ロールシャッハに貰ったバッヂを見つめていると、短い芝生をサクサクと踏みしめる音が正面から近付いてきて目の前で止まった。

「暗い顔してどーしたの？お嬢さん」

しゃがれた低い声ではなく、聞き慣れない若い声なことにがっかりしながらも顔を上げる。

「ノバくん！？」
「どもっ」

意外な人物の登場に夢主の声は裏返りそうになった。彼は片腕を軽く上げ、爽やかに挨拶してみせた。

「じゃなくて…サムくん、だっけ？」
「どっちでも良いよ、どっちも俺だし。それより久しぶり！」
「久しぶり…！どうしてここに？」

ノバもといサムは夢主のすぐ隣に腰を下ろし、順を追って説明し始めた。

「俺、前ここに転入してからすぐディスクに封印されたじゃん？出席日数足りなくってさ、また学校行かなきゃいけなくなったって訳。みんなのヒーローノバ様だって、学生には変わりないからね。てことで！しばらくの間はよろしく～」

そう言い終えて彼は人好きのする顔をしてみせた。

「うん、よろしくね」

これは明日から一部の女子に活気が戻ってくるに違いない。

クリスやヒカルとは系統が違うが、彼もなかなか整った容姿をしていて成績優秀・運動神経抜群だ。彼は元々人を惹き付けるカリスマ性を持ち合わせているが、能力に関してはノバ・フォースの影響もある。

「アベンジャーズや他のヒーローと一緒に活動してるとさ、たまに夢主達が話題に上がるんだよね」
「そうなんだ。皆さんは元気にしてる？」

ロールシャッハの近況が聞けるかもしれないと夢主は密かに期待したが、あの堅物頑固とこのひょうきん者が頻繁に交流しているとは思えない。勝手な願望を人知れず打ち消した。

「勿論！最近じゃ元気が有り余って、ヴィランが可哀想に思える程さ。ホント、夢主に分けてあげたいくらいだよ」

その言葉で、先程指摘されたことを思い出す。

「私、そんな元気無い顔してた？」
「うん。端から見ててもかなり」
「そっか…」
「何かあった？」
「ううん、別に…大したことじゃないの」
「…ふーん」

夢主は軽く受け流し、また手元に目線を落とした。