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デフォルト:安住 晴【アズミ ハル】都内の印刷会社の営業部所属。
推しはMSBYブラックジャッカルの木兎選手。
最近の悩み:「いつか推しの印刷物の製作を担当したいけどなかなかチャンスが巡ってこないこと」
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「それでね、多分前に出過ぎちゃって、相手もそれに気付いて強烈なスパイク打ってきたんだけど、普通だったら腕で顔守ったりとかするじゃん?怖いし、危ないし、当たったらすごく痛いだろうし。でもね、その時あの人、自分の胸でボール上げたの。それで、ナイスレシーブ!って会場がわっと盛り上がって、やっぱりこの人超最高!ってなってね」
「ハイハイ、その話もう五億回聞いたから」
「じゃああと五億回聞いて」
「ウソでしょwそう来る?w」
今日はお昼休憩を会社の休憩室で取ろうと思いそちらへ足を向けると、たまたま他部署の同期の友達を見つけて声を掛けたら、一緒にお昼ご飯を食べることになった。
空いている四人がけのテーブルに向かい合って座り、お互いにお弁当を広げながら先日行ったバレーボール観戦の話をすると、彼女は眉を下げながらも可笑しそうに笑ってくれる。
「アズ、今流行りのアイドル育成とかあんまり興味無いって言ってたのにねぇ?」
「いや、木兎光太郎はすでに完成してるから。私はそのお零れに預かってるだけなので」
「え?でも試合見るのってタダじゃないんでしょ?ちゃんと貢いでるじゃん」
「別に貢いでない。何年も何年も練習して、その道のプロになった人達の真剣勝負を観るんだから、お金を払うのは当たり前」
「ふふwそうでしたか......アズのそういう考え、結構好きだよ」
相手との解釈の違いに堪らず言葉のメスを入れると、気の良い彼女は片手で口元を隠しながら笑い、私と目が合うとふわりとその目を優しく細めた。
......冗談で言っていることは分かるけど、貢ぐという言葉は正直そんなに好きじゃない。
個人的な見解に過ぎないけど、何となく押し付けがましい気がするからだ。
本来、貢ぐという言葉は相手に金品等を送り、生活を助けるといったような意味がある。
確かに、バレーボールの試合を誰一人見に行かなければ木兎光太郎は困るかもしれない。
でも、私一人が見に行かなくても木兎光太郎はバレーボールをするし、彼の生活も困らないし、いつも元気だ。
彼を助けるなんて大それたことを私が出来るはずも無いので、つい訂正してしまった。
「じゃあ、失言ついでに今夜はご馳走してあげよう」
「え、そんなのいいよ別に。そこまで気にしてないし」
「そ?じゃあ、普通にご飯行こうよ。そっちが定時に上がれたらの話だけど」
「行く!絶対上がる!」
思わぬ嬉しい展開にぱっと顔を輝かせてそう返せば、友達は「それ、帰れないフラグじゃんw」とまた可笑しそうにふきだす。
いや、今日は本当に上がるからと彼女に力強く宣言して、午後の仕事を超特急で終わらせる為にお昼ご飯をしっかり食べるのだった。
▷▶︎▷
「印刷業界も今大変なんじゃないですか?最近は電子書籍も多くなってますし」
「そうですねぇ。でも、実物の需要がゼロになる訳では無いと思うので、その小さな枠に入り込めるよう独自の魅力を見い出して、他社との差別化を図りたいとは常々考えてます」
「具体的には、どのようにして?」
「それをお話するとなると、うちと契約して頂けるという解釈になってしまうんですが...」
「うわ、上手いな~。おい木葉、どうする?契約しちゃう?」
「先輩が良いならいいんじゃないですか?でも俺、今後部長に聞かれたら“合コン中に取り決めてました”って言っちゃいますケド」
「おま、俺を裏切る気か!」
「サーセン、俺正直者なんでw」
お昼休憩の宣言通り、今日は無理やり定時通りに上がり、友達との楽しい女子会に胸を躍らせていた私だったが......彼女が策士だったことをすっかり忘れていた。
個室空間、四人がけのテーブル席には私と彼女が横に並んで座り、その正面にはスーツを着た歳の近い男性が二人同じように座っている。
.......ちょっと考えれば、そういう兆しはあった。
仕事から上がった私の髪と化粧を整えられて、「ちょっと雰囲気のいいお店予約しちゃったから、ちゃんと可愛くしよ?」と話してきた友達は、とても可愛く笑っていた。
元からよく気の回る彼女だからお店を予約してくれたのは全然不思議ではなかったけど、あの可愛い笑顔には今まで何度もしてやられてるのに、どうして今回もすっかり騙されてしまったんだろう。
女子会だと思ってたのに、気が付いたらエーアガイツ製薬の殿方との2対2の合コンになっていた。
「安住さん、何か飲みます?」
「あ、ありがとうございます。じゃあ生......じゃなくて、シャンディガフお願いします」
この大嘘吐きめとひっそり友達を恨みながら、気を利かせて飲み物を聞いてくれた今回の合コン相手、製薬会社の木葉さんの言葉に慌てて笑顔を浮かべる。
......何はともあれ、騙されてしまったのだからもう仕方ない。文句を言うのは後にして、ここは空気を読んで楽しんでしまおう。ご飯も美味しいし。
「でも、忙しさならそちらの方がずっと大変なんじゃないですか?一時期、色んなお薬が根こそぎ薬局から無くなりましたよね......解熱剤とか、鎮痛剤とか」
「確かに。近所のスーパーとかも品切れしてたよね」
「あぁ、そうそう。あの時はマジで大変で。生産全然追いつかないのに受注だけはどんどん増えてって、もう一生分くらい働いた気がする」
「結構何日も家帰れなくて、ストレスとの戦いでしたよね」
「そうだったなァ......でも、俺よかお前のがキツかったんじゃねぇの?あの間、バレー全然出来なかったじゃん」
「えッ!?」
「え?」
日本だけでなく、世界規模で拡がった薬剤の飢饉を話に出したところで、思いがけないワードが出現した為に思わず過剰反応してしまった。
素っ頓狂な私の様子に、男性二人は当然目を丸くする。
「あー、コイツ、社会人バレーやってんですよ。あ、ボールの方ね」
「あ、いやまぁ、趣味の範囲ッスけどね」
「おいおい、謙遜すんなよ~。春高バレー、準優勝したんだろ?日本2位のチームでお前、スタメンだったんだろ?」
「いや、あー、まぁ、そうなんですけど......そん時のエースがめちゃくちゃ凄ェ奴だったんで、俺が特に凄かった訳ではないんですよ」
「木葉さん、この子、今バレーボール観戦にハマってるんですよ。ね?」
「あ、うん......」
「え?」
「おお、そうなの?やったな木葉!」
二人の会話を半ばぼう然と聞いてると、友達がさり気なく話を振ってきたので、ぼんやりとしたまま頷くと木葉さんはまた軽く驚いたような顔を向けた。
しかし直ぐに人当たりの良い笑顔に戻り、私の話を繋いでくれる。
「あー、どこのチームが好きとかあるんですか?ていうか、バレーやってたとか?」
「あ、いえ......バレーボールは全然やった事ないんですけど......あの、大阪の、MSBYブラックジャッカルが好きで......」
「えッ、マジで?」
「え?」
まさか初対面の男の人と再びバレーボールの話をするとは思わず、何となくそわそわとしながらも推しのチームの名前を口にすると、またもや驚いたような反応を示され、たまらず首を傾げてしまった。
「あー、えっと、なんで大阪のチームなんですか?生まれが関西とか?」
「......いえ、そういう訳でもないんですけど......」
「アズの推しが居るチームだからだよねぇ」
「っ、ちょっと!!」
木葉さんとの話にどう話そうか考えていると、隣に座る彼女が身も蓋もない発言をさらりとかましてしまい、咎めるように声を上げると丁度店員さんが飲み物を持って来た。
恥ずかしくなりながらも先程頼んだ飲み物を受け取り、それを一口飲んでから再び彼女の方を睨む。
「その話、今しなくてもいいでしょ......!」
「え、なんで?折角共通の話題見つけたんだし、今するしかないでしょ?」
「推しとか居るんだ?木葉ならわかるだろうし、語ってくれて全然構わないよ」
「......まぁ、そっすね。MSBYなら控えの選手まで全員わかりますよ。Vリーグ、俺も好きなんで」
「.............」
彼女の言葉を発端に、あれよあれよと話が進み私の推しのことを話す空気みたいなものが整えられてしまった。
少なくとも、合コン中に話すようなことでもないと思うんだけど......お相手の殿方が語っていいと言ってくれてるので、ここは素直に乗っかった方が吉だろう。
「.......あの、語ると止まらなくなるんで、キモいと思ったら素直にキモいと言ってくださいね?」
「何その前置きwウケるw」
「どうぞどうぞw存分に語ってくださいよw」
深呼吸を一つしてから念の為諸注意を口にすると、二人とも可笑しそうにふきだした。
まぁ、正直なところ今は別に恋人が欲しいと思ってないので、お二人にどう思われてもそこまで気にはならない。
.......だったら、まぁ、いいか。
私の中の、無難に可愛くしておこうスイッチがゆっくりとオフになった。
「......木兎光太郎が、すっごく好きなんです」
「マジか!木兎推し!?ミャーツムとかサクサとかでもなく?あの元気球?」
「っ!はい!あの元気なところ、めちゃくちゃ好きで!一目惚れでした!」
「おー、マジか~。木兎めちゃくちゃ上手いし、強いし、うるせぇけど超格好良いよなァ」
「何よりすっごく楽しそうにバレーしてるのが本当に大好きで......!見てるだけでこっちも元気になるというか、心がスッキリするというか」
「あー、わかるわwアイツのスパイク決まった時とかスカッとするよな」
「そうなんです!あの爽快感本当に堪んない......!ボクトビーム打つ為に、私毎日の仕事頑張ってるんだと思う......!」
「マジかwそりゃすげぇやw」
私の話にノリの良い木葉さんはどんどん乗ってくれて、キモいとストップを掛けられることもなく、二人でわいわいと木兎光太郎の話で盛り上がってしまった。
どうやら木葉さんもだいぶ木兎光太郎に入れ込んでいるようで、今まで見に行った試合の話とか、珍プレー好プレーの事細かな話をバレーボール選手目線でしてくれるので、夢中になってその話に耳を傾けてしまう。
元々人当たりの良い方で話しやすかったこともあり、そして何よりも大好きな木兎光太郎の話で一緒に盛り上がってしまったので、この合コンが終わった後に木葉さんとは連絡先を交換して、また一緒にご飯行こうという軽い約束だけして別れた。
向こうはもしかしたらリップサービス的なものかもしれないけど、私としては折角木兎光太郎の話を本気で出来る人なので、是非ともまたお会いしたいし、あわよくば友達になりたいと思ってる。
お互い都内住みだし、何とかして交流を続けていくにはどうするべきかと帰りの電車で頭を悩ませていれば、渦中の人物からメッセージが届いた。
【今日はすげぇ楽しかった。まさか木兎推しと酒飲めるとは思ってなかったしw安住さんが良ければ、またご飯行こう!帰り道、気を付けてな】
そんなメッセージと共に送られてきたスタンプは、MSBYブラックジャッカルのマスコットキャラクターであるジャカ助が手を振っているもので、その可愛らしさと嬉しさに思わず小さく笑ってしまった。
これを持っているということは、やっぱり木葉さんも大分MSBYブラックジャッカルを推しているということだろう。
【今日はありがとうございました!めちゃくちゃ楽しかったです!また木兎光太郎のお話させてくださいwぜひご飯行きましょう!木葉さんも、気を付けて帰ってください】
そう返信して、私も自分のジャカ助スタンプを送ると、直ぐに既読がついた。
【やっぱりそれ持ってたかw】
【当たり前じゃないですか。今度キーホルダー買う予定です】
【木兎もそれ、持ってるよ。家鍵に付けてる】
「え?」
木葉さんとのやり取りに、思わずスマホを打つ指が止まり、目を丸くする。
何でそんなこと知ってるんだと一瞬不思議に思ったものの、もしかしたら私の知らない宣伝用のSNSとかで写真載せてたのかなと思い直し、じゃあ私も買ったら家鍵に付けようかなとオタク魂を炸裂していれば、ぼんやりとしていた私の返信が追い付く前に木葉さんからのメッセージが連投された。
ポンポンポンと立て続けに送られてきたそれにびっくりしながら、一体何事かとメッセージの文字を追うと......あまりにも有り得ない事態に、ほろ酔いだった思考回路が一気に覚醒する。
【これ、話そうかどうしようか迷ったんだけど、安住さんを信用して、ぶっちゃけます】
【俺、木兎と同じ高校で、同じチームでバレーやってました】
【高校の時に春高準優勝したって話した時、凄ぇエースが居たって言ったじゃん?あれ、木兎なのよ】
偶然にしては出来過ぎる
(ちょっと待って、ウソでしょ......ちょっと待って!?)