番外編37:都合の悪い虫達

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アカツキ兄弟と各パートナーは急いで問題の部屋の前に駆けつけた。

夢主!蜂になったら駄目だぞ!」
「スタークさん、生き物の名前は声に出さない方が良いですよ」
「そうだよトニー!夢主が蜂になっちゃったらどうするの!?」
「アキラもね」

たった今叱られたことなどそっちのけで、名案を思い付いたトニー・スタークは得意げに人差し指を立てる。

「こうしよう。このドアを開けると同時に、人間と叫びまくるんだ!」
「人間だね。よぉ~っし!」
「人類やヒトでも良いぞ!知的なヒカルはホモサピエンスやクロマニヨン…いや、そうなると夢主が原始人になってしまうか?」
「クロマ、ニョ…?虫とかじゃないなら平気じゃない?」
「……アキラとスタークさんは後ろへ。まずは僕達に任せて。夢主ちゃん、入るよ」

接し方一つ一つが仲間の身体に悪影響を及ぼすかもしれない。ヒカルは意を決して扉を開き、ベッドの上に出来た盛り上がりへ静かに近寄った。

「大丈夫か?先程は顔色が悪いようだったが」
「……」

ソーも角の無い声色で呼びかけるが、相手は掛け布団にくるまったまま。

「体の具合はどう?」
「……」
「返事が無いぞ、ヒカル」
「寝てるのかな?寝ていて意識が無ければ、例の現象の進行は止まるのかも」
「……起きてます…」

彼女がようやっと反応してくれた。こんなにも落ち込んでいるのは、ロールシャッハにこっぴどく叱られた時くらいだろう。

「僕達、心配なんだ。夢主ちゃんもあの妙な光線を浴びていたから」
「……」

相手との間合いを計りつつ、いつも通りの態度を彼等は心掛ける。

「ねえ兄さん、俺達も入って良い?……ん?なんか…」
「この部屋、湿っぽいぞ…?」

ヒカルはあえて口に出さないでいた。体感的にだが、この部屋の温度は他の部屋や廊下よりも高く感じる。植物園やサウナのそれに近い。

夢主ちゃんは!?」

遅れてここへ来たペッパーの手には、洗濯し立ての夢主の寝間着と下着が用意されていた。

「ペッパーさん、それが…」
「……夢主ちゃん。そんな分厚い布団被って、汗かいてるでしょ」

現状に進展が無いことと異様な湿度を確認すると、彼女はしかめ面を止め別方向からアプローチをかけ始める。

「着替えた方が良いわ。みんな、一旦部屋の外に出てて」

男性陣はペッパーの作戦通り退室しようとしたが、策士は皆の背後で思わず声を上げる。

「くっ……んん……あ、あらっ?ちょっと、夢主ちゃん!?」

何処から取りかかっても、布団が全くめくれ上がらないのだ。

「手伝います。ふんっ!」
「う~ん!」

青年のヒカルが手を貸すがビクともしない。アキラも反対側で同じように苦戦している。

「ダメね、全っ然動かないわ」
「すっげー力…」
「布団を押さえて拒絶してるってことは、今の自分の姿を絶対見られたくないということだ」

アイアンマンは夢主の図星をストレートに突く。

「んでもって、運動神経抜群のヒカル含めた3人に余裕で打ち勝つ筋力、もしくはそれ同等の力を手に入れた」
「アイアンマン。それは即ち……夢主は最早手遅れということか?」
「手遅れかどうかは、実際にこの目で見てみないことには断言できん」
「そうだな」

2人のヒーローは布団の山へこれでもかと視線を送った。この会話も漏れなく両耳に届いている筈だが、相手は頑として動こうとしない。

夢主。いい加減にしろ」
「え?今のロールシャッハ?夢主と一緒に布団の中に居るの?」

くぐもった彼の声が布団の内側から少女に追い打ちを掛ける。ホログラムアバター且つデリカシーの無い男性は、既に現状を把握しているらしい。

「……だって」

仲間達の厚意と尊敬する人からのお叱りにより、夢主はようやく観念した。布団から這い出るためにもそもそと動き出す。

「だって…想像した生き物とか言われたから…!」

彼女よりも先に掛け布団の中から蒸気が広がるが、目に見えてしまう程のそれは夢主の汗でも、涙でもなかった。

「これは…!」

今朝まで何ともなかった頬や腕はまるで水膨れのような、形状の整っていない吸盤で埋め尽くされようとしている。同じく吸盤を携えた太いムチムチの突起が4つ、首元から襟足のように生えてきていた。それは突起というよりもむしろ、触手と表現した方が適切な長さにまで成長している。

「これって、タ、タむぐ」

軟体動物の名称がうっかり発せられる前に、兄は弟の口をしっかりと塞いだ。

「まず、その動物が一番先に出てくることが理解できないな」

アイアンマン達は当初、ロールシャッハの顔の模様から連想するような、蝶か犬を想定していた。もしくは、仲間3人が変化しかかっている蜂。

「でもさ、どうして4本しか生えてないんだろ?普通8本むぐぐ」
「みんなが…あの虫になっていったとき、私ロールシャッハさんのこと考えてて……大丈夫だと思ったら、さっきウォッチメンのことまで思い出しちゃって、それで…」
「ああっ、良い!良い!もう言わなくて良い!引き続きロールシャッハを想像していてくれ!」

夢主もクリス達と同じく、思考の縛りという滅多に挑戦しない苦行に直面していた。持ち主の感情の起伏に合わせて、嫌にカラフルな触手が湿ったベッドの上で苦しみのたうち回る。

「うう…ロールシャッハさんの肌、ロールシャッハさんの腕、たくましい腕…」

あくまでも、彼女は渋い表情で顔色も良いものではない。

「ロールシャッハさんの眉間のしわ…!」
「ああ~…なるほど…まあ、えっと、その調子だ」
「……これ以上無く気色悪いとだけ言っておく」

パートナーの一大事とあらば妄想を止めさせる訳にもいかず、気難しい男は言葉の暴力と肩をすくめるだけに拒絶反応を留めた。
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