとワスプが助けに来てくれたなんて…!」
「あれだけではない。アベンジャーズ全員だ」
「アベンジャーズが、全員っ!?」
思わず大きめな声を上げてしまい自分で口を覆ったが、騒ぎで誰にも気付かれなかったみたいだ。
「後でお礼言わないと…」
「……情けないか?」
彼がこぼした言葉の意味がよく分からず、ただ次の発言を待つ。
「自分の力だけでは助けに来れなかった。力が無いから、他人に頼ることになる」
そう吐き捨てたロールシャッハは、顔の正面はそのままに己の拳を握り締めた。
「そんなこと、ないですよ」
ありふれた言い返しではあるが、決して建前や外面などではなく、夢主の本心から自然と出てきた言葉だった。
「だって…それって、私のために……」
たった一人の人間を助け出すために、彼は彼自身にとって苦手で困難なことをやってのけてくれたのだ。
「貴方は私が想像していたよりも、ずっと素敵なヒーローです」
「……」
目の前の男は少しだけ顔を俯かせる。
「つくづく出来た女だ」
聞き間違いかと思った。ロールシャッハが“女”という単語を使って女性を褒めた。嬉しさや恥ずかしさよりも驚きが遥かに大きい。
先程の手もそうだが、ここへ来て何故急に彼の態度がこうも甘いのか?
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?ロールシャッハさんって女性が苦手、というか……嫌い、なんですよね?」
たまに週刊誌に載れば風俗店に火をつけていたり、娼婦を一方的にタコ殴りにしていたり、町中で突撃インタビューに来た美人ニュースキャスターに掴みかかって企画を台無しにしたりと、物騒な記事ばかりだ。ロールシャッハにおいては、特に女性に対しては優しさの欠片も無いイメージが民衆に植え付けられている。
「何故そう考える」
「女性に対していつも厳しい、というか、キツいから…」
彼はアイアンマンに注意された“言い回しがキツい”を思い出したが、そんな小言を気にしているなんて微塵も悟られたくないし、そもそもそんなちっぽけなことが優しさの理由じゃない。
「下品な人間が嫌いなだけだ。メディアは誇張し過ぎている」
「なら、コミックの方が正しいんですか?」
「あれも大袈裟だが……まあ、比較的近い」
「じゃ、じゃあ…!」
「ム?」
ロールシャッハは真横から並々ならぬ熱い視線を感じ取り、やっと夢主の方へ顔を向けた。
「わっ私のことは…!?」
間髪を容れずに元の方向へ戻した。
「道端に落ちているものに躊躇無く顔を擦り付ける女も嫌いだ」
「道端?……あ!」
手首に装着しているこのディスクを見つけた日。道端で拾い、自分の欲望を少しだけ解放したあの日を思い出した。
「あ、あれはその、つい……いや、何で知って…」
「ディスクの中に居る間、俺の意識が途切れることは無かった」
その点については、わざわざ言われなくとも夢主は何となく理解していた。中身の何かが意識を保っているからこそ、青ディスクがひとりでにカタカタ動いたのだと予想していたから。
「だから、全部見ていた」
「見ていた?」
予想外の言葉に思わず聞き返す。
「お前がディスクを拾ったことも、警察に差し出すか大分迷っていたことも、俺だけでも逃がそうとしたことも、その後奴等に……とにかく、全部見ていた」
「全部…?」
「厳密に言えば、分かっていた。眼球を通してはいないからな」
彼は全てを理解していた。子供との出会いから、彼女の偏った嗜好、悪党によって理不尽に与えられた苦痛まで。それらを知った上で、ロールシャッハは夢主に対する態度や振る舞いを決めていたのだ。
夢主についてだけではない。一度目の脱出の際、外に置きっぱなしの飛行機を奪おうとデッキを目指していたことにも合点がいく。
そして、夢主を少なくとも嫌ってはいないという事実が判明した。
「だから……俺をディー・スマッシュしたのが、お前で良かった」
「……」
ファンにとっての最上級の褒め言葉により何も言えずに固まっていると、ヒーローは我に返ったようにそっぽを向き軽く咳払いした。