番外編41:都合の良い褒美
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大型貨物船に取り残された夢主は狭く薄暗い独房へ閉じ込められていた。ロールシャッハの脱出劇から少なくとも丸一日は経っただろうかという頃。
「ごちそうさまです…」
ここでの扱いは意外にも良い方だ。簡素だがベッドがあり、味・栄養バランス共に考慮された食事も一日三食欠かさず運び込まれている。もうじき物腰柔らかな男が食器を下げに来る時間。
「ゲームをしないか?実験体」
足音だけでは流石に判別できなかった。扉を開いたのは顔を全て覆った仮面男ではなく、科学者だ。警戒した夢主は部屋の隅まで引き下がった。
娘の反応に構わず、ティムは空いた食器を下げながら実験材料へ話し掛け続ける。
「この船内にて一定時間逃げ切ることができれば、貴様を解放してやろう」
「!?解放…?」
「タイムリミットは今から9時間。その間、どの部屋に身を隠すも船内を走り続けるも自由だ。時刻は各部屋の時計で確認すると良い」
「おーいティム、退屈なら来いってそういうことかよ」
夢主が驚いている間に、色とりどりの仮面達が独房前で全員集合した。
「言われた通りアボミネーションをディスクに戻したけどよ、パーティーのレクでもするつもりか~?」
「せっかく捕まえてんのに、解放しちゃうってどういうことよ!?」
「一体何の真似だ。やる必要性を説明しろ」
「全く、理解に苦しみますね」
呼び出された4人の態度は皆否定的なものだった。
「食後の運動にしてはリスキーじゃありませんか?まあ…仮に実行するとして、鬼はどうするんです?」
「我々5人だ。相手は生身の子供、ヴィランに確保を命ずれば結果は目に見えている。今は丁度ヴィランの見回りを解いているし…」
「メンド臭ぇし意味不明。俺パース」
ジョエルは早々に踵を返した。
ティムの独断に反対なのは悪党達だけではない。
「私だって、そんなことしない。待っていればロールシャッハさんが助けに来てくれるもの。私は余計なことはしないから!」
「貴様には拒否権は無い、第一号。お前達、この実験体を確保したら報告の後ここまで連れ戻せ。何処で何をしていようと、報告が無い限り、私の関与するところではない」
「?」
「フフフ…スマートブレインさん、それはさすがに酷ではありませんか?」
夢主やなんとなく立ち止まったジョエルはまだそのルールの意味を理解しきれていない。固い表情のままのジュウベエが補足する。
「捕まえた後ティムへ報告するまでの間はコイツを好きにすると良い、ということだろ」
「!?」
今まで強気の姿勢だった夢主の体がこわばる。
「……マジ?」
「用途についてはゲーム開始後に要相談だがな。実験体が実験体足り得ぬ代物になってしまえば本末転倒だ」
新たな条件に食い付き足早に舞い戻ってきた男をマニーノは鼻で笑う。
「ジョエル、法に引っ掛かることでも思い付きましたか?」
「まーな!」
「サイテー。まあ、暴力したい気持ちは分からなくもないわ。暴れ回った挙げ句逃げたヒーローの責任は、ディー・スマッシュした人に取ってもらわなきゃ」
「に、逃げただけじゃない!ロールシャッハさんは、絶対っ、絶対助けに来てくれる…!」
「いちいちうるさいのよっ!今すぐいじめてほしいのかしら!?」
癇癪を起こし気味のロゼッタを制するようにティムは壁となり道を開ける。
「出たまえ」
夢主をここに閉じ込めている障害物は今完全に無くなった。
「……」
「手枷は装着したままが良いだろう。万一逃げおおせた際、善良な人々から同情を買いやすい」
「……」
おずおずと部屋の外に踏み出した少女は無言のまま5人の前を横切ったが、行き当たった曲がり角の前で振り向く。
「本当に…本当に、逃げ切ったら…」
「ああ。この船から解放してやろう」
「何か企んでいるんじゃ…」
「そう難しく考える必要はない。逃げ切れば解放、捕まれば現状維持。如何様に転ぼうと実験体第一号、貴様にとっては何らデメリットは無いのだ」
「……」
夢主はまだ彼等に疑いの目を向けているものの、希望は希望。それがたった一筋でも、それがわざと用意されたものだとしても、今はすがるべきだろう。
「スタートだ」
そもそも、立場の弱い彼女に選択の余地は無かった。有無を言わさず部屋から出された時点で、前に進むしかない。
ひとまず、設定されたゴールを目指して夢主は走り出した。
「なんだかんだでワクワクしてきたぜ!」
「ねえコレ本当に大丈夫なの?私達だけで捕まえるなんて…もし逃げ切られちゃったりしたら…」
「行くぞ。あのガキ、真っ先に海へ脱出するかもしれない」
「まず我々鬼がすべきミッションは、緊急避難用ボートの使用阻止ですかね」
「フッ、逃げ切る?脱出?有り得ない」
ティムは平然とした態度でロゼッタ達の気掛かりを全否定する。
「私はルール説明時、ヴィランに『確保を』命ずれば、と言ったのだ」
「……なるほどね。そういうことなら、ディー・スマッシュ!」
キングコブラとタイガーシャークを召喚した彼女以外も各々ディスクを構え、この場で床へ叩き付けた。
「だから『今は丁度』ヴィランの見回りを解いている、と仰ったのですね。全く、意地の悪い方だ」
「貴様には言われたくないなマニーノ。私は目的が無ければこのような事、実行に移しなどしない」
「ごちそうさまです…」
ここでの扱いは意外にも良い方だ。簡素だがベッドがあり、味・栄養バランス共に考慮された食事も一日三食欠かさず運び込まれている。もうじき物腰柔らかな男が食器を下げに来る時間。
「ゲームをしないか?実験体」
足音だけでは流石に判別できなかった。扉を開いたのは顔を全て覆った仮面男ではなく、科学者だ。警戒した夢主は部屋の隅まで引き下がった。
娘の反応に構わず、ティムは空いた食器を下げながら実験材料へ話し掛け続ける。
「この船内にて一定時間逃げ切ることができれば、貴様を解放してやろう」
「!?解放…?」
「タイムリミットは今から9時間。その間、どの部屋に身を隠すも船内を走り続けるも自由だ。時刻は各部屋の時計で確認すると良い」
「おーいティム、退屈なら来いってそういうことかよ」
夢主が驚いている間に、色とりどりの仮面達が独房前で全員集合した。
「言われた通りアボミネーションをディスクに戻したけどよ、パーティーのレクでもするつもりか~?」
「せっかく捕まえてんのに、解放しちゃうってどういうことよ!?」
「一体何の真似だ。やる必要性を説明しろ」
「全く、理解に苦しみますね」
呼び出された4人の態度は皆否定的なものだった。
「食後の運動にしてはリスキーじゃありませんか?まあ…仮に実行するとして、鬼はどうするんです?」
「我々5人だ。相手は生身の子供、ヴィランに確保を命ずれば結果は目に見えている。今は丁度ヴィランの見回りを解いているし…」
「メンド臭ぇし意味不明。俺パース」
ジョエルは早々に踵を返した。
ティムの独断に反対なのは悪党達だけではない。
「私だって、そんなことしない。待っていればロールシャッハさんが助けに来てくれるもの。私は余計なことはしないから!」
「貴様には拒否権は無い、第一号。お前達、この実験体を確保したら報告の後ここまで連れ戻せ。何処で何をしていようと、報告が無い限り、私の関与するところではない」
「?」
「フフフ…スマートブレインさん、それはさすがに酷ではありませんか?」
夢主やなんとなく立ち止まったジョエルはまだそのルールの意味を理解しきれていない。固い表情のままのジュウベエが補足する。
「捕まえた後ティムへ報告するまでの間はコイツを好きにすると良い、ということだろ」
「!?」
今まで強気の姿勢だった夢主の体がこわばる。
「……マジ?」
「用途についてはゲーム開始後に要相談だがな。実験体が実験体足り得ぬ代物になってしまえば本末転倒だ」
新たな条件に食い付き足早に舞い戻ってきた男をマニーノは鼻で笑う。
「ジョエル、法に引っ掛かることでも思い付きましたか?」
「まーな!」
「サイテー。まあ、暴力したい気持ちは分からなくもないわ。暴れ回った挙げ句逃げたヒーローの責任は、ディー・スマッシュした人に取ってもらわなきゃ」
「に、逃げただけじゃない!ロールシャッハさんは、絶対っ、絶対助けに来てくれる…!」
「いちいちうるさいのよっ!今すぐいじめてほしいのかしら!?」
癇癪を起こし気味のロゼッタを制するようにティムは壁となり道を開ける。
「出たまえ」
夢主をここに閉じ込めている障害物は今完全に無くなった。
「……」
「手枷は装着したままが良いだろう。万一逃げおおせた際、善良な人々から同情を買いやすい」
「……」
おずおずと部屋の外に踏み出した少女は無言のまま5人の前を横切ったが、行き当たった曲がり角の前で振り向く。
「本当に…本当に、逃げ切ったら…」
「ああ。この船から解放してやろう」
「何か企んでいるんじゃ…」
「そう難しく考える必要はない。逃げ切れば解放、捕まれば現状維持。如何様に転ぼうと実験体第一号、貴様にとっては何らデメリットは無いのだ」
「……」
夢主はまだ彼等に疑いの目を向けているものの、希望は希望。それがたった一筋でも、それがわざと用意されたものだとしても、今はすがるべきだろう。
「スタートだ」
そもそも、立場の弱い彼女に選択の余地は無かった。有無を言わさず部屋から出された時点で、前に進むしかない。
ひとまず、設定されたゴールを目指して夢主は走り出した。
「なんだかんだでワクワクしてきたぜ!」
「ねえコレ本当に大丈夫なの?私達だけで捕まえるなんて…もし逃げ切られちゃったりしたら…」
「行くぞ。あのガキ、真っ先に海へ脱出するかもしれない」
「まず我々鬼がすべきミッションは、緊急避難用ボートの使用阻止ですかね」
「フッ、逃げ切る?脱出?有り得ない」
ティムは平然とした態度でロゼッタ達の気掛かりを全否定する。
「私はルール説明時、ヴィランに『確保を』命ずれば、と言ったのだ」
「……なるほどね。そういうことなら、ディー・スマッシュ!」
キングコブラとタイガーシャークを召喚した彼女以外も各々ディスクを構え、この場で床へ叩き付けた。
「だから『今は丁度』ヴィランの見回りを解いている、と仰ったのですね。全く、意地の悪い方だ」
「貴様には言われたくないなマニーノ。私は目的が無ければこのような事、実行に移しなどしない」