「むー、なんで俺だけ…」

先に捕まった子供はふて腐れ、不器用にカチャカチャと音を立てて肉を切る。

「なにも大勢でついて行くこと無いよ。お店の人を困らせちゃうだろ？」
「はぁーい」
「あと音は立てない」

ペッパーはジェシカを追って席を外していて夢主もまだ帰ってこない。すっかり寂しくなったテーブルの向かい側をエドは心配そうに見つめる。

「夢主、大丈夫かな…今日は顔色良さそうだったのに…」
「いくらロールシャッハが好きだからって、無理しすぎだよなー」

ふと、夢主の席に放置されている手付かずの皿に目が行った。アキラが一番気に入っている料理だ。

「冷めちゃったら勿体ないよな！」
「止せ、意地汚ぇ」
「そうだよ～、お行儀良くしてなきゃ。それに、夢主が戻って来てから食べるかもしれないよ」

今日はヒカルだけでなくクリスとエドにまで叱られてしまった。しかし彼は諦めない。

「えー？せっかく出された料理を放置する方が行儀悪いと思うぜ。いつもみたいに、元気になるまでしばらくかかるだろうし」
「アキラ」

ヒカルは我が子を制するように名を呼んだ。

「ちぇ。わかったよ兄さん」
「いや、そうじゃないんだ。それには手を付けない方が良いかもしれない」
「え？」

皆とやや違うバイオコードを持つ夢主は、ロールシャッハをＤ・スマッシュしている分だけ体力を削り取られてしまう。逆に、彼を封印している間は消耗しない。今日はむしろ回復していた筈だ。

彼女が妙に眠いと言っていた原因は、他にある。

「もしかすると……夢主ちゃんが危ないかも…！」