夏休みで学校の授業がしばらく無い子供達は、今日はペッパーに連れられて海辺へ来ていた。

青く澄み渡った穏やかな海、きめ細かい砂で覆われた真っ白な海岸。水平線から天へ向かって伸びる入道雲はどっしりとしていて力強さすら感じる。

「スッゲー！」

ヴィランとの戦いで溜まった疲れを癒してくれる景色に、アキラが一番目を輝かせていた。

「どうだ？今日一日、このビーチは貸し切りだぞ～！」

勿論ヒーロー達も一緒だ。トニー・スタークはパートナーの肩の上で自慢気に腕を組んだ。

「うん、なかなか良いんじゃない？」
「お？もっと褒めてくれたって良いんだぞ？」

ゴミ一つ無い綺麗なビーチに、大富豪の娘であるジェシカも満足そうだ。

その隣で、エドはどこか浮かない顔をしている。

「海かぁ、僕泳げないんだけどなぁ…」
「別に、海入る以外にも色々遊べるだろ」
「クリスの言う通り！砂遊びにビーチバレーに、旨い食い物だって準備させてあるぞ」
「やったぁ！」

はしゃぎ出さないものの、他のメンバーと同じく夢主も心を躍らせていた。

「綺麗な所ですね、ロールシャッハさん！」
「フン」

素っ気ない返事しか返ってこないが、実体化している彼も海をしっかりと見つめている。

「わぁ見ろよ！海の家もある！……って…」

全員の目線の先には、低いデッキの上で焼きそばを作っている男が一人。アロハシャツと半ズボンに麦わら帽子。いかにも海を満喫している者のスタイルだ。俯いていてこちらにはまだ気付いていない。

「ピーター！？」

アキラの声で、その男は顔を上げ大きめのサングラスを外した。

「やあ、みんな元気？今日は絶好の海水浴日和だね。こんな日は遊ばなきゃ損！存分に楽しんでって！……ちなみに僕はあんまり元気じゃない…」

明るい口調で喋り出すも、すぐにその声から覇気が抜けていく。彼は首に巻いているタオルで汗を拭いつつ、焼きそばを混ぜていたヘラで自分の顔をパタパタと扇いだ。

「大丈夫？」
「しっかり水分補給してくださいね」

アカツキ兄弟がピーターの体調を気に掛ける一方で、トニーはその話題を軽く流す。

「今日の給料はいつものバイト代の倍は払う約束だ。その分しっかり働いてもらうぞ、ピーター」
「はいはい。ああ、岩場の向こうに更衣室があるから、みんな水着に着替えてきなよ」
「オーケー。行きましょ夢主」
「うん」

ジェシカに手を引かれながら歩き出した夢主は、ふと思い出したように顔だけ振り向かせた。

「じゃあロールシャッハさん、ちょっとここで待っててくださいね」

アキラ達はアベンジャーズを封印したディスクを手首に装着したまま更衣室に連れて行くが、夢主の体力次第で解放されるロールシャッハにおいては、今日は丸一日自由に行動できる状態だ。

「……モタモタするなよ」

ペッパーの隣で突っ立ったままの彼はくぐもった小さな声で一言注意した。