梟谷学園高校三年一組。
Sunlight!!!
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「木兎ハピバ~!これあげる~」
「えっ、いいの?ありがと!」
「お前誕生日なの?おめでとう」
「おう!サンキュー!」
本日、9月20日。朝のホームルーム前から、一日中ひっきりなしに聞こえるのはそんなやり取りだった。
どうやら今日はこのクラスで......否、おそらくこの梟谷学園高校で一番の有名人である、木兎光太郎君の誕生日のようだ。
夏の太陽みたいにきらきらと明るい人だけど、木兎君は秋生まれだったんだなぁと少しだけ意外に思うものの、彼の瞳は中秋の名月とも引けを取らないくらいまん丸で綺麗な金色だから、あながちおかしくも無いのかもしれない。
そんなことを一人勝手に考えている合間にも、木兎君の誕生日をお祝いしに来る人は後を絶たない。
このクラスの人だったり、他クラスの人だったり、驚くことに違う学年の人も彼のお祝いをしに来ているようだ。梟谷は高校男子バレー部界の強豪校であり、その男バレの主将とエースを担う木兎君は、運動神経抜群のコミュ力高い男子生徒で、男女問わず圧倒的な人気を誇る人物である。
その証拠に、そろそろお昼休みが終わろうとしているこの時間にも沢山の人に囲まれていて、机の上には乗り切れない程のプレゼントが軽い山を作っている。
「ひゃ~。木兎君超モテモテだぁ~」
「さすが有名人というか、あの中に絶対ガチ勢からのもあるよね」
「あるよね~。ちょっとひかり、何もしなくていいんですかぁ~?」
「......何がですかぁ~?ちょっと何言ってるかわかんないですぅ~」
お昼ご飯を一緒に食べていた仲の良い友人のうち、一人がニヤニヤと笑いながら軽口を叩いてきたので、彼女と同じような口調でさっさとあしらう言葉を返す。
釣れない態度を示した私に、友達はへこたれることなく会話を続けた。
「だってこの前、木兎君から熱烈な告白されてたじゃん?何だっけ?“お前のものになりたい”?だっけ?」
「だからそれはそういう感じじゃないんだってば。慰めてくれてありがとう、くらいの意味だからって何度言えばわかるの......」
絶対言ってくるだろうと予測していた話題なので、顔色ひとつ変えずに彼女に返答すると、「何それつまんなぁ~」と顔を顰められてしまう。
面白くないだろうけど、実際問題その話は本当になんて事ないお悩み相談からの派生なのだから仕方ない。
木兎君が小さなことでしょんぼりしていたので、私が慰めて......というか、話を聞いてあげただけなのである。
その中で、自分を要らない存在だと言いヤケになっていた木兎君をどうにかして励ましてあげたいと思い、その一瞬だけ木兎君を私が貰って「元気出して、バレーボール楽しんで」と拙い言葉でエールを送った。
そんなこんながあった翌日、木兎君は「俺、お前のものになりたい」等と素っ頓狂な言葉を口にしてくれたもんだから、あの朝のホームルーム直後は蜂の巣をつついたような騒ぎになってしまった。
そこから何とかクラスメイトの誤解を解き、今のような穏やかな時間がやっと戻ってきたというのに、この友人はなんの悪びれもなくその話題をさらりと持ってくる。
もう、耳にタコが出来そうだ。
「......という訳で、トイレ行ってきま~」
これ以上もこれ以下もない話題であった為、早々に話を切り上げておもむろに席を立つ。
教室を出る私に、からかいはするが節度のある友人達が無駄に引き止めることはなく、さっさと気分を切りかえてトイレへと向かった。
帰りがけの廊下で、「日野」と声を掛けられる。
普段から大きな声でよく喋る人なので、否が応でも覚えてしまったその声にまず驚き、目を丸くしながら私を呼んだ相手......先程からずっと話題になっていた木兎君に視線を寄越した。
「......え、何?」
「俺、今日、誕生日なんだよ!」
「............」
告げられた言葉に、たまらずぽかんと口が開く。
まさか、面と向かって本人からお誕生日宣言されるとは思っていなかったからだ。
......というより、もしかしてあれか?クラスメイト全員からお祝いしてもらう気かしら?
こういう、小学生が考えそうなことを大真面目でやってしまうのが、この木兎君である。
「.......あぁ、そうみたいだね......」
「あれ?知ってた?」
「いや、ごめん。教室でのやり取りとか、聞こえちゃって......」
「あ、そっか。そっちか~」
私の反応に、木兎君は明るく笑う。
何事も楽しいことが大好きで、そんでもって自分も友達も大好きな木兎君だ。
そんな彼のお誕生日だと言うのなら、あまつさえ本人にお誕生日宣言されたのだから、これはもうお祝いするしかないだろう。
幸い、教室でのやり取りではプレゼントを持っている人には喜んで貰っていたものの、手ぶらの人にはお礼を言うだけで終わっていた気がする。
今の私はトイレに来ただけなので、勿論手ぶらだ。でも、誰よりも純粋で、ひたむきで、真っ直ぐな木兎君をお祝いする気持ちは、こちらも素直に届けなければと思った。
きちんと木兎君へ向き直り、ゆっくりと息を吸う。
「......お誕生日おめでとう。木兎君にとって、最高に楽しい一年になりますように」
「............!」
少し気恥しさを感じるものの、ゆるりと顔を綻ばせて素直な気持ちを言葉にのせた。
木兎君はその満月のような目を少しだけ丸くして、幾分か間を置いてからきらきら光る笑顔を返してくれた。
「おう、ありがと!」
「.......ふはっ」
あまりにも嬉しそうに笑うので、その可愛らしさにたまらずふきだしてしまう。
本当に素直な人だなぁと思いながら楽しく笑っていると、にこにこと無邪気に笑う木兎君から予想外の変化球を寄越された。
「.......で、日野は、俺に何くれるの?」
「.......はい?」
「誕生日じゃん?俺。何か、欲しいな~って」
「............」
にこにこと笑いながらも、どこかそわそわしている木兎君を前にして、思わず口を閉じる。
だって、教室ではプレゼントの催促なんてしてなかった。
だから多分こういった事態にはならないだろうと踏んでいたのに、あっさり覆されてしまうなんて。
「............」
「............」
「..........じゃあ、逆に木兎君、何欲しいの?」
「え」
内心、マジか~と思いながらも、一応本人の意向を聞いてみると、木兎君は自分から催促してきた癖にひどく驚いた顔を向けた。
その反応に首を傾げてしまえば、木兎君は余計に狼狽え始め、自慢のモノトーンの頭を躊躇いもなくガシガシと掻く。
「.......ちょ、ちょい待ち......まさか、そんな風に返ってくるとは思ってなかった......」
「え、いや、流石に限度はあるよ?お金無いし、シューズとかは無理だよ」
「や、それはもう大丈夫!この前ヒモ貰ったし!」
「そう......」
やたら本気で捉えられて、念の為最初に釘をさしておくと、木兎君はその逞しい腕を組みながらひどく難しそうな顔をしてじっくり考え込んでしまう。
「.......えー、と......」
「............」
「.......うー......んと......」
「............」
「.......あぁ~......」
いつも単純即決な木兎君がこんなに悩んでる姿は初めて見るなと思いつつ、めちゃめちゃ高価なものとか催促されたらどうしようとひっそり冷や汗をかいていれば、まるで私の気持ちを汲んでくれたようにお昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「!!!」
「あ、鳴っちゃった......じゃあ、とりあえず戻ろっか」
ナイスタイミング、とは口に出して言えないので、心の中で言いながら木兎君を教室へと促す。
「あ、......~~~~ッ!!ちょっと、待った!!」
「わッ!?」
先に足を進めていた私の腕を、突然大きな手が掴み、その勢いに負けて後ろによろめいてしまった。
驚きながらも何とか転倒することは防ぎ、一体何事だと木兎君へ顔を向けた、途端。
「プレゼント、決めた!」
「う、うん?」
元気のいい声で、そしてどこか緊張したような顔でそんな言葉を告げられ、その異様な雰囲気に思わず怒るのも忘れて相槌を打ってしまった。
「っ、俺とデートして!!」
「............!?」
勢いよく飛び出されたその言葉を理解するより早く、周りからわっと楽しそうな声が上がる。
忘れていたけど、ここ、三年の教室前の廊下だ。
木兎君と私のやり取りを見ていた梟谷生が面白可笑しくわいわいと盛り上がる中、至極真剣な顔で私の腕を離さない木兎君を前に、誰か助けてくれと打ちひしがれる傍ら......多分、この人からは絶対逃げられないだろうなと観念する自分も居た。
Happybirthday!!!Dear Bokuto!!!
(抱き締めたり、ちゅーとかは、まだ早いから...じゃあ、俺とデートして!)