番外編??+5:都合の良い4人
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
見晴らしの良い別荘で朝日を拝むのは久しぶりだ。ジェシカ・シャノンはその程良く癖のついた髪をいつもの位置で結わえながら部屋に戻ってきて、着替えは終えたもののまだまどろみ気味のショートカットへ声を掛ける。
「おはよう夢主。ロールシャッハ、なんか急ぎの用で朝早くから出掛けたみたいよ。クリスが言ってた」
「え?……あ、そうなんだ…」
元パートナーがどこで何をしようが最早関係の無いこと。しかし、それを聞いた夢主は腰掛けているベッドから立ち上がる気になれなかった。
パートナーの学校への送り迎えは欠かさず、それ以外の時はディスクの中に収まるか、もし夢主の余力があれば東京の街を適当に散策。かつてロールシャッハの外出と言ったらこのパターンであった。今となっては彼は自由の身だ。あの頃よりもずっと。
「……」
自由なことは良いことだ。ディスクからの解放は本人がかねてから望んでいたことでもある。だが、眠っていたとはいえ声すら掛けてくれずに出て行ってしまう態度には、素直に喜べないのが本音だ。
彼の中の自分は、もう薄れてしまったのだろうか。
「おい」
些細なことで沈んでいた夢主を引き戻したのは、今も唯一ファイト属性のディスク全般を扱える男の子だった。女子部屋の外に立ち、1本の赤い花をこちらへ差し出してきている。
「おはようクリスくん。綺麗な薔薇だね」
「これはお前のだ」
「あらら~?とうとうクリスも名乗りを上げるの?」
朝の支度をしっかり済ませたジェシカが2人の間に顔を挟んで楽しそうに横槍を入れてくる。
「面白くなってきたわね。薔薇の花言葉って何だったかしら?」
「バッ、違ぇよ!朝早くに、ロールシャッハから渡しそびれたって頼まれてたんだ。俺同じ部屋だったし」
昨晩、彼の定位置はたしかにエドの隣にあったが、説教部屋と化したヒカルとサムの居る寝室から逃げ出してきたアキラに占領されていた。
「なんでアキラがここに居るんだよ」
「兄さん、なんかまだ怒ってるみたいで。布団にくるまったサムの隣のベッドで寝ながら説教してる」
「ヒカルは怒らせると怖いね…」
「だからこっちで一緒に寝ようと思って。枕投げしようぜ!」
「もうそんな歳じゃないだろ」
「クリス、どこ行くの?」
「空いてるベッドがある部屋」
異臭がほのかに漂う部屋以外の扉はロックが掛けっぱなしになっていたため、クリスは一晩だけならと不潔男との相部屋で手を打った。
「うええ、よく我慢できたわね~クリス。私ならソファで寝るわ」
「誰かさんがリビングでぼーっと夜更かししてなけりゃ、俺だってそうした」
「ご、ごめんなさい…」
「……ほらよ」
罪悪感から萎縮する少女へ、青年は自分が握っていた茎の方からプレゼントを手渡した。
「夕方には帰るってよ」
「ふーん、なら自分で渡せば良いのに。ね、夢主」
「こっ、これはっ!!」
その衝撃は、ロールシャッハファンの憂鬱な気分をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「な、何なの?」
「いきなりデカい声出すなよ」
夢主からの説明や謝罪は無い。受け取った物に驚いているようだが、いくら観察してもジェシカとクリスにはただの薔薇の花にしか見えなかった。
「皆おっはよー!」
「ごめんクリス、僕のせいでアキラが君のベッドを取っちゃって」
「夢主、それ何?薔薇?誰から?」
異様な大声を聞きつけ、アカツキ兄弟とサムが女子部屋前の廊下に集まってきた。3人ともまだ寝間着の状態だ。
「あ、それ…もしかしてウォッチメンのストーリーに出てくるやつじゃないかな」
最後に来たエドが夢主以外のメンバーへ解説を始める。
「ロールシャッハのマンガに、薔薇?」
「うん。物語の序盤で、コメディアンの墓に供えられた薔薇の花束からロールシャッハが1本だけ持ち帰るシーンがあるんだよ」
エドが話している間も、夢主は真紅の花弁に頬を寄せうっとりと目を瞑っていた。
「きっと、久しぶりに会う夢主へのプレゼントをロールシャッハなりに考えて準備してたんだね」
「そうかしら?昨日のことを受けて急いで用意したんじゃないの?自分も何かしておかなきゃー、何か渡さなきゃーって。すっかりモテモテじゃな~い……って、聞いてない…」
彼女のこんなにも幸せそうな顔を、サム・アレキサンダーは今日初めて目の当たりにした。
「……」
今まで彼女を笑わせたり怒らせたり、終いには泣かせたりもした。だが、この表情は如何にして創り出せば良いのか全く見当が付かない。自分には、こんな顔をさせてやれない。
青年はすぐ傍で突っ立っている、どうにも届かないものをただただ眺めていた。ぽっかりと空いてしまったその穴に、いくらか背の低いエドが極々優しく触れる。
「残念だったね、サム」
「残念だったな」
「残念だったわね」
「ハァ!?」
アキラとヒカルはこれといった反応も無く、打ちのめされ破顔する若者の後ろで顔を見合わせていた。
「なんか俺、これ前にも見たことある気がする」
「気がするじゃなくて、実際にあったんだよアキラ…」
「ええ?」
可能性を兄によって潰された当人よりも、端から見ていたエドの方がノリコの件をしっかりと覚えている。
「でもさ!まだ、そういう薔薇だって決まってないだろ?ロールシャッハはただマンガを真似したってだけで…」
「どっちにしろ勝ち目無いって。夢主は私達と会う前からああなの」
「おはよう夢主。ロールシャッハ、なんか急ぎの用で朝早くから出掛けたみたいよ。クリスが言ってた」
「え?……あ、そうなんだ…」
元パートナーがどこで何をしようが最早関係の無いこと。しかし、それを聞いた夢主は腰掛けているベッドから立ち上がる気になれなかった。
パートナーの学校への送り迎えは欠かさず、それ以外の時はディスクの中に収まるか、もし夢主の余力があれば東京の街を適当に散策。かつてロールシャッハの外出と言ったらこのパターンであった。今となっては彼は自由の身だ。あの頃よりもずっと。
「……」
自由なことは良いことだ。ディスクからの解放は本人がかねてから望んでいたことでもある。だが、眠っていたとはいえ声すら掛けてくれずに出て行ってしまう態度には、素直に喜べないのが本音だ。
彼の中の自分は、もう薄れてしまったのだろうか。
「おい」
些細なことで沈んでいた夢主を引き戻したのは、今も唯一ファイト属性のディスク全般を扱える男の子だった。女子部屋の外に立ち、1本の赤い花をこちらへ差し出してきている。
「おはようクリスくん。綺麗な薔薇だね」
「これはお前のだ」
「あらら~?とうとうクリスも名乗りを上げるの?」
朝の支度をしっかり済ませたジェシカが2人の間に顔を挟んで楽しそうに横槍を入れてくる。
「面白くなってきたわね。薔薇の花言葉って何だったかしら?」
「バッ、違ぇよ!朝早くに、ロールシャッハから渡しそびれたって頼まれてたんだ。俺同じ部屋だったし」
昨晩、彼の定位置はたしかにエドの隣にあったが、説教部屋と化したヒカルとサムの居る寝室から逃げ出してきたアキラに占領されていた。
「なんでアキラがここに居るんだよ」
「兄さん、なんかまだ怒ってるみたいで。布団にくるまったサムの隣のベッドで寝ながら説教してる」
「ヒカルは怒らせると怖いね…」
「だからこっちで一緒に寝ようと思って。枕投げしようぜ!」
「もうそんな歳じゃないだろ」
「クリス、どこ行くの?」
「空いてるベッドがある部屋」
異臭がほのかに漂う部屋以外の扉はロックが掛けっぱなしになっていたため、クリスは一晩だけならと不潔男との相部屋で手を打った。
「うええ、よく我慢できたわね~クリス。私ならソファで寝るわ」
「誰かさんがリビングでぼーっと夜更かししてなけりゃ、俺だってそうした」
「ご、ごめんなさい…」
「……ほらよ」
罪悪感から萎縮する少女へ、青年は自分が握っていた茎の方からプレゼントを手渡した。
「夕方には帰るってよ」
「ふーん、なら自分で渡せば良いのに。ね、夢主」
「こっ、これはっ!!」
その衝撃は、ロールシャッハファンの憂鬱な気分をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「な、何なの?」
「いきなりデカい声出すなよ」
夢主からの説明や謝罪は無い。受け取った物に驚いているようだが、いくら観察してもジェシカとクリスにはただの薔薇の花にしか見えなかった。
「皆おっはよー!」
「ごめんクリス、僕のせいでアキラが君のベッドを取っちゃって」
「夢主、それ何?薔薇?誰から?」
異様な大声を聞きつけ、アカツキ兄弟とサムが女子部屋前の廊下に集まってきた。3人ともまだ寝間着の状態だ。
「あ、それ…もしかしてウォッチメンのストーリーに出てくるやつじゃないかな」
最後に来たエドが夢主以外のメンバーへ解説を始める。
「ロールシャッハのマンガに、薔薇?」
「うん。物語の序盤で、コメディアンの墓に供えられた薔薇の花束からロールシャッハが1本だけ持ち帰るシーンがあるんだよ」
エドが話している間も、夢主は真紅の花弁に頬を寄せうっとりと目を瞑っていた。
「きっと、久しぶりに会う夢主へのプレゼントをロールシャッハなりに考えて準備してたんだね」
「そうかしら?昨日のことを受けて急いで用意したんじゃないの?自分も何かしておかなきゃー、何か渡さなきゃーって。すっかりモテモテじゃな~い……って、聞いてない…」
彼女のこんなにも幸せそうな顔を、サム・アレキサンダーは今日初めて目の当たりにした。
「……」
今まで彼女を笑わせたり怒らせたり、終いには泣かせたりもした。だが、この表情は如何にして創り出せば良いのか全く見当が付かない。自分には、こんな顔をさせてやれない。
青年はすぐ傍で突っ立っている、どうにも届かないものをただただ眺めていた。ぽっかりと空いてしまったその穴に、いくらか背の低いエドが極々優しく触れる。
「残念だったね、サム」
「残念だったな」
「残念だったわね」
「ハァ!?」
アキラとヒカルはこれといった反応も無く、打ちのめされ破顔する若者の後ろで顔を見合わせていた。
「なんか俺、これ前にも見たことある気がする」
「気がするじゃなくて、実際にあったんだよアキラ…」
「ええ?」
可能性を兄によって潰された当人よりも、端から見ていたエドの方がノリコの件をしっかりと覚えている。
「でもさ!まだ、そういう薔薇だって決まってないだろ?ロールシャッハはただマンガを真似したってだけで…」
「どっちにしろ勝ち目無いって。夢主は私達と会う前からああなの」