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デフォルト:安住 晴【アズミ ハル】都内の印刷会社の営業部所属。
推しはMSBYブラックジャッカルの木兎選手。
最近の悩み:「いつか推しの印刷物の製作を担当したいけどなかなかチャンスが巡ってこないこと」
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出版社という年がら年中多忙な業界に身を置く高校時代の後輩から、珍しく連絡が入った。
スマホを確認すると、「お疲れ様です。今日の仕事終わり、飯行きませんか?」というメッセージが表示される。
どうやら、数日前の俺とのやり取りをきちんと覚えていて、律儀に連絡をくれたらしい。
こういうクソ真面目なところは本当に変わんないなと少し笑いつつ、その後輩......赤葦に「お疲れ。いいよ、何食いたい?」と返すと、向こうもスマホを触っているのか直ぐに既読がつき、「ありがとうございます。木葉さんはどうですか?俺は腹減ってるので何でもいけます」と送られてくる。
こいつの性格上、何か食べたいものがあればちゃんと主張してくるだろうから、今は本当に何でもいけるんだろう。
今日の昼飯と昨日の夕飯を思い出しながら、それと被らないもの且つ今食べたいものを少し考え、ふと思いついた食べ物を提案してみた。
【お好み焼き食いたい】
【採用です。駅近なところで検索します】
「ぶっはw速ぇw」
既読がついて秒で返ってきたメッセージに思わずふきだす。
相変わらず食に関してはすげぇ反応速ぇなと可笑しさに負けて一人で笑っていると、ものの数分で好条件なお好み焼き店のURLがいくつか送られてきた。
仕事が早いとは、まさにこういう奴のことを言うんだろう。決して食い意地が張ってる訳では無い。仕事が早いのだ。
【2コ目のとこがいい。広島焼きも食いたい】
【了解です。予約しておきます】
さくさく進めてくれる赤葦によく出来た後輩だなと改めて感心していれば、再び赤葦からメッセージがきた。
【人数どうしますか?この前言ってた木兎さんのファンの方、お誘いします?】
「!」
メッセージを読んで、そういやそんな話をしたなと思い出す。
まあ、誘うだけはタダかと思い、赤葦には「そうだな。声だけ掛けてみる」と伝えた後、トークアプリの相手を赤葦から最近出来た友達......アズとの画面に切り替えた。
【お疲れさーん。急だけど、今夜飯行ける?前言ってた赤葦と一緒なんだけど、よかったらアズもどう?】
【ちなみにお好み焼き】
メッセージの後に今夜行く予定のお好み焼き店のURLを添付する。
仕事忙しかったらこれ見るの後になっちまうかなと少し心配していれば、意外にも直ぐに既読がついた。
【お疲れ様です!え、お好み焼きとか行くしかなくない???】
「ぶっはw」
早々返ってきたメッセージに再びふきだす。
こっちは完全に食い意地が張ってる。
イケメン赤葦よりも真っ先にお好み焼きに食い付いてくるとか、未婚現在彼氏無しの成人女性がそんなことでいいのかとも思ったが、考えてみたら#アズは赤葦の顔を知らないんだった。
もしかして今夜、お見合いみたいな空気になったらどうしようか。
「.......ま、そん時はそん時だな」
ふらりと思考がふらついたが、お互いにいい大人なんだし、俺が間に挟まってどうのこうのすることも無いだろう。
特に深く考えることはせず、「仕事終わったら合流するので先に食べててください」というアズからの返信に「わかった」と送ってから、再度赤葦のトーク画面を開き「予約三人にしといて。時間はお前に合わせる」とメッセージを送った。
▷▶︎▷
仕事が終わり、赤葦と合流してから昼休憩中のやり取りで決めたお好み焼き店に入る。
この店はどうやら店員さんが焼いてくれるタイプのようで、とりあえずシーフード焼きと広島焼きを頼み、焼いてもらったそれを食いながらのらりくらりと世間話をしていた。
お互いの近況や仕事の話、その他諸々の話を、気の置けない関係ならではの緩いペースで喋り合う。
そんな中、話題はいつしかこれから来るアズの話になっていた。
「2対2の合コンで会ったんだけど、俺もあっちもぶっちゃけそこまで乗り気じゃなくてさ。で、たまたまバレーボールの話になって、そっから意気投合して仲良くなって。MSBYに推しが居るとか言うからてっきりミャーツムとかサクサだろうなって思ったのに、まさかの木兎でw」
「木兎さんのファンは女性の方も多いですよ?格好良いのに可愛いとか、普段と試合のギャップがいいとかよく聞きますし」
「まぁ、そうなんだけな?でも、こんなシチュエーションで木兎のファンに会うなんて思ってなかったから、俺も変にテンション上がっちゃってさw向こうも木兎の話出来るやつ求めてたみたいで、そっからもうずっとバレーの話か木兎の話しかしなかったもんだから、俺の先輩も向こうのツレの人も若干呆れてた」
アズとあった日を思い出しつつレモンサワーをあおると、赤葦は少し笑いながら「まぁ、そうなるでしょうね」と小さく零した。
その顔が何となく苦笑いに近いものに見えて、思わずその綺麗な顔をまじまじと眺めてしまうと、察しのいい後輩は直ぐに気が付き「何ですか?」と視線を寄越してくる。
「あー、いや......俺の勘違いだったら悪いんだけど、......もしや赤葦、あんまり乗り気じゃない?」
「え?」
「.......ぶっちゃけアズと会うの、ちょっと思うところがある感じ?」
「.......」
何となく気の付いた点を捉えて、推測の域で尋ねてみると、赤葦は少しだけ口を閉じてから、おもむろに箸を揃えて小皿に置いた。
「.......木葉さんて、ヒトのこと意外によく見てますよね......」
「いや、お前がそれ言っちゃう?」
「.......恋人が何か隠し事してたら、直ぐにわかるタイプでしょう?でも、木葉さんは優しいから聞こうに聞けなくて、一人で悶々と悩むタイプ」
「赤葦お前、さては酔ってんな?実はだいぶお疲れなんだな?」
キリッとした表情を保ちつつ、普段よりずっとおちゃらけた内容を口にする赤葦に確信めいた質問をすると、案の定「そこまで酔ってません」と生真面目な返答を貰った。うん、これは結構酔ってんな。
「.......別に、その方とお会いするのが嫌な訳ではないんです。木葉さんの印象が良い方なら、きっと楽しく話せる人だろうとも思いますし」
「.............」
お互い酒は程々の量しか飲んでいないというのに、酒の回りがいつもよりずっと速いということは、赤葦の身体が疲れているということだ。
そんな無理して都合付けてくれなくてもよかったのにと思っていると、赤葦は淡々とした口調で己の考えを話し始めた。
赤葦の体調は心配だが、普段色々と気を回してしまうこいつの素直な考えを聞ける機会もそうそう無いので、一先ずこの話は聞いておこうと思い口を挟むのはやめる。
アズには悪いけど、赤葦がもし負担に思っているようなら、今日は俺と赤葦だけの夕飯にしてもらおう。
「.......ここからは、本当に個人的な見解に過ぎないんですが......俺、木兎さんのファンの女性とは今まで何度か飲みに行ったことがあるんです。でも、暫く話してると、なぜか段々俺自身の話になってしまうことが多くて......」
「......あー......なるほど......」
「俺は、バレーの話や木兎さんの話を思いきりしたいんです。木兎さんが如何に格好良いかを語り合いたいんです。......なのに、俺のことを聞かれたり、全く別の話をされると、こう、モヤッとしてしまうというか......自分でも、狭量だとは思ってるんですが......」
大きなため息を吐きながら、赤葦は凛々しい眉を僅かにひそめ、自身の考えに呆れるように瞳を伏せた。
要は、木兎ファンの女性と仲良くなると、次第にその子が赤葦のことを好きになってしまうという話だろう。
赤葦自身は木兎やバレーボールの話をしたいだけなんだろうが、こいつの性格上、女性には特に紳士的な態度を取りがちだ。
元運動部、高身長でイケメン、気配り上手で紳士的、おまけに頭も良いとなりゃ、落ちない女の子の方がきっと珍しいだろう。
赤葦がアズと会うのを気にしているのは、そういうことだったのか。
「......ですが、今日はいいんです。木葉さんのお友達さんには、ご挨拶したいと思ってたんで」
「あ?なに、ご挨拶って」
「とりあえず、“俺が梟谷のセッターやってました”って、木兎さんと木葉さんのマウント取ろうと思ってます」
「ちょっと待てwお前相っ当疲れてんな?wお冷頼むからそれ飲んで帰れw」
「嫌です。まだネギ焼き頼んでません」
「お前本当そういうとこなw」
真顔で何を言い出すと思ったら、想像以上に面白い発言をしてきたので思わずふきだしつつもドクターストップを掛けると、食欲だけは通常運転らしく帰るつもりは無いらしい。
赤葦がいいならまぁいいけど、素面になってツライのは絶対にお前だぞと心配半分、愉しさ半分で赤葦のことを見ていると、この話はこれで終わりだとでも言うように赤葦は再び箸を取り、ソースの香ばしい匂いを携えるお好み焼きを大口で食べ始めた。
途端、ほんのりと幸せそうな色を浮かべる赤葦に釣られて、俺もおもむろに箸を動かす。
「ネギ焼き頼んでいいすか?木葉さん何か頼みます?」
「んー......烏龍茶とお冷」
「......いや、本当にまだ大丈夫ですよ。ヤバくなったらちゃんと帰ります」
「赤葦君は馬鹿ですか?ヤバくなる前に帰るのがオトナの嗜みですよ?」
「..............木葉さんだって、去年の暮れヘベレケになってた癖に......」
「あれは!どう考えても小見やんと木兎が悪いだろ!つーかお前も結構酔ってたからな!」
可愛い後輩を少しだけからかってやれば、赤葦は至極面白くなさそうな顔をしてぼそりと過去の話を持ち出してくる。
やっぱりコイツ可愛くねぇなと数秒前の意見をコロッと変えていると、テーブルの端に置いていたスマホが着信を知らせた。
着信音から直ぐに電話である事がわかり、相手を確認すると「安住 晴」という真新しい名前が表示される。
「あれ、アズからだ。ちょっとここで出てもいいか?」
「どうぞ」
もしや仕事で何かあったかなと思いつつ、赤葦に断ってからその場で通話ボタンを押した。
「お疲れ。どうした?」
《あっ、お疲れ様です!木葉さんごめん!仕事ちょっと事故っちゃって、今日泊まり込みになっちゃった......》
「げ、マジか......大変じゃん。少しは寝られんの?」
《ん゛ッ......それは、今からの頑張り次第かなぁ......最期にお好み焼き、食べたかった......》
「死ぬな死ぬなwリスケして今度また食いに行こうぜ。今日はそっち頑張んな」
《うん、ありがとう......!あ、あかーしさんにも、折角予約して頂いたのにごめんなさいってお伝えください》
「うん、わかった。また誘うな。あんま無理すんなよ」
じゃあ、また。そんな言葉で通話は終わり、耳元で聞こえていたソプラノが完全に消えた後、タイミングを図ったのだろう赤葦が「もしかして、お友達さんですか?」と聞いてきた。
「おう。なんか、仕事でトラブったみたいで、急遽泊り込みになったって」
「え、そうなんですか......あの、ちなみに何のお仕事をされてるんですか?」
「うん、印刷会社」
「う゛げ......それはまた、ご愁傷さまです......」
「ぶっはwマジかよw」
「え?」
アズが今日来られなくなったことを話しながら、聞かれたことにさらりと答えてやると、赤葦はいつぞやのアズと瓜二つの反応をしたので、たまらずふきだしてしまう。
「お前とアズ、なんか似てんだよな......」
「.......もしかして、顔とかですか?」
「いや、違ぇわw何でそっちに行くんだよw」
赤葦とアズの言動を思い返しながら、一人くつくつと笑っていれば、赤葦は更に笑かしにかかってきてそろそろ俺の腹筋が崩壊しそうだ。
というか赤葦みたいな顔の女子ってどんなだよと返しつつ、ここだけの秘密だからなと付け足してから先日スマホで撮ったアズとのツーショットを赤葦に見せる。
俺がアズの写真を見せるとは思わなかったのか、赤葦はその切れ長の目をきょとんと丸くした。
「ほら、全然似てないだろ?wお前が仮に綺麗系だとしたら、アズは可愛い系......」
「────まさか......うそだろ......」
「え?」
写真を見ながら赤葦に冗談交じりの説明をしてやれば、予想に反してひどく驚くその顔を見て、今度は俺が目を丸くする。
「なに、赤葦......もしかして、アズと知り合い?」
「.............」
「......おい、赤葦?」
「.............」
晴の顔を認識した途端、黙ってしまった赤葦に一体何がどうしたんだと戸惑っていると......暫くの沈黙の後、やっと発してくれた一言に更に混乱することになった。
この人の連絡先、教えてください。
(は?いや、だってお前、さっき、.......はぁ???)