番外編37:都合の悪い虫達
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アマデウスは完全に蜂の針が出来上がっている3人の次に、各触手がフランスパン程にまで大きくなった夢主と対面した。
「うわあ」
どことなく脱力気味な彼女は、ベッドに腰掛けるだけでは自分の上体を支えきれないのか壁に背を預けている。
「うわあって言われた…」
「事前に情報は貰っていたけれど、こっちもこっちで大変だね。僕を呼んだだけのことはあるかも」
相手が地味にショックを受けていることなど気にも留めず、科学者達は淡々と話を続ける。
「今のところ、夢主の症状が一番進んでいる」
「そうですね。グロテスクな触手に異様な肌の色、質感も人間のものとは大分違うな。でも大丈夫、必ず元の姿に戻してあげるよ。これからよろしくね」
そう言って心身共に弱った女の子と握手すれば、手の平に何やら違和感が。離そうとしてもその違和感が邪魔をする。
「これは…!」
手と手の間を覗き込んでようやく原因が判明した。弾力のある吸盤数個が2人をしつこく繫ぎ留めている。
「あっ、ごめんなさい、これ勝手にくっついちゃって…!」
「今外すから、じっとしてて」
相手の腕を掴んで何とか外すがそこにもまた別の吸盤があり、今度は彼女の腕と自分の手がくっついた。シャツが間にあってもお構いなしに吸い付いてくる。
「布越しにこの吸着力か」
「あっやだ、もう…ごめんなさい」
生まれて初めて持つ吸盤の扱いが分からず、意志に反して彼を引き留めてしまう。遠路遥々助けに来てくれた協力者へ早速迷惑をかけてしまった。
「おーい、そこ。イチャイチャの時間はその辺にしておけ」
「急がなきゃいけないんじゃないの~?スタークさん待ってるよー」
少女の気持ちや事情を知ってか知らずか、年上の男性陣は半笑いでからかってくる。
「君も一度経験すると良いよピーター。これ多分、条件反射で吸い付いているんだ」
「本当、ごめんなさい…」
「気にしないで。その代わり、吸盤が取れた後、改めて僕と手を繋いでくれるかい?」
フォローの意も込めてアマデウスは黒い瞳と爽やかな笑顔をしょぼくれた女子に真っ直ぐ向ける。
「あーっと、アマデウス?路線を変更しよう。その子にはこれ以上ベタベタしない方が…特にお手々はマズいかも」
スパイダーセンスの反応に加え背筋に悪寒を感じたピーターは若干早口で友に助言する。
何かあった時の為に前もって実体化しておいたヒーローが、マスク越しに部屋の隅から客人を見張っていた。
「こっちを見るな」
視線が集まるのを嫌がっている彼は今こそ大人しくしているものの、時と場合により行動開始するだろう。
肝心の夢主はというと、
「ええと、握手好きなんですか?」
かなり疲弊していることもあってからか、同年代男子からのお誘いを単語そのままの意味で受け取っていた。
「……まあいいや、本題に入ろう。君が想像しているのはイカ?それともタコ?」
「タ、タコです…一応…」
「どんなタコ?何色?もしかしてとても大きい?」
「う……あ、あ…!」
思い出してはいけない記憶を強制的に掻き立てられ、夢主は頭を抱え込んだ。触手ははち切れるようにより太く、ギザギザの歯はより鋭く長く変化していく。
「アマデウス!なんてことを!?」
「邪魔しないでください、今分析しているんです!」
うなだれる夢主の声を聞き漏らさないよう、彼は屈んで目線の高さを合わせてきた。
「ううう…!」
「体が急激に変化すると苦しい?どこか痛む?」
「痛くは、ないけど…なんか……なんか、わかんない…」
「思考能力も低下している。見た目の特徴だけでなく、本当にその動物になるよう仕組まれているのかも。じゃあ君はちょっと待ってて」
「え!?このまま!?」
「人間を思い浮かべながらね」
少年はもう一度クリス達の居る部屋にも乗り込み、しばしの間アイアンマン達を廊下で待たせた。
「何か分かったか?」
「4人とも脳の一部、恐らく想像を司る部位から伸びる神経に細工されたんでしょう。細胞を突然変異させる信号が全神経を伝って体中に巡り指令を出している。細胞分裂のスピードも異様に速い。第一次成長期の子供、いいや、胎児のそれなんて目じゃない速さだ」
協力が仰げそうな男の子達にも理解できるよう言葉を選んだつもりだが、片割れには苦いものを食べたような顔をされてしまう。
「なんか言ってることよく分かんないや」
「細工ってやっぱり、あの銃から出てたビームのことだろうね」
「ビームね。君達2人が平気なのは、頭部にそれを浴びなかったからだと思う。避けたり伏せたりした?」
「あ!」
アキラは今ここに居ない仲間とは違い、兄と一緒に地面へ伏せていたことを思い出した。
「確かに!俺と」
「良いよ、最後まで言わなくて。その反応で十分わかったから。そうだな、とすると、一番手っ取り早い解決法は……」
「…アマデウス?」
アキラの発言を一方的に遮ると、アマデウスはさっさと自分の世界に入り込んでしまった。
「おーい」
「リスクは……後遺症は……」
目の前で手をヒラヒラさせながらの呼びかけに全く応じない。
「…なんなんだよ」
「邪魔しちゃダメだよ、アキラ」
弟は肩を落としたが、そこに乗っかっている小さな大人はまだ諦めていない。黄色いフェイスカバーを外し目を三角にする。
「おいおい、天才少年!俺とも解決法を共有しろよな!そのために呼んだんだぞ!」
「こういう奴なんです、アマデウスは」
ピーター・パーカーが溜め息交じりに締め括る。彼と一緒に居るとこういった気苦労が多いようだ。
「お友達なんですか?」
「同じ学校の生徒だったってだけ。コイツが転入してくる前は僕が学年トップの成績だったのに、軽~く追い越されちゃった。まあ、それだけ信頼できる頭脳の持ち主さ」
その頭脳は今もフル回転中。転校生をただ厄介に思うだけではなく、認めている部分もあるからこそ彼等は行動を共にしている。
「2人は学年同じなの?」
「そうさ。勿論ピーターの方が年上」
「僕を蹴落とすためにわざと同じ学年に入ってきたんだろう?知ってる。でも心優しい僕は君の数少ない友達でいてあげるよ」
「それはどうも。他に手応えのありそうな学生が居なかったからね」
「へぇー。俺と同じくらいの歳なのにスッゲーんだな、アマデウス!」
素直且つ間の抜けた感想。これから始める大仕事において、この子からの協力は到底期待できるものではないとアマデウスは悟った。
「……僕程のレベルになると、学校に行く行かないはもう完全に自由。君だって、いつまでも片手で済む足し算を学んでいる訳じゃないけれど、それでも無性に解いてみたくなる時がたまにあるだろう?それと同じさ」
「はぁ…そうなの?」
この場に健康体なジェシカが居たら「アキラには関係無い次元の話ね~」と横槍を入れていただろう。今ではそんな茶々すら恋しく思えてきた。
「うわあ」
どことなく脱力気味な彼女は、ベッドに腰掛けるだけでは自分の上体を支えきれないのか壁に背を預けている。
「うわあって言われた…」
「事前に情報は貰っていたけれど、こっちもこっちで大変だね。僕を呼んだだけのことはあるかも」
相手が地味にショックを受けていることなど気にも留めず、科学者達は淡々と話を続ける。
「今のところ、夢主の症状が一番進んでいる」
「そうですね。グロテスクな触手に異様な肌の色、質感も人間のものとは大分違うな。でも大丈夫、必ず元の姿に戻してあげるよ。これからよろしくね」
そう言って心身共に弱った女の子と握手すれば、手の平に何やら違和感が。離そうとしてもその違和感が邪魔をする。
「これは…!」
手と手の間を覗き込んでようやく原因が判明した。弾力のある吸盤数個が2人をしつこく繫ぎ留めている。
「あっ、ごめんなさい、これ勝手にくっついちゃって…!」
「今外すから、じっとしてて」
相手の腕を掴んで何とか外すがそこにもまた別の吸盤があり、今度は彼女の腕と自分の手がくっついた。シャツが間にあってもお構いなしに吸い付いてくる。
「布越しにこの吸着力か」
「あっやだ、もう…ごめんなさい」
生まれて初めて持つ吸盤の扱いが分からず、意志に反して彼を引き留めてしまう。遠路遥々助けに来てくれた協力者へ早速迷惑をかけてしまった。
「おーい、そこ。イチャイチャの時間はその辺にしておけ」
「急がなきゃいけないんじゃないの~?スタークさん待ってるよー」
少女の気持ちや事情を知ってか知らずか、年上の男性陣は半笑いでからかってくる。
「君も一度経験すると良いよピーター。これ多分、条件反射で吸い付いているんだ」
「本当、ごめんなさい…」
「気にしないで。その代わり、吸盤が取れた後、改めて僕と手を繋いでくれるかい?」
フォローの意も込めてアマデウスは黒い瞳と爽やかな笑顔をしょぼくれた女子に真っ直ぐ向ける。
「あーっと、アマデウス?路線を変更しよう。その子にはこれ以上ベタベタしない方が…特にお手々はマズいかも」
スパイダーセンスの反応に加え背筋に悪寒を感じたピーターは若干早口で友に助言する。
何かあった時の為に前もって実体化しておいたヒーローが、マスク越しに部屋の隅から客人を見張っていた。
「こっちを見るな」
視線が集まるのを嫌がっている彼は今こそ大人しくしているものの、時と場合により行動開始するだろう。
肝心の夢主はというと、
「ええと、握手好きなんですか?」
かなり疲弊していることもあってからか、同年代男子からのお誘いを単語そのままの意味で受け取っていた。
「……まあいいや、本題に入ろう。君が想像しているのはイカ?それともタコ?」
「タ、タコです…一応…」
「どんなタコ?何色?もしかしてとても大きい?」
「う……あ、あ…!」
思い出してはいけない記憶を強制的に掻き立てられ、夢主は頭を抱え込んだ。触手ははち切れるようにより太く、ギザギザの歯はより鋭く長く変化していく。
「アマデウス!なんてことを!?」
「邪魔しないでください、今分析しているんです!」
うなだれる夢主の声を聞き漏らさないよう、彼は屈んで目線の高さを合わせてきた。
「ううう…!」
「体が急激に変化すると苦しい?どこか痛む?」
「痛くは、ないけど…なんか……なんか、わかんない…」
「思考能力も低下している。見た目の特徴だけでなく、本当にその動物になるよう仕組まれているのかも。じゃあ君はちょっと待ってて」
「え!?このまま!?」
「人間を思い浮かべながらね」
少年はもう一度クリス達の居る部屋にも乗り込み、しばしの間アイアンマン達を廊下で待たせた。
「何か分かったか?」
「4人とも脳の一部、恐らく想像を司る部位から伸びる神経に細工されたんでしょう。細胞を突然変異させる信号が全神経を伝って体中に巡り指令を出している。細胞分裂のスピードも異様に速い。第一次成長期の子供、いいや、胎児のそれなんて目じゃない速さだ」
協力が仰げそうな男の子達にも理解できるよう言葉を選んだつもりだが、片割れには苦いものを食べたような顔をされてしまう。
「なんか言ってることよく分かんないや」
「細工ってやっぱり、あの銃から出てたビームのことだろうね」
「ビームね。君達2人が平気なのは、頭部にそれを浴びなかったからだと思う。避けたり伏せたりした?」
「あ!」
アキラは今ここに居ない仲間とは違い、兄と一緒に地面へ伏せていたことを思い出した。
「確かに!俺と」
「良いよ、最後まで言わなくて。その反応で十分わかったから。そうだな、とすると、一番手っ取り早い解決法は……」
「…アマデウス?」
アキラの発言を一方的に遮ると、アマデウスはさっさと自分の世界に入り込んでしまった。
「おーい」
「リスクは……後遺症は……」
目の前で手をヒラヒラさせながらの呼びかけに全く応じない。
「…なんなんだよ」
「邪魔しちゃダメだよ、アキラ」
弟は肩を落としたが、そこに乗っかっている小さな大人はまだ諦めていない。黄色いフェイスカバーを外し目を三角にする。
「おいおい、天才少年!俺とも解決法を共有しろよな!そのために呼んだんだぞ!」
「こういう奴なんです、アマデウスは」
ピーター・パーカーが溜め息交じりに締め括る。彼と一緒に居るとこういった気苦労が多いようだ。
「お友達なんですか?」
「同じ学校の生徒だったってだけ。コイツが転入してくる前は僕が学年トップの成績だったのに、軽~く追い越されちゃった。まあ、それだけ信頼できる頭脳の持ち主さ」
その頭脳は今もフル回転中。転校生をただ厄介に思うだけではなく、認めている部分もあるからこそ彼等は行動を共にしている。
「2人は学年同じなの?」
「そうさ。勿論ピーターの方が年上」
「僕を蹴落とすためにわざと同じ学年に入ってきたんだろう?知ってる。でも心優しい僕は君の数少ない友達でいてあげるよ」
「それはどうも。他に手応えのありそうな学生が居なかったからね」
「へぇー。俺と同じくらいの歳なのにスッゲーんだな、アマデウス!」
素直且つ間の抜けた感想。これから始める大仕事において、この子からの協力は到底期待できるものではないとアマデウスは悟った。
「……僕程のレベルになると、学校に行く行かないはもう完全に自由。君だって、いつまでも片手で済む足し算を学んでいる訳じゃないけれど、それでも無性に解いてみたくなる時がたまにあるだろう?それと同じさ」
「はぁ…そうなの?」
この場に健康体なジェシカが居たら「アキラには関係無い次元の話ね~」と横槍を入れていただろう。今ではそんな茶々すら恋しく思えてきた。