番外編24:都合の悪い苦言

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「……」
「……」

気持ちが沈んでいく少女が完全に閉口するまで、ナイトオウルは何も言わずじっと相手を見つめていた。

「…夢主はずっと日本に住んでいるんだよね?」
「はい」

それが今の会話と何の関係があるのか。とりあえず、はいと答えることしかできない。

「じゃあロールシャッハに会うまでは、彼をテレビやマンガでしか見たことが無かった。そうだね?」
「はい」
「でもね。それが…それだけが、彼じゃないんだよ」

ロールシャッハと苦楽を、少なくとも苦は共にしてきたヒーローは、前を向いて遠くを見据える。

「テレビが映す一部は確かに彼だし、あのパロディコミックの再現率だってかなりのものだ。でも、それが全てじゃない。それだけが正解じゃない」

心地良い風が茶色いマントをふわりとなびかせる。夢主の髪や袖もつられるようにして風を受ける。

優しくはあるが、確かな口調で大人は続けていく。

「彼は、ロールシャッハは、人間だ。みんなと同じ人間。絶対に妥協しない男で通しているけれど、夢主やあの子供達と触れ合って、今までは持っていなかった優しさを身につけることだってある。優しさから妥協することだって起こり得る。それが夢主は気に食わないんだろうけれど」
「べ、別に、絶対反対ってことは…!」
「うん、わかってるよ」

ちょっとした冗談にも夢主は体育座りを崩しナイトオウルに迫った。そんな子供をなだめるように、大人は笑いながらもすぐに撤回した。

「彼があんな感じになっていくのって、何も悪いことばかりじゃないと思うよ。人間なら、いつか変わることだってあるさ。ロールシャッハも例外無くね」
「でも!そしたら…」
「何か気になることがあるのかい?」
「ロールシャッハさんが、危ないかもしれない」

日の当たらない場所で殴る蹴るを繰り返す彼に対し、恨みを持つ人間は少なくない。しかもその大半が凶悪犯である。

先のことはあまり考えたくはないが、いつかディスク関係の問題が全て解決した後、甘さや隙を身につけたロールシャッハはニューヨークへ戻っても果たしてやっていけるのだろうか。

「そうか…君は彼を心配しているんだね」
「パートナーですから!」
「彼のパートナーは僕だよ。君もそうかもしれないけれど、一時的なものだ」

やっと自信を持って言えた言葉をきっかけに、ナイトオウルの態度は切り替わったように冷然としたものとなった。突然現実を突きつけられ、夢主は頭を揺さぶられるような気分を味わう。
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