番外編41:都合の良い褒美
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一本道の通路を夢主は足音をなるべく抑えながら駆け抜ける。
まだ青空は拝めていないが、部屋の外に出ただけで解放感が断然違う。空気もすっきりしている気がする。
現状、鬼の影は無し。
「……」
ヴィラン不参加と言えど相手は大の大人。子供1人が9時間も逃げ続けることなんて、実際は難しいだろう。
だったらこの鬼ごっこの目的は?もしかしたら、せめて外の空気でも吸わせてやるかという、絶望的状況に陥った子供へのお情けかもしれない。
「いや、駄目だ、諦める癖…ロールシャッハさんなら、絶対諦めない!9時間逃げ切れば…」
「見つけたぜぇ~」
気を引きしめ分かれ道に差し掛かったところで、夢主は通路いっぱいの顔面に出くわした。
「え!?」
「つーかまーえ、おおっと危ねえ!」
モードックは顔の大きさにそぐわない短い手を伸ばしてくる。が、夢主が避けると同時に彼は思い留まった。
「直接捕まえちゃアウトだなんて歯痒いぜぇ」
「どうしてヴィランが…!?」
「ゲームのルールを失念したかね?」
象鼻仮面の男が通路とモードックとの隙間を縫ってわざわざ手前に這い出てきた。まだ白衣の端が挟まっている。
「鬼は我々5人。故に、ヴィランに確保は命じてはいない。各自、平常通りの見回りを再開させたがな。タイガーシャークより泳ぎが得意ならば、今すぐ海へ飛び込むのも名案だろう」
捕獲役は悪党5人に加え、様々な特殊能力を持つヴィラン達。こんな鬼ごっこ、負けるに決まっている。
「そんな、どうして…」
夢主の握り拳には、震えのせいで大した力が入らない。
「じゃあどうして、ゲームなんか!そもそもこんなっ、理不尽なこと…!」
この状況を打開する力を持たない人間の子供は憎しみを乗せて訴える。実験体呼ばわりしてくる相手に響かないことなど百も承知だが、声を荒らげげずにはいられなかった。
「ふむ。理由を明示した方が有意データを望めるか」
「?」
「私は実験体、貴様のバイタルをチェックしているのだ。その腕の枷により計測および発信される脈拍や血圧その他身体的データ、そしてスペシャルバイオコードの変化の有無を」
外さない方が良いと言われた手枷に目を落とすが、一見、ただ重いだけで何の変哲もない代物だ。頑丈で鍵穴は小さく、爪で溝を引っ掻いたところでびくともしない。
「安心したまえ、位置情報を発信する機能は持ち合わせていない。用途は単なるデータ採取、言わば実験の延長だ。それが私の、この鬼ごっこの主目的。だが他の4人は純粋に……娯楽が目的だ」
「娯楽?」
「退屈なのだよ。ヒーローが駆け付ける気配も無く、ただただ船を南下させるミッション。根っからの悪党共は痺れを切らしている」
「そ、そんな…!」
この科学者、そしてこの船に居る人達、私を何だと思っている。同じ人間同士なのに。
「せいぜい醜く足掻きなさい。ていうかショックってことは、まだ人間扱いを期待してたの?」
仮面集団の紅一点がティムの背後から姿を現し、金髪をたなびかせた。毛先で目尻をくすぐられたモードックは小さく呻き引き下がる。
「私達がアンタをお客様として扱う訳無いじゃない。それか、まさか同情で一旦解放されたとか思ってた訳?バッカみたい」
「まあ、ジョエルはあの肉体には関心があるようだったが」
「その話は止めなさいよ、気色悪いわ……って、逃げられちゃったじゃない!」
夢主は2人のお喋りには耳を貸さず、通せん坊されていない道を選んでいた。
「追うわよ!」
「私としては、十分なデータが揃うまでは泳がせておきたいものだが。それに、慌てなくとも結果は目に見えている……しかし」
ティムは手元にある小型装置の記録を辿った。急激に高い数値を表したグラフを幾度か見返す。
「今の会話の中の、何が奴の精神に響いた?」
まだ青空は拝めていないが、部屋の外に出ただけで解放感が断然違う。空気もすっきりしている気がする。
現状、鬼の影は無し。
「……」
ヴィラン不参加と言えど相手は大の大人。子供1人が9時間も逃げ続けることなんて、実際は難しいだろう。
だったらこの鬼ごっこの目的は?もしかしたら、せめて外の空気でも吸わせてやるかという、絶望的状況に陥った子供へのお情けかもしれない。
「いや、駄目だ、諦める癖…ロールシャッハさんなら、絶対諦めない!9時間逃げ切れば…」
「見つけたぜぇ~」
気を引きしめ分かれ道に差し掛かったところで、夢主は通路いっぱいの顔面に出くわした。
「え!?」
「つーかまーえ、おおっと危ねえ!」
モードックは顔の大きさにそぐわない短い手を伸ばしてくる。が、夢主が避けると同時に彼は思い留まった。
「直接捕まえちゃアウトだなんて歯痒いぜぇ」
「どうしてヴィランが…!?」
「ゲームのルールを失念したかね?」
象鼻仮面の男が通路とモードックとの隙間を縫ってわざわざ手前に這い出てきた。まだ白衣の端が挟まっている。
「鬼は我々5人。故に、ヴィランに確保は命じてはいない。各自、平常通りの見回りを再開させたがな。タイガーシャークより泳ぎが得意ならば、今すぐ海へ飛び込むのも名案だろう」
捕獲役は悪党5人に加え、様々な特殊能力を持つヴィラン達。こんな鬼ごっこ、負けるに決まっている。
「そんな、どうして…」
夢主の握り拳には、震えのせいで大した力が入らない。
「じゃあどうして、ゲームなんか!そもそもこんなっ、理不尽なこと…!」
この状況を打開する力を持たない人間の子供は憎しみを乗せて訴える。実験体呼ばわりしてくる相手に響かないことなど百も承知だが、声を荒らげげずにはいられなかった。
「ふむ。理由を明示した方が有意データを望めるか」
「?」
「私は実験体、貴様のバイタルをチェックしているのだ。その腕の枷により計測および発信される脈拍や血圧その他身体的データ、そしてスペシャルバイオコードの変化の有無を」
外さない方が良いと言われた手枷に目を落とすが、一見、ただ重いだけで何の変哲もない代物だ。頑丈で鍵穴は小さく、爪で溝を引っ掻いたところでびくともしない。
「安心したまえ、位置情報を発信する機能は持ち合わせていない。用途は単なるデータ採取、言わば実験の延長だ。それが私の、この鬼ごっこの主目的。だが他の4人は純粋に……娯楽が目的だ」
「娯楽?」
「退屈なのだよ。ヒーローが駆け付ける気配も無く、ただただ船を南下させるミッション。根っからの悪党共は痺れを切らしている」
「そ、そんな…!」
この科学者、そしてこの船に居る人達、私を何だと思っている。同じ人間同士なのに。
「せいぜい醜く足掻きなさい。ていうかショックってことは、まだ人間扱いを期待してたの?」
仮面集団の紅一点がティムの背後から姿を現し、金髪をたなびかせた。毛先で目尻をくすぐられたモードックは小さく呻き引き下がる。
「私達がアンタをお客様として扱う訳無いじゃない。それか、まさか同情で一旦解放されたとか思ってた訳?バッカみたい」
「まあ、ジョエルはあの肉体には関心があるようだったが」
「その話は止めなさいよ、気色悪いわ……って、逃げられちゃったじゃない!」
夢主は2人のお喋りには耳を貸さず、通せん坊されていない道を選んでいた。
「追うわよ!」
「私としては、十分なデータが揃うまでは泳がせておきたいものだが。それに、慌てなくとも結果は目に見えている……しかし」
ティムは手元にある小型装置の記録を辿った。急激に高い数値を表したグラフを幾度か見返す。
「今の会話の中の、何が奴の精神に響いた?」