第三部:都合の悪い男女
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「はぁ~、何だか飽きちゃったわ。てことで、お遊びはここまで。ほら、ディー・セキュアの時間よ」
「やっとか」
夢主はすっかり忘れていた。ロールシャッハはディスクから召還されたヒーローだ。そこにまた閉じ込められてしまえば戦うも何も無い。問答無用で降伏させられてしまう。
「ディー・セキュア!」
象鼻の男が灰色のディスクを前に掲げる。お終いだ。
「……」
しかし何も起こらず、代わりにカモメの鳴き声と波の音が聞こえる。
「…まさか、これは…」
「何もたもたしてんだ、全く…貸せ。ディー・セキュア」
バロン・ジモの隣に立つ男も唱える。
「……」
海風の音も加わる。
「ディ、ディー・セキュア!」
「早く奴を封印しなさい!」
「封印、できない……どうなっている!?」
「俺にもやらせろよー!」
「落ち着きなさい。故障でもしているんでしょう」
「故障だろうが何だろうが、それなら元のディスクに入れれば良いでしょ!」
ロゼッタは夢主の手首から青いディスクを奪い取った。そして異変に気付いた。
「は?何…?こんな色、他のディスクには…」
異変と言っても小さな異変。ロールシャッハが元々捕らえられていたディスクの溝、それら全てが黒く染まっていた。
「こんな色って……ディー・スマッシュしたら、黒い線が入るものじゃないんですか?」
彼女の持つ疑問に対し夢主も疑問を持つ。
「…フム、そういうことか」
「クク、ククク…壊れてなどいない、成功だ…!」
「ハァ?」
スマートブレインが話し始める前に、ロールシャッハ自身は体感的に理解した。
「特別認証システムが…スペシャル・バイオコードが…私の研究が、遂に完成したのだ!」
「……だ~か~ら~、ちゃんと説明なさーい!!」
怒鳴り声により、船の付近を飛び回っていたカモメが全羽去っていった。
「そ、そう急かすな」
詰め寄られた象鼻男は咳払いし、ディスク使用者に分かるよう解説を始める。
「平たく言うと…私の研究により、奴はそのディスクにしか収まらないイレギュラーになったという訳だ。よって、他の空ディスクに封印することは不可能」
「なるほど。これでヴィランをガキ共に横取りされることはもう無くなるぞ。そこの、ロールシャッハもな」
「あらそう、よくやったわね。なら…ディー・セキュア!」
ロゼッタが青と黒のディスクを前に掲げる。
「……」
もう特に追加される音は無かった。
「ちょっと、どういうこと?このディスクには入るんでしょ!?」
「その筈だが…」
「言ってることと違うじゃねーか!」
「このガキがディー・スマッシュした、そのディスクに入るんじゃないのか?」
「待て……そうか!奴に対するディー・セキュア発動は、こいつの持つバイオコードに限定してしまった…そう考えるのが妥当だ…」
「つまり、ロールシャッハはこの娘でしか封印できないと?」
「たっく、面倒臭いわね」
「仕方無いだろう!研究段階なんだぞ」
ティムの言い訳を無視し、ロゼッタは足元で黙っている人質の手にディスクを握らせる。
「聞いていたでしょ、早くディー・セキュアなさい」
「……」
「聞こえないの?ディー・セキュアを」
「すると思う?私が」
「…何ですって?」
「しなければ、ロールシャッハさんはずっと自由なんでしょ?だったら…」
電流と注射を思い出したが、ここで口を閉じる気など無い。
「だったら……何されたって、絶対しない!」
「このっ…言うこと聞きなさいよ!」
平手で思い切りはたかれ、受け身も取れずその場に倒れる。
「ね、だから…貴方は逃げられるから…」
上体を何とか起こし、逃げずにいたロールシャッハへもう一度訴えた。
「お願い」
「俺が、助けに戻る保証はあるのか?」
このまま逃げおおせ、普段の暮らしに戻ることだってできる。だが、その心配は無い。
「うん。だって貴方だもの」
ロールシャッハは悪を許さない。人質を見捨てたりしない。
「俺には、その猶予はあるのか?」
地球上のどこに居ても、人質の少女が屈すれば結局何もできず封印されてしまうかもしれない。だが、その心配も無い。
「うん。だって私は、貴方のファンだから」
見てくれとかじゃない。このヒーローのファンになったのは、その不屈の精神に憧れているから。見習いたいから。いつか自分も同じくらい強くなりたいから。
こんな所に独り残されるなんて、正直怖くてたまらない。けれど彼を助けるには、この方法しかない。自分が助かるには、この方法がある。
「待ってろ…!」
ヒーローは背後のフェンスを乗り越え、海へ飛び込んだ。
「さっさと奴を捕獲しろ!ディー・セキュアできなくとも、奴は只の人間。お前等なら捕まえることなど造作も無いだろ!?」
「ここから海に飛び込めってか?」
「アイツ地味に強ぇんだろ?水中じゃ何されるか分かったもんじゃ…」
「シュルルル、俺なんか骨折られたぞ!」
「何を泣き言を!」
たった1人の能力無しを拘束することは容易。しかしそれは陸上だからこそ。水中となれば話は別。俺は間抜けなキング・コブラやモードックのようにはいかない、と意気込んでいたヴィラン達も急に弱気になる。
「俺達を行かせたきゃボートを出せ!」
「んなモンこの船にあったら、真っ先にあいつ等が使って逃げてただろうよ!」
「ボートが備え付けてねぇってどういうことだよ!?」
チームワークがバラけていく一方で、ロールシャッハと船との距離はどんどん開いていく。
「海の中なら…おい、タイガーシャークはどこだ?」
「それが、さっきから応答が無いのよ。船のどこに居るかわからないからディー・セキュアもできないし…まったく!」
ここで虎模様をした魚っぽいヴィランを思い出したが、この様子ではまだロッカーの中で気絶しているようだ。ロールシャッハが完全に逃げきれるまでは、海の上で戦えそうなヴィランのことは黙っておく。
「あんた達!海に飛び込みたくなければ、サボっているタイガーシャークを呼び出しなさい!今、すぐに!」
「ボートくらいどこかにあるだろ!?手分けして探すぞ!」
「タイガーシャークが先よ!」
いまいち意見がまとまらない中、全面マスクの男が夢主の方へゆっくり歩いてきた。
「死にたくなければ、イイ子にしていることですね」
「……」
助けが来るまでの間、自分が悪党共に何もされないとは思えない。だったら、少しでも気丈に、強気に振る舞おうと決めた。大好きなヒーローが同じ立場だったら、きっとそうするだろうから。
「何ですか?その目は」
「私が死ねば、ロールシャッハをディスクに閉じこめることは永遠にできなくなる。それって色々とマズいんじゃないですか?」
勿論、そんな確証は無い。が、側で聞いている白衣男の動揺っぷりから、間違いでもないのだろう。
「それ以前に、私って生け捕りにされなきゃいけないんですよね?」
「生意気な…!」
「フン、貴様もなかなか強情な奴だな。なら、もっとキツい実験にも耐えられるだろう」
「…!」
「ククク、あまりいじめないであげてくださいよ?」
「やっとか」
夢主はすっかり忘れていた。ロールシャッハはディスクから召還されたヒーローだ。そこにまた閉じ込められてしまえば戦うも何も無い。問答無用で降伏させられてしまう。
「ディー・セキュア!」
象鼻の男が灰色のディスクを前に掲げる。お終いだ。
「……」
しかし何も起こらず、代わりにカモメの鳴き声と波の音が聞こえる。
「…まさか、これは…」
「何もたもたしてんだ、全く…貸せ。ディー・セキュア」
バロン・ジモの隣に立つ男も唱える。
「……」
海風の音も加わる。
「ディ、ディー・セキュア!」
「早く奴を封印しなさい!」
「封印、できない……どうなっている!?」
「俺にもやらせろよー!」
「落ち着きなさい。故障でもしているんでしょう」
「故障だろうが何だろうが、それなら元のディスクに入れれば良いでしょ!」
ロゼッタは夢主の手首から青いディスクを奪い取った。そして異変に気付いた。
「は?何…?こんな色、他のディスクには…」
異変と言っても小さな異変。ロールシャッハが元々捕らえられていたディスクの溝、それら全てが黒く染まっていた。
「こんな色って……ディー・スマッシュしたら、黒い線が入るものじゃないんですか?」
彼女の持つ疑問に対し夢主も疑問を持つ。
「…フム、そういうことか」
「クク、ククク…壊れてなどいない、成功だ…!」
「ハァ?」
スマートブレインが話し始める前に、ロールシャッハ自身は体感的に理解した。
「特別認証システムが…スペシャル・バイオコードが…私の研究が、遂に完成したのだ!」
「……だ~か~ら~、ちゃんと説明なさーい!!」
怒鳴り声により、船の付近を飛び回っていたカモメが全羽去っていった。
「そ、そう急かすな」
詰め寄られた象鼻男は咳払いし、ディスク使用者に分かるよう解説を始める。
「平たく言うと…私の研究により、奴はそのディスクにしか収まらないイレギュラーになったという訳だ。よって、他の空ディスクに封印することは不可能」
「なるほど。これでヴィランをガキ共に横取りされることはもう無くなるぞ。そこの、ロールシャッハもな」
「あらそう、よくやったわね。なら…ディー・セキュア!」
ロゼッタが青と黒のディスクを前に掲げる。
「……」
もう特に追加される音は無かった。
「ちょっと、どういうこと?このディスクには入るんでしょ!?」
「その筈だが…」
「言ってることと違うじゃねーか!」
「このガキがディー・スマッシュした、そのディスクに入るんじゃないのか?」
「待て……そうか!奴に対するディー・セキュア発動は、こいつの持つバイオコードに限定してしまった…そう考えるのが妥当だ…」
「つまり、ロールシャッハはこの娘でしか封印できないと?」
「たっく、面倒臭いわね」
「仕方無いだろう!研究段階なんだぞ」
ティムの言い訳を無視し、ロゼッタは足元で黙っている人質の手にディスクを握らせる。
「聞いていたでしょ、早くディー・セキュアなさい」
「……」
「聞こえないの?ディー・セキュアを」
「すると思う?私が」
「…何ですって?」
「しなければ、ロールシャッハさんはずっと自由なんでしょ?だったら…」
電流と注射を思い出したが、ここで口を閉じる気など無い。
「だったら……何されたって、絶対しない!」
「このっ…言うこと聞きなさいよ!」
平手で思い切りはたかれ、受け身も取れずその場に倒れる。
「ね、だから…貴方は逃げられるから…」
上体を何とか起こし、逃げずにいたロールシャッハへもう一度訴えた。
「お願い」
「俺が、助けに戻る保証はあるのか?」
このまま逃げおおせ、普段の暮らしに戻ることだってできる。だが、その心配は無い。
「うん。だって貴方だもの」
ロールシャッハは悪を許さない。人質を見捨てたりしない。
「俺には、その猶予はあるのか?」
地球上のどこに居ても、人質の少女が屈すれば結局何もできず封印されてしまうかもしれない。だが、その心配も無い。
「うん。だって私は、貴方のファンだから」
見てくれとかじゃない。このヒーローのファンになったのは、その不屈の精神に憧れているから。見習いたいから。いつか自分も同じくらい強くなりたいから。
こんな所に独り残されるなんて、正直怖くてたまらない。けれど彼を助けるには、この方法しかない。自分が助かるには、この方法がある。
「待ってろ…!」
ヒーローは背後のフェンスを乗り越え、海へ飛び込んだ。
「さっさと奴を捕獲しろ!ディー・セキュアできなくとも、奴は只の人間。お前等なら捕まえることなど造作も無いだろ!?」
「ここから海に飛び込めってか?」
「アイツ地味に強ぇんだろ?水中じゃ何されるか分かったもんじゃ…」
「シュルルル、俺なんか骨折られたぞ!」
「何を泣き言を!」
たった1人の能力無しを拘束することは容易。しかしそれは陸上だからこそ。水中となれば話は別。俺は間抜けなキング・コブラやモードックのようにはいかない、と意気込んでいたヴィラン達も急に弱気になる。
「俺達を行かせたきゃボートを出せ!」
「んなモンこの船にあったら、真っ先にあいつ等が使って逃げてただろうよ!」
「ボートが備え付けてねぇってどういうことだよ!?」
チームワークがバラけていく一方で、ロールシャッハと船との距離はどんどん開いていく。
「海の中なら…おい、タイガーシャークはどこだ?」
「それが、さっきから応答が無いのよ。船のどこに居るかわからないからディー・セキュアもできないし…まったく!」
ここで虎模様をした魚っぽいヴィランを思い出したが、この様子ではまだロッカーの中で気絶しているようだ。ロールシャッハが完全に逃げきれるまでは、海の上で戦えそうなヴィランのことは黙っておく。
「あんた達!海に飛び込みたくなければ、サボっているタイガーシャークを呼び出しなさい!今、すぐに!」
「ボートくらいどこかにあるだろ!?手分けして探すぞ!」
「タイガーシャークが先よ!」
いまいち意見がまとまらない中、全面マスクの男が夢主の方へゆっくり歩いてきた。
「死にたくなければ、イイ子にしていることですね」
「……」
助けが来るまでの間、自分が悪党共に何もされないとは思えない。だったら、少しでも気丈に、強気に振る舞おうと決めた。大好きなヒーローが同じ立場だったら、きっとそうするだろうから。
「何ですか?その目は」
「私が死ねば、ロールシャッハをディスクに閉じこめることは永遠にできなくなる。それって色々とマズいんじゃないですか?」
勿論、そんな確証は無い。が、側で聞いている白衣男の動揺っぷりから、間違いでもないのだろう。
「それ以前に、私って生け捕りにされなきゃいけないんですよね?」
「生意気な…!」
「フン、貴様もなかなか強情な奴だな。なら、もっとキツい実験にも耐えられるだろう」
「…!」
「ククク、あまりいじめないであげてくださいよ?」