番外編??+5:都合の良い4人
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「さーあ、何でも話してみろ!このジョエル様がどーんと解決してやるよ!」
「……」
先程の口喧嘩相手が隣に移動してきただけで、状況は別段変わっていない。
またもや夢主は黙秘を決め込んでいたが、男性達の痺れが切れるよりも前に4人分の料理が運ばれてきた。
「まあ、冷めない内に頂きましょうか」
今頃になって思い出したが、今日は朝から何も口にしていない。
フルーツの爽やかな香りとパンケーキのほんのりとした甘い匂いが、更には隣の席より漂ってくる匂いと鉄板の上で跳ねる肉汁の音が空っぽの胃袋を呼び起こした。それは間もなく無視できない辛さへと変わる。
「ん?食わねえの?」
この人達は犯罪者だ。自分に酷いことをしてきた悪者だ。しかし周りから見れば、この4人の関係性は明確でないものの仲良く晩御飯を共にしているだけ。
「……いただきます」
夢主は不思議な雰囲気に包まれながらもナイフとフォークを手に取った。
「お、パイナップル乗ってんじゃーん。くれ!」
そう言うと大きめのフォークは返事も聞かずに目の前のトッピングを奪っていった。悩みを聞いてくれるのではなかったのか。
「ほらよ、これと交換な!」
ステーキに添えられていた人参がホイップクリームの中に転がり込んできた。その温かい野菜に絡んでいる肉汁とソースが白いクリームをデザートらしからぬ色へとじわじわ染めていく。
「……」
丁度口の中に物があるし、泣いた後で精神的にも疲れていて文句を言う気力すら無い。結局モモとバナナ、それと頂点に飾られていたサクランボも好きにさせた。
隣は声のデカいガキ大将、正面はほとんど黙っている強面、おまけに斜め向かいは手癖が悪いセクハラ男ときた。自らついて来ておいて言えることではないが、何なんだこの地獄は。奢ってくれると言っていたので、自分の皿を済ませればもう用は無い。さっさとここを出て行こう。
「あ。ティム」
うざったい子供は夢主越しに窓の外を見て呟いた。
「ロゼッタも。んな焦ってどーしたんだ?」
窓の向こうで金髪の男性と女性が一生懸命にジェスチャーを始める。人通りが無い訳ではないので、2人とも流石にベネチアンマスクは装着していない。
「コイツが、何?…叩け?…退けろ?聞こえねーから分かんねえよ」
あいにくガラスが厚く彼等の声は一切聞こえないが、外の通行人は必ず好奇の目を向けてきている。大袈裟に喚いていることだけは十分伝わった。
身振り手振りを諦め直接店内に駆け込んできた2人をジョエルは立ち上がって迎える。
「おう、お前等。さっきの何て言ってたんだ?つーか何か頼む?」
「何をやってるんだ貴様等!?」
「何って、見て分かりませんか?ささやかな食事を楽しんでいるのですよ」
「そこボケなくても良いから!その子供が誰だか、忘れたとは言わせないわよ!」
「はぁ?誰って、ロールシャッハのパートナーだったガキだろ?名前は…って、そういや名前何だっけ?」
今更な質問にこちらも呑気に答えた。
「そーそー、そういやアベンジャーズのパートナー達がそう呼んでたな」
「ジョエル、可憐な女の子に向かってガキは無いでしょう」
「ええ?可憐かぁ?」
柄の悪い男が席には着かず背もたれに手を突いて夢主と目の高さを合わせ、じいっと覗き込んでくる。いきなり顔を近付けられたので思わずのけ反った。
「分かっていませんねぇ、女性は皆可憐です。繊細で壊れやすく、それでいて男性には無い活力で溢れているのですよ」
マニーノは目を閉じて自慢げに語るが、悲しいことに誰も彼の話に耳を傾けていない。
「たしかにこの辺は可憐だな。アメリカのねーちゃん見習え!」
派手な人生を送っているであろうミュージシャンにとっては経験上比較的乏しい胸元に視線を注がれながら言われてしまう。まだ成長過程にあるのだから大きなお世話だ。
「わ、私はそういう意味で言ったのではありませんからね!そもそも可憐というのはですね…」
「可憐かどうかとか、そんなことはどうでも良い!!」
いまいち危機意識のなっていない仲間に対して苛立ちを隠しきれず、ティムは遂にテーブルへ拳を叩き付けた。
「そいつは数少ない、我々のやってきたことを知る人物なんだぞ!何故仲良く食事をしている!?」
「そうよ、もし通報でもされたらどうするの!?」
夢主がナイフを皿に立て掛けた音で困った大人達のお喋りがピタッと止んだ。
「貴方達は私を捕まえて、酷いことをしました。それだけでも十分犯罪です」
真実を語り出した夢主によって5人の間に緊張が走る。
「でも、お陰で憧れのロールシャッハさんとパートナーになれました。強くて頼もしい、アキラくん達やアベンジャーズの皆さんと出会えました。けど……その後も貴方達に狙われ続けて、とても怖い思いをしました。怪我もしました」
この子供が騒ぎ始めたらすぐにでも押さえ込めるよう、悪党達はそれぞれ身構えた。特に真向かいに座る男は、周囲の客や店員を誤魔化しつつ店の外へ連れ出し処理をするところまで想定していた。
しかし、考えながら絞り出されていく言葉はセレブリティ5だけでなく発言者本人にとっても意外なものであった。
「だけど……今は一緒にご飯食べてるから……別に、良いかなぁと」
「……?」
「その……だから、一緒に食べません?」
かつて悪事を働いていた大人達の目は、その全部が漏れなく真ん丸く開かれてしまった。
「……」
この子供は一体何を考えているのか。敵対するヴィラン側の人間、しかも自分のことをモルモット扱いしてきた悪党を食事に誘うという神経が信じ難く、ティムはしばし夢主を観察していた。しかし、迷いこそあれど裏表の無いお誘いからは何の魂胆も読み取れなかった。
細かいことは呑気な3人組に後々追及するとして、彼は実験体第一号だった少女の隣へ渋々着席した。
「……」
先程の口喧嘩相手が隣に移動してきただけで、状況は別段変わっていない。
またもや夢主は黙秘を決め込んでいたが、男性達の痺れが切れるよりも前に4人分の料理が運ばれてきた。
「まあ、冷めない内に頂きましょうか」
今頃になって思い出したが、今日は朝から何も口にしていない。
フルーツの爽やかな香りとパンケーキのほんのりとした甘い匂いが、更には隣の席より漂ってくる匂いと鉄板の上で跳ねる肉汁の音が空っぽの胃袋を呼び起こした。それは間もなく無視できない辛さへと変わる。
「ん?食わねえの?」
この人達は犯罪者だ。自分に酷いことをしてきた悪者だ。しかし周りから見れば、この4人の関係性は明確でないものの仲良く晩御飯を共にしているだけ。
「……いただきます」
夢主は不思議な雰囲気に包まれながらもナイフとフォークを手に取った。
「お、パイナップル乗ってんじゃーん。くれ!」
そう言うと大きめのフォークは返事も聞かずに目の前のトッピングを奪っていった。悩みを聞いてくれるのではなかったのか。
「ほらよ、これと交換な!」
ステーキに添えられていた人参がホイップクリームの中に転がり込んできた。その温かい野菜に絡んでいる肉汁とソースが白いクリームをデザートらしからぬ色へとじわじわ染めていく。
「……」
丁度口の中に物があるし、泣いた後で精神的にも疲れていて文句を言う気力すら無い。結局モモとバナナ、それと頂点に飾られていたサクランボも好きにさせた。
隣は声のデカいガキ大将、正面はほとんど黙っている強面、おまけに斜め向かいは手癖が悪いセクハラ男ときた。自らついて来ておいて言えることではないが、何なんだこの地獄は。奢ってくれると言っていたので、自分の皿を済ませればもう用は無い。さっさとここを出て行こう。
「あ。ティム」
うざったい子供は夢主越しに窓の外を見て呟いた。
「ロゼッタも。んな焦ってどーしたんだ?」
窓の向こうで金髪の男性と女性が一生懸命にジェスチャーを始める。人通りが無い訳ではないので、2人とも流石にベネチアンマスクは装着していない。
「コイツが、何?…叩け?…退けろ?聞こえねーから分かんねえよ」
あいにくガラスが厚く彼等の声は一切聞こえないが、外の通行人は必ず好奇の目を向けてきている。大袈裟に喚いていることだけは十分伝わった。
身振り手振りを諦め直接店内に駆け込んできた2人をジョエルは立ち上がって迎える。
「おう、お前等。さっきの何て言ってたんだ?つーか何か頼む?」
「何をやってるんだ貴様等!?」
「何って、見て分かりませんか?ささやかな食事を楽しんでいるのですよ」
「そこボケなくても良いから!その子供が誰だか、忘れたとは言わせないわよ!」
「はぁ?誰って、ロールシャッハのパートナーだったガキだろ?名前は…って、そういや名前何だっけ?」
今更な質問にこちらも呑気に答えた。
「そーそー、そういやアベンジャーズのパートナー達がそう呼んでたな」
「ジョエル、可憐な女の子に向かってガキは無いでしょう」
「ええ?可憐かぁ?」
柄の悪い男が席には着かず背もたれに手を突いて夢主と目の高さを合わせ、じいっと覗き込んでくる。いきなり顔を近付けられたので思わずのけ反った。
「分かっていませんねぇ、女性は皆可憐です。繊細で壊れやすく、それでいて男性には無い活力で溢れているのですよ」
マニーノは目を閉じて自慢げに語るが、悲しいことに誰も彼の話に耳を傾けていない。
「たしかにこの辺は可憐だな。アメリカのねーちゃん見習え!」
派手な人生を送っているであろうミュージシャンにとっては経験上比較的乏しい胸元に視線を注がれながら言われてしまう。まだ成長過程にあるのだから大きなお世話だ。
「わ、私はそういう意味で言ったのではありませんからね!そもそも可憐というのはですね…」
「可憐かどうかとか、そんなことはどうでも良い!!」
いまいち危機意識のなっていない仲間に対して苛立ちを隠しきれず、ティムは遂にテーブルへ拳を叩き付けた。
「そいつは数少ない、我々のやってきたことを知る人物なんだぞ!何故仲良く食事をしている!?」
「そうよ、もし通報でもされたらどうするの!?」
夢主がナイフを皿に立て掛けた音で困った大人達のお喋りがピタッと止んだ。
「貴方達は私を捕まえて、酷いことをしました。それだけでも十分犯罪です」
真実を語り出した夢主によって5人の間に緊張が走る。
「でも、お陰で憧れのロールシャッハさんとパートナーになれました。強くて頼もしい、アキラくん達やアベンジャーズの皆さんと出会えました。けど……その後も貴方達に狙われ続けて、とても怖い思いをしました。怪我もしました」
この子供が騒ぎ始めたらすぐにでも押さえ込めるよう、悪党達はそれぞれ身構えた。特に真向かいに座る男は、周囲の客や店員を誤魔化しつつ店の外へ連れ出し処理をするところまで想定していた。
しかし、考えながら絞り出されていく言葉はセレブリティ5だけでなく発言者本人にとっても意外なものであった。
「だけど……今は一緒にご飯食べてるから……別に、良いかなぁと」
「……?」
「その……だから、一緒に食べません?」
かつて悪事を働いていた大人達の目は、その全部が漏れなく真ん丸く開かれてしまった。
「……」
この子供は一体何を考えているのか。敵対するヴィラン側の人間、しかも自分のことをモルモット扱いしてきた悪党を食事に誘うという神経が信じ難く、ティムはしばし夢主を観察していた。しかし、迷いこそあれど裏表の無いお誘いからは何の魂胆も読み取れなかった。
細かいことは呑気な3人組に後々追及するとして、彼は実験体第一号だった少女の隣へ渋々着席した。