今日も今日とて夢主は日課のため、授業が終わるといの一番に勉強道具を鞄に仕舞い立ち上がった。が、ノートなど取らなくとも定期テストに全く困らなそうな頭脳の持ち主に呼び止められる。

「ノ…サムくん」
「アハハ、いい加減慣れてよ」

サム・アレキサンダーは少しだけ眉間に皺を寄せながら、席を立ちわざわざこちらに向かって歩いてきた。

「そうそう夢主、ノート写させてくんない？」
「え？私の？」

彼は先程まで一緒につるんでいた男子学生ではなく、今にも教室を出ようとしているクラスメイトに強請った。

いつも仲良くしている友達に頼めば良いのにという疑問と若干の面倒臭さを少し込めながら、サムの肩越しに見える彼等へ目をやった。男子学生等はニヤニヤしながら若い男女のペアを横目で眺めていて、目が合いそうになると我関せずな態度を見せつけるようにそっぽを向いた。何とも言えない居心地の悪さから夢主はすぐに目を伏せた。

一方、サムは相手の浮かない気分などそっちのけ。自分のための言い分を考えることで頭が一杯だった。

「あー、それは、アレだよ、ほら！…俺がたまに授業抜ける理由って夢主しか知らないだろ？」

サムは片手を己の口元に添え、肩をすくめ小声で同意を求めてくる。

彼はただの学生ではない。スーパーヒーローノバに変身して、ノバ・フォースから授かった力を駆使しヴィランと日々戦っている正義の味方だ。東京の街を、民衆を、夢主を守ってくれている。勿論、学業の方も疎かにできない。このインターナショナルスクールに転入した日の夜、ディスクに封印され授業を休み続けてしまった彼にとっては、来たるテストも重要なイベントなのだ。

よって彼はヒーロー稼業の片手間に遅れた勉強を取り戻すという、かなりハードな二重生活を送っている。

「んー…うん、そうだね」
「決まりっ！」

とは言えサムの主張は理論的に成り立っていない。が、大変な思いをしている恩人からのお願いとあらば夢主は断る訳にはいかなかった。