番外編29:都合の良い酔い
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夢主は早くもロールシャッハを見失った。
「もっと向こうなのかな…いや、ここに居ないなら戻ったのかも…」
夢中で人混みをかき分けていく内に会場入口の反対側、しかもかなり端まで来てしまっていた。
誰かを制裁するために歩き出したのだ、茂みを越え会場外の暗がりへ突き進む可能性は低い。
「でもここだと思うんだけどなぁ…」
この辺りは照明が少ないためか、賑わっているステージ前や出入口付近とはなんだか空気が違う。ファミリー用のテーブルとベンチは一つも無く、大人用の洒落たカウンターがいくつか設置されている。漠然としたイメージだが、ロールシャッハの標的になり得る者達が好みそうな雰囲気だ。
彼が問題を起こす前に発見し止めなければ、最悪の場合、このイベントが中止に追い込まれるかもしれない。ロールシャッハをディスクの外に出したままの夢主は責任を感じていた。
「よぉ~、お嬢ちゃん。その様子じゃあ、楽しめてなさそうじゃ~ん?」
「?」
「こっちこっち~ぃ」
辺りには、お嬢ちゃんと呼ばれるような子供は自分しか見当たらない。声が招く方を向くと、上半身裸に丈の短い赤ジャケットを着た男性がビールジョッキをゆらゆらと振っていた。その金色の髪や顔付きから、外国籍且つ年上の様だ。
「俺さ~ゲストで呼ばれててさ~、今夜このステージで演奏するんだけどよぉ。スゲェだろ?セレブだろ?」
「はぁ…」
「ちなみに相棒ちゃんはコイツ」
そう言って彼は隣に立て掛けてあるエレキギターではなく、反対側に置かれているカウンターチェアを抱えた。
「コイツに出会ってもう何年になるかな~、あれは雪の降る寒ぃ日だった…」
こっちは人を捜しているというのに、運悪く面倒臭い奴に絡まれてしまったなぁと、やや気が遠くなる。
待機中の出演者がこんなに酔っぱらっていて大丈夫なのだろうか。いや、そもそも先程までの発言は全て戯言かもしれない。
「……」
「あぁん?もしかして、俺がニセモノのミュージシャン、うあ?ミュージシャンのニセ…?…とにかく疑ってんだろその目ぇ!」
男は両手でカウンターを強く叩き、それとほぼ同時にビールジョッキや灰皿が音を立てた。
「いえ、そんなこと…」
「コレ見ろ!何だっけ?そう!通行証だよ、つーこーしょー!」
酒臭い男は透明プラスチックに入ったカードを夢主の眼前へ突き出してきた。同じ物を首から下げているライブのスタッフを会場入りした時に見かけたので、この男がミュージシャンであり今日出演するという話は本当なのだろう。
彼の名前は汚い横文字で書き殴られており、夢主が読み切る前に酔っぱらいの胸元へと戻った。
「俺にはコレあるから、あるから……どこ通れるんだっけ?」
「さ…さぁ…?」
「もっと向こうなのかな…いや、ここに居ないなら戻ったのかも…」
夢中で人混みをかき分けていく内に会場入口の反対側、しかもかなり端まで来てしまっていた。
誰かを制裁するために歩き出したのだ、茂みを越え会場外の暗がりへ突き進む可能性は低い。
「でもここだと思うんだけどなぁ…」
この辺りは照明が少ないためか、賑わっているステージ前や出入口付近とはなんだか空気が違う。ファミリー用のテーブルとベンチは一つも無く、大人用の洒落たカウンターがいくつか設置されている。漠然としたイメージだが、ロールシャッハの標的になり得る者達が好みそうな雰囲気だ。
彼が問題を起こす前に発見し止めなければ、最悪の場合、このイベントが中止に追い込まれるかもしれない。ロールシャッハをディスクの外に出したままの夢主は責任を感じていた。
「よぉ~、お嬢ちゃん。その様子じゃあ、楽しめてなさそうじゃ~ん?」
「?」
「こっちこっち~ぃ」
辺りには、お嬢ちゃんと呼ばれるような子供は自分しか見当たらない。声が招く方を向くと、上半身裸に丈の短い赤ジャケットを着た男性がビールジョッキをゆらゆらと振っていた。その金色の髪や顔付きから、外国籍且つ年上の様だ。
「俺さ~ゲストで呼ばれててさ~、今夜このステージで演奏するんだけどよぉ。スゲェだろ?セレブだろ?」
「はぁ…」
「ちなみに相棒ちゃんはコイツ」
そう言って彼は隣に立て掛けてあるエレキギターではなく、反対側に置かれているカウンターチェアを抱えた。
「コイツに出会ってもう何年になるかな~、あれは雪の降る寒ぃ日だった…」
こっちは人を捜しているというのに、運悪く面倒臭い奴に絡まれてしまったなぁと、やや気が遠くなる。
待機中の出演者がこんなに酔っぱらっていて大丈夫なのだろうか。いや、そもそも先程までの発言は全て戯言かもしれない。
「……」
「あぁん?もしかして、俺がニセモノのミュージシャン、うあ?ミュージシャンのニセ…?…とにかく疑ってんだろその目ぇ!」
男は両手でカウンターを強く叩き、それとほぼ同時にビールジョッキや灰皿が音を立てた。
「いえ、そんなこと…」
「コレ見ろ!何だっけ?そう!通行証だよ、つーこーしょー!」
酒臭い男は透明プラスチックに入ったカードを夢主の眼前へ突き出してきた。同じ物を首から下げているライブのスタッフを会場入りした時に見かけたので、この男がミュージシャンであり今日出演するという話は本当なのだろう。
彼の名前は汚い横文字で書き殴られており、夢主が読み切る前に酔っぱらいの胸元へと戻った。
「俺にはコレあるから、あるから……どこ通れるんだっけ?」
「さ…さぁ…?」